平穏な日々が……
父が老健施設に入所して数日後、姪と2人で初めて面会に行った。
病院と同様、居室には入れないが、みんなが食事をしたりする共有スペースの隅に面会用のテーブルが用意されていて、そこに案内された。
入居者さんたちは、リハビリや食事以外の時間でも、動ける人は共有スペースで過ごすようで、父もその中に座っていた。
私たちが手を振ると、手を振り返してくれた。ご機嫌なようだ。
面会用テーブルに連れてきてもらった父は、せん妄もなく穏やかで、元気そうだった。
当時は1月だったので、寒くないかと聞くと、寒いという。暖房は効いているのに、相変わらず寒がりだと思っていると、共有スペースのテーブルは固定席で、父の席が窓際だから、背中から冷気がくるらしい。
ヘルパーさんに声をかけ、入所用に用意した新しいニットのカーディガンを部屋から持ってきてもらった。袖を通した父は、これはいいとご満悦。
やはり、病衣のまま、リハビリ以外は終日病室で過ごすよりも、ちゃんと洋服に着替えさせてもらって、昼間は共有スペースで過ごすという、より日常の生活サイクルに近い暮らしが、心身ともに平穏を取り戻したのだろうか。
姪と私は安心して、施設を後にした。
が、この後10日も経たないうちに、父に異変が起こるとは、この時の私たちは知る由もなかった。
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