筋力も気力も……

 高齢者が入院すると、せん妄や認知症のほかにも、筋力低下が問題になる。

 入院をきっかけに寝たきりになってしまう人も多い。そうならないように、病院では治療に支障がない限り、並行してリハビリも始めてくれる。


 入院して2週間が過ぎ、CRPの数値は下がってきたものの、筋力低下は否めない。

 毎朝30分ほど我流の体操で手足を動かしてから起き出し、週3回のデイケアでリハビリをこなし、迎えのバスを待つ間もひとりスクワットをしていた父も例外ではない。

 リハビリは始まっていたが、一度落ちた筋力はそう簡単に元には戻らず、車椅子のお世話になっていた。


 はじめは苛立ちで、怒り口調でかかってきた電話も、いつまで入院が続くのか、まだ帰れないのかと嘆くようになってきた。


 入院したのが12月半ば。父は退院できなくても、せめて年末年始は外泊でもいいから帰りたいと言ったが、とてもそんな状態ではなかった。


 私はひとり、年末から実家に帰っていたが、深夜に父から電話がかかってきた。

 いつも以上に自分の身を嘆き、どうして帰れないんだと訴える。挙げ句に、息を止める薬はないのか、もう死にたいと、声をあげて泣き出した。


 私は一瞬言葉を失った。姉が亡くなった時も、母が亡くなった時も、人前で涙を見せなかった父が子供のように泣いている。

 そんなことは言わないでとなだめながら、私は動揺して、どうしたらいいのかわからなかった。

 そばにいれば、手を握ることも、体をさすってあげることもできただろうに、電話では何もできない情けなさと、この先、父はどうなってしまうのかという不安で押し潰されそうだった。

 どうにか落ち着かせて、電話を切った私は、ひとり大声で泣いた。

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