襲撃

「ぐふふふふふふ。ようやくロサちゃんが僕のものに」


「解放してください」


「そんな睨むような眼をしないでよ。ほら、いつものかわいい笑顔は?」


 ジロウは下品な笑いと共にとらわれているロサの恵まれた身体をなめるように眺める。


 部屋は目が痛くなるように金色の家具や装飾で染められており、ジロウの趣味が前面に出ていた。


「旦那、はたから見て気持ち悪いでっせ。あとなんで椅子に座らないんで?」


「ガージス、誰に気持ち悪いと言っている、と本来は怒鳴りつけているだろうが今は気分がいいからな。不問にしてやろう。……座らないのはダイエットだ。決して痔とかじゃないからな。本当だからな」


「はいはい。わかってるでっせ」


 ジロウと共にいるガージスは白いシャツに黒いズボンとパッとしない服装をしている。


「何をするつもりですか」


「そりゃ、ナニですよ。デュフフフフフ」


 ロサはジロウの言葉により一層顔をしかめる。徐々に伸ばされる汗ばんでいる手から逃れようと体をひねるがつながれた鎖がそれを許さない。


「失礼します!!」


 ロサの体にあと一歩という時、突然扉から大慌てでジロウの従者が飛び込んできた。


「お前!! 僕のお楽しみタイムを邪魔するとは何事だ!! 死罪では済まさ」


「襲撃です! この屋敷に何者かが襲撃に来てます!!」


「ムムムー、あと少しというのに。お前たちでどうにかしろ!!」


「いま騎士団が対応、ぐはぁ」


「ここか」


 報告に来た従者は背中から切り伏せられる。その背後から姿を現したのはジャカであった。


「誰だね、チミは」


「ジャカさん!」


 先ほどまで暗い顔を見せていたロサの顔が明るくなる。


「今助けます」


「ひっ」


 ジャカは部屋に踏み込んでジロウに切りかかる。


「させないでっせ」


「くっ」


 ガージスが間に入りジロウは事なきを得る。


 ちっとジャカの舌打ちを入れると二人は剣で打ち合う。


 そのせめぎあいは互いに譲らず、何度も火花を散らした。


 だが徐々にガージスに戦況が傾いていく。それに伴いジャガの表情が厳めしくなっていく。


 先に嫌ったのはジャカだ。隙を見て後退する。


「おや。来ないでっせか?」


「イラつかせてくれる」


「ガージス、早くどうにかしろ」


「わかってる!!」


「む」


 ジャカの背後から新手が数人襲い掛かる。


「旦那、この隙に裏口から脱出だ」


「な、なんでだ。というか言葉遣い変わってないか?」


「気のせいでっせ。敵の数と実力がわからないんでっせ。援軍を呼んでから屋敷を奪還作戦でっせ」


「きゃっ」


「待てっ。くっ」


 ガージスはロサの口を布を撒きつけてふさぎ、つないでいる鎖を切り落とすと強引に脇に抱えジロウと共に部屋を飛び出す。ジャカは新手の相手で手いっぱいでガージスのほうへと向かえない。




「旦那、カギを」


「わかっている、命令するな」


 ロサを抱えた二人はジャカと戦った部屋を出て、廊下を走り抜け屋敷の倉庫の扉の前にたどり着いていた。


 道中で数人の襲撃があったがジャカがすべて切り伏せていた。


「あった。よし」


 扉のカギを見つけたジロウは焦りで手を震わせながらも扉のカギを開ける。


 三人は倉庫に入って扉を閉めて一息をつく。


「ふぅ、ここまでくれば安全っすね。この倉庫は扉が閉まっているときは結界によって誰も入ってこれないということで大丈夫っすよね?」


「そうだぞ。この部屋は魂具の結界によって守られているから。この鍵がないと誰も入れない」


「旦那、悪いんですがそこのロープを取ってくれやせんか?」


 ロサを抱えているガージスは手が空いていないためジロウに取ってくるように懇願する。


「お前、僕をパシリに使うつもりか」


「そんなけち臭いこと言わないでお願いしやすよー」


「ふん、まぁいいだろう」


 ジロウは巨体をゆっくり起こして、箱の上に雑に放り上げてあったソウルを制限する魂具であるロープを手に取る。


「んんー」


 ロープを受け取ったガージスは布のせいで唸ることしかできないロサをしばりつける。


「これで大丈夫っすね。旦那とお嬢さんはここに居てくれっす。自分が援軍呼んでくるっす」


「分かったから早くいけ」


「はいはい。早く二人になりたいからって興奮しすぎっすよ、旦那」


「うるさい! 黙っていけ!!」


 ガージスがやれやれと呆れた感じで扉を開こうとした時、倉庫の奥のほうからガタッと物音がする。


「誰だ!!」


 その場にいる全員が物音のほうに視線を向ける。


 奥のいくつも積まれている箱の陰から漆黒の衣装を纏った男が姿を現す。


「俺の名はカラス。闇に羽搏く一羽の害鳥さ」

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