バケモノは1匹だけじゃなかった
「ひとまず、3月1日の早朝に起きた厚山市一家惨殺事件も現場の様子からしてポッポマンの仕業と見ていいでしょう」
3月2日午前、警視庁ボーンロイド隊によって違う部署の警察官も集めたリモート会議が行われた。
その中で、警視庁ボーンロイド隊の隊長兼四州エリア担当である出水タロウが自身の見解を述べた。
ポッポマンが四州にある厚山県立憧憬高校の卒業生を喰い荒らす直前、近くにある一家が惨殺された。
一家は世帯主である
3月1日の早朝、箱根一家の近所から『近くの家で人間の悲鳴と暴れるような音が聞こえた』という通報が警察に入った。
警察が箱根家に入り調べたところ、何者かに引き裂かれた状態の肉塊がいくつも見つかった。
調査の結果、肉塊は成人男性1人と成人女性1人の遺体の一部であることが判明した。
「つまり、あなたはポッポマンの正体が唯一遺体が見つからなかった箱根ダンだとでも言いたいのか」
ボーンロイド隊の副隊長兼九国エリア担当である鈴鹿ハナが、結論を急ぐ。
「いえいえ、そんな早とちりはしていません。ポッポマンがダンを誘拐した可能性や完食した可能性だってありますからね」
「そうか。全部喰われた可能性もあったな」
「とにかく、ここは慎重に『ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!出動要請!出動要請!ポッポマンと思わしき存在出現!』」
リモート会議中、出水の声を出動要請のサイレンが遮る。
「急用なんで、俺は先に失礼しますっ!」
出水は勢いよくリモート会議を抜け、ボーンロイド操作室へと走り抜けていく。
操作室に着いた出水は、遠隔操作用のヘッドギアを頭にかぶり、両手にコントローラーを持ち、臨戦態勢に入った。
厚山市中心部にある温泉街にて、ボーンロイド隊とバケモノ1体が対峙した。
『おい……なんか先日と姿が違うんですけど!?』
出水がボーンロイドのカメラ越しに見たバケモノの姿は、あきらかに先日とは別物であった。
顔には目がなく、胸には顔がないかわりに甲冑を付けており、先日はなかった刃物のような尻尾が尻から生えていた。
そして、先日よりも明らかに細身で挙動には落ち着きがあった。
『オレはポッポマンじゃねえ。スラッシュと呼んでくれ』
『スラッシュ……あなたには先ほど近くで起きた殺人事件の容疑がかかっています。よければ署まで来てください!』
出水の機体が他のボーンロイドと共にスラッシュに銃を向けつつ、同行を促す。
『おいおいおい……オレはまだ身内以外は傷つけてないんだぜ。だから、見逃してくれないかい?』
『……身内は殺したんですね。』
『ああ、目に障害があるからと俺を冷遇し双子の妹ばかり優遇した邪悪な両親は、原形が残らないくらい潰したさ』
『ぐっ、殺人を正当化しないでくださいっ!あなたの行為は、社会的に許されませんよ!』
『いいんだよ……俺を守ってくれなかった社会に頭を下げる気なんて、ないんだから』
ブチィ!
そう言うと、スラッシュは自分の尻尾を引きちぎり、そのまま剣のように右手で握った。
『ブタ箱なんかに入る気はないねぇ!』
ジャキーーーーンッ!
スラッシュは目の前にいたAIが操作するボーンロイド数体を切り伏せ、そのまま高速道路の自動車のような速度で走り始める。
『総員、追いましょう!』
『『『かしこまりました』』』
出水の指示により、軽装備のボーンロイドたちがバケモノを追撃し始める。
ジュドオオオオオオ……!
追いかけられない重装備のボーンロイドが、追尾式ロケットランチャーでスラッシュを狙う。
『残念だったなぁ。オレは
ズドーーーン!
しかし、スラッシュへの攻撃ポッポマンにマシンガンを撃ったときと同様、身体をすり抜けていき、近くの壁へと衝突した。
『……邪魔だ』
ジャッキィーーーーーン!!
バケモノの後ろを追っていた軽装備ボーンロイド5体が、一度に横真っ二つにされる。
『残念だったな、人間。もうオマエの機体はオレを追えないぞ』
そして、その中には出水が操作している機体もあった。
(さて、そろそろ警察もオレを見失ったかな)
ボーンロイドを切り伏せてから数分後、スラッシュは山奥に向かおうとしていた。
スラッシュには、主のポッポマン譲りの無敵の力以外にも彼独自の能力が備わっていた。
それは、第六感で周囲の状況や遠くにいる同胞の位置を把握できる能力『超感覚』であった。
彼はその力のおかげで、自らに力を与えてくれたポッポマンの位置をすでに把握していたのだ。
(このまま遭遇して、変に警戒されたらいやだし人間の姿に戻るか)
スラッシュは誰もいないことを確認した後、サナギを経由して人間に戻った。
そこには、白い髪とオレンジ色の目を持ち、サングラス型の視力補助器具を付けた長身の少年がいた。
「……早く妹もこの手で殺したいなぁ」
彼の名は鎌倉ゴウタ。
鎌倉ネリの双子の兄である。
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