ポッポマンは融合する

『リキッド!もっと全速力で船を動かせ!俺たちが市街地に入れば、爆撃もだいぶマシになるはずだ!』


 大量の無人戦闘機が銃口を向けようとする中、涙製のボートが速度を上げはじめる。


 ヴォオオオオオオオオオ……


 サイコが手を後ろに向けて風を起したことで、更にボートの速度は上がり時速30kmまで一気に上がっていく。


『カンダダンガン!』


 バシュバシュバシュン!


 ワイヤーが戦闘機に向かい、次々と糸を放っていく。


 しかし、無人戦闘機は飛行型ボーンロイドとは違い、きちんとしたエンジンで動いてたため、糸に絡まっても墜落には至らない。


『……こうなれば、加速して逃げる方向性でいこう』


 ウルウルウル……カラララランッ


 サイコの風のおかげで運転しなくてもよくなったリキッドが涙を大量に流し、それを固めて船をこぐための棒ことオールを3人分作り出す。


『これあげるから、キミたちもこいで!』


 オールを渡されたモブ3人はすぐさま船をこぎ始めた。


『ま、まずいまずい!ミサイルが大量に!』


 それでもなお、最高時速500キロの無人戦闘機から逃げきることはできず、容赦ない空撃が迫ろうとしていた。


 空撃に関しては、不完全な眷属であってもなんとか耐えられる量ではあるのだが、涙製ボートが耐えられる保証はどこにもない。 

 

 ヴォオオオオオオオオオオオオンッ!


『ぐっ……ちょっと私も疲れてきましたね』


 サイコがなんとか風で押しのけるも、彼の体力も確実に消耗しつつある。


『ここから四州まではまだ約10kmもある……今の速度では20分かかるぜぇ。大将、どうしますかい?』


 スラッシュがポッポマンに判断を求める。


『どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……」


 ポッポマンは焦っていた。


 彼が持つ膨大なスタミナがあれば、単独で泳ぎ切るという選択肢もあるだろう。


 しかし、今は仲間たちも船もある。


 考えなければいけないことが、多すぎる。


 ポッポマンは結論を出せないほどに、迷い、苦しんだ。

 

 そして、彼の意識が心の奥底まで持っていかれた。




■□■□■□■






『キミにもまだ……誰かの命を案ずる心が残っているんだね』


 僕は気が付けば、2分の1しかない公園の形をした精神世界へと迷い込んでいた。


 前回同様、右半分だけになったポガステアがそこにいた。


『無人戦闘機をどうにかしたいんだね』


「ああ、どうしよう……どうしよう……どうすればあのクソジャマな鉄クズどもをぶっ壊せるんだ!?」


『落ち着いて……落ち着いて……キミの胸にある口で仲間を飲み込めば、一時的に仲間と融合してパワーアップできる。それでどうにかなるはずだよ』


「僕の殺しを咎めたクセに、共食いは推奨するんだ」


『いや、食べるんじゃない。飲み込んで、しばらくしたら吐き出すんだ。吐き出されたキミの仲間に悪影響とかはないよ』


「まるで……高校入りたての僕みたいなことするんだな」


 僕は高校入りたての頃、僕は叔母を心配させないために無理して朝食を食べ、学校のトイレで吐いていた。


 ああ、思い出しただけであの高校が憎くなってきた。


 上陸したら再起不能になるくらい壊そうかな。


「じゃ、そろそろ行くわ」


『……殺しはできるだけ控えてね』


 俺はポガステアの公園を抜け出す。


 意識が現実へと連れ戻される。




■□■□■□■






『スラッシュ!あの手短な岩場に俺と共に乗り移ろう!オマエらは先に陸を目指せ!』


 ポガステアとの対話を終えたポッポマンは指示を出したあと、スラッシュと共に涙製ボートから手短な岩場に移る。


 この人選は、スラッシュが約10キロを確実に泳げることが理由であった。


『スラッシュ!』


『なんだ!』


 ガシッ!


 ポッポマンがスラッシュの胴体をしっかりと掴む。


『ごめん!後でしっかり吐き出す!』


 ガバッ!


 ポッポマンの胸の口が大きく、大きく開かれる。


 ゴックン……ゴクッ!


 スラッシュの身体が胸にある口の中へと消えていく。

 

『ンギイイイイイイイイ!』


 カラカラカラァン……


 突如、ポッポマンがサナギに覆われる。


 ゴウタがスラッシュになる時よりも、ダンがポッポマンになる時よりも、はるかに大きなサナギが顕現し、そして崩れていった。


 中から現れたのは、いつもとは違う姿といつもより強い力を備えたポッポマンであった。


 普段は左半分が内部むき出しになっている胸の顔も、スラッシュの顔のような形の仮面で覆われ、体表の一部もスラッシュと同じ色になっている。


 さらに、スラッシュの超感覚と刀みたいな尻尾もきちんと持ち合わせている。


『いいじゃんこの姿……!言うならば、スラッポってとこか!』


 ダンは幼少期に読んだ漫画の似たシチュエーションを思い出しつつ、融合した自分の姿に名前を付けた。 


 なお、意識は全然融合しておらず、ダン1人でこの身体を動かしている。


『んじゃ、行くか!』


 ブチッ!


 スラッポがスラッシュ同様に尻尾をちぎり、刀のように持つ。


『感じる……感じるぞ!上空にいる無人戦闘機の数も位置も!これが超感覚ってやつか!今なら、全部ぶっ壊せる!』


 バシュッーーーー!

 

 ジャン!ジャン!ジャン!


 スラッポが刀を振るうと、そこから斬撃のようなビームが出て無人戦闘機の機体を傷つけていった。


 これは、スラッシュの刀にはない能力である。


『うう!堅い!硬い!イライラする!さっさと壊れろ!』


 しかし、無人戦闘機はすさまじく頑丈な特殊金属であるマテリウム製だったため、1撃2撃程度では堕ちなかった。


 バシュッ!バシュッ!バシュッ!


 ズッドーーーーーン!


しかし、さすがに5発以上は耐えられなかったらしく、無人飛行機は次々と海へ堕ちていき始めた。


 ズドン!ズドン!


『さてと、そろそろボートを追っている戦闘機も片付けるかねぇ!』

 

 多くの無人戦闘機が墜落する中、スラッポはわざとスラッシュに似せた口調で独り言を言いつつ、遠くにいる無人戦闘機を補足した。


 そして、これまでよりも全力で力を込めて、居合いの姿勢を取った。


『遮断斬!』


 技名と共に、スラッポはこれまでよりも大きく威力の高い斬撃ビームを数キロメートル先の無人戦闘機へと浴びせる。


 ズドーーーーーン……


 ズドドーーーン……


 しばらくすると、戦闘機が数機ほど墜落したような音が遠くから聞こえてきた。


『……あとはもう撤退しやがったか』


 周辺の海域に無人戦闘機がいなくなったことを察知したスラッポは、融合したまま仲間たちが上陸した浜辺へと泳いでいった。

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