せん妄? 認知症?

『老いてもナース』にも書いたが、高齢者が入院すると、体調や環境の変化で、せん妄がでやすい。

 母のせん妄を経験しているとはいえ、父のせん妄は母と違って激しかった。

 あまりの急激な体の変化に、情けない思いや苛立ちが募るのだろう、毎日のように電話がかかる。


 私の職場では私用携帯は使えない。上司に状況を伝え、特別に許可を得て携帯をチェックしていた。病院からの電話には、すぐに離席して折り返すが、父からの電話は、休憩時間に折り返す。

 すると大抵、持ってきてほしい物の連絡。

 しかも、前に鉛筆がほしいというから持って行ったのに、鉛筆では書けないんだからペンを持って来いと怒る。

 以前持って行ったものが見つけられず「ない」と苛立つ。

 私が父の家にいると思い込んでいて、机の上にある「それ」を持ってきてとか、何のことかさっぱりわからない……。


 あげくに財布がない、引き出しのカギをかけ忘れたことがあったから盗まれたかもしれないと言いだした。

 財布は入院時に私が持って帰っていたし、父にもその場で伝えていたのに……。

 もう、せん妄どころじゃない、とうとう認知症かとショックだった。


 相変わらず面会は禁止だから、何かを持っていく時には、必ず手紙をつけていたが、読めているのかもわからない。

 あれこれ言われても、直接見せて説明したり、持ち物を探すこともできない。

 さすがに看護師さんに頼むのも気がひける。


 父も辛かっただろうが、苛立ち、混乱している難聴の父に、電話でしか話せない不安ともどかしさ。

 仕事が多忙だったこともあり、私はどんどん疲弊していった。

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