バケモノは無敵であった

『こちら出水太郎、対象をカメラ内にて補足!対話を試みます!』


 3月1日、憧憬高校の玄関にてポッポマンはボーンロイド部隊に遭遇してしまった。




 今から5年前、プログラマーの四木村啓助しきむらけいすけとその妻である四木村漆しきむらななによって革新的なAI搭載ロボットが開発された。


 そのロボットは、必要最低限の骨格と各種センサーで構成され、人間による遠隔操作を通じて学習することであらゆる職業に適応することができた。


 まるで棒人間のようにもガイコツのようにも見えるスレンダーな骨格から、そのロボットはボーンロイドと名付けられた。


 そして今、生身の人間だと危険な仕事はAIと人間が動かす人間サイズのボーンロイドによって行われることが多いのだ。


『……どいてよ。俺は今、復讐を済ませてスッキリしたところなんだ』

 

 ポッポマンがボーンロイドたちに不快感を示す。


『なぜ、こんなにも人間を殺したのですか……』


 警視庁ボーンロイド隊の隊長である出水太郎がボーンロイド越しに問いかける。


 ポッポマンの周囲には、人間の残骸が血だまりと共に散乱していた。


『コイツらが俺の人生を奪ったから、やり返した……クソッ!クソッ!なんであの時俺が落ちてオマエらが受かったんだよっ!』


 グシャッ!グシャア!


 ギリギリ生前の形をとどめていた遺体を、ポッポマンは八つ当たりで何度も踏みつけミンチ肉へと変える。


『落ちた……ってことは、あなたはもしかして人間なのでしょうか』 


 出水太郎が核心に迫った質問をした。


 


 今から1時間前、『住宅街の屋根を超高速で走る謎の存在を見た』という通報が警察のもとに複数件届いた。


 警察はそれをロボット兵器と仮定し、ボーンロイド隊に出動を要請することになった。


 出水も当初は、ポッポマンのことは多少生物感があるもののロボット兵器だと考えて接していた。


 喋れることに関しても、内部に搭載されたAIがしゃべっているのだと思っていた。

 

『なぜ、そんなことを聞く』


『……まるで、かつて自分がこの高校を受験して不合格になったかのような口ぶりだったからです』


『……』


 ポッポマンは一瞬だけ黙り、次の瞬間。


『違う!俺は人間としてロクデナシでデキソコナイだぁ!みんな俺を人として扱わなかった!だから、俺は人間じゃないんだぁ!アグァーーーーー!』


 癇癪かんしゃくをおこし、暴れ始めた。




『俺はアイツらなんかに負けていないっ!俺はアイツらを喰った!紛れもない大勝利だあああああ!!』


 八つ当たりで玄関の下駄箱を壊していくポッポマン。


『激しい暴力行為を確認。銃撃を開始します』

「「「ズダダダダダダダダダッ!」」」


 出水の配下であるAIが操作するボーンロイドたちが一斉にマシンガンを連射する。


『俺は無敵のバケモノなんだ!人間ごときが作った武器で殺せると思うなっ!』


 しかし、銃弾はすべてポッポマンの身体をすり抜けていくように地面に堕ちていった。


『なっ……どうなってんだっ!』


『さあなっ!神が傲慢なヒトカスを罰するためにくれた力だったりしてなぁ!』


『ざっけんなぁ!』


『ふざけているのはオマエらだろっ!』


 ガッシャアアアアアアアン!


 ボーンロイド3体がポッポマンの腕に弾き飛ばされ大破してしまう。


『撤退しまs』


 バッシィーーーーン!!


『させるかよボケェ!』


 逃げようとしたボーンロイドを両手を握り合わせて握りつぶす。


 バッシイイイイン!


 ブチッ!ドンッ!


『ヒャアアアアハハハッ!まるで無双ゲームみたいだぁ!』


 無邪気かつ邪悪な笑い声をあげながら、ポッポマンは次々とボーンロイドを壊していく。




『……今日はもうこのくらいにしとくか』


 バシュンッ!


 ほぼすべてのボーンロイドを修理が必要な状態かスクラップにした後、ポッポマンは時速320kmで憧憬高校を去った。


 その様子は、頭部が無傷だったボーンロイド数体によって記録され、警視庁に共有された。


 そして、10分くらいかけて整備されていない山の中腹にたどり着いたポッポマンはミイラにも似たサナギになった。


 サナギはすぐに役目を終え、中からは紛れもない人間が出てきた。


 眼にはクマがあり、髪の毛は黄土色に近く、性別は男であった。


「ここから取り戻すんだ。僕の人生を……圧倒的な暴力で」


 彼の名は箱根ダン、18歳である。


 そして、ポッポマンである。

 

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