目覚める眷属たち

 昔むかし、あるところに箱根ダンという小学三年生の男の子がいました。



 ダンは少し変わった子でしたが、よい友達がいたおかげで毎日楽しく過ごしていました。



 ある日、彼はいつも友達と遊んでいる公園で、異星より飛来した四次元生命体と出会いました。



 ダンは、弱り切っていた四次元生命体に対し毎日優しくお世話をしていました。



 しかし、四次元生命体は三次元世界に上手く馴染めず、ついに息を引き取ってしまいました。



 死の直前、四次元生命体は「9年くらいしたら、キミの力になるよ」と言い残し、自分を世話してくれた人間に力を譲渡しました。


 

 そして、9年後の春。


 

 その力は人を殺すために使われました。




■□■□■□■




『現在、ポッポマンによる死者は300人を超えており身元が判別不可能な遺体も数多くあります』


 病院の待合室にあるテレビが、ポッポマンが起こした被害について淡々と報道し続ける。


 ポッポマンが憧憬高校から立ち去ってから、私たち生存者は病院へと運び込まれた。



 結局、生き残った同級生は私を含めて13人のみであった。


 鎌倉ネリのように重傷を負った者もいれば、別クラスの山崎ツユみたいに真っ先に逃げて隠れたことで無傷ですんだ人もいた。


 私は目立った外傷がなかったため、病室に入れられることはなく、親が迎えに来るまで待合室で待つことになった。


 幸い、卒業式に参加していなかった下級生は巻き込まれなかったものの、教員の大半はポッポマンの犠牲になった。


 生徒や先生の遺体は、近くにある別の高校に運び込まれて保管されているらしい。


 正直、とても怖い。


『キミを迎えに行く』というセリフが、頭の中からこびりついて離れない。


「丸山さん、たった今集中治療室の入室許可が貰えたので行きましょう」


「……はい」


 私は病院から帰る前に、ひとつやっておきたいことがあった。


 それは、ネリと顔を合わせることであった。


 ネリは最初にポッポマンにぶっ飛ばされたことで攻撃対象から外されたのか、幸いにも追撃を受けることがなかった。


 しかし、壁に背中をぶつけられたことで負った大怪我により、生死の境をさまよっている状況なのだという。


 最後になるかもしれない。


 そう思い、私は彼女に会いたいと看護師さんにお願いしたのだ。


 


「あっ……リンちゃんだぁ……」


「ネリちゃん!」


 入室した私を見たネリが、かすれるような声で私に話かける。


 室内に儚い心電図の音がこだましている。


「ごめんね……心臓……止まり、そうなんだ。だから……リンちゃん……わたし、の手、握って……」


「……わかった」


 私はネリの手を両手で握り、いるのかどうかはともかく、神に祈った。


 (どうか、ネリちゃんの命を助けてください。私はネリちゃんに生きていてほしいと心の底から願っています)


 私は眼を閉じ、ただネリの安泰を祈った。


『ピ……、ピ……、ピッ、ピッ、ピッ』


 しばらく手を握っていると、私の願いが通じたのかネリの心電図の音が安定し始めた。


「じゃあ、そろそろ帰るね」


「うん、バイバイ」


 私は少し安心しつつ、集中治療室を後にした。




■□■□■□■




 その晩、とある山奥から大量の煙が放出された。


 煙を吸った者は、誰かに『俺の眷属になってすべてが思い通りになるほどの力を得ないか?』と誘われる夢を見たという。




 翌3月2日、その誘いに乗った2人はバケモノに変身する能力を得た。


 そして、2人ともその力で己の肉親から命を奪った。

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