ショータイム
「俺の名はカラス。闇に羽搏く一羽の害鳥さ」
「カラス? 聞いたことないっすね」
「お、おい。お前どうやってここに入った!?」
誰もいないと思っていた部屋の奥から出てきた男に動揺するジロウ。少し驚きはしたもののすぐに切り替えるガージスは様々なことを乗り越えてきたことを感じさせる。
「ん? ああ、あのへなちょこ結界のことか。程度が低すぎて気にすることもなかった」
「なっ、へなちょこだと。二千五百万ウェンをした代物を程度が低いだとぉ。なめやがって。ガージス、その知れ者に教えてやれ! 僕の崇高さというものを!!」
「了解でっせ。旦那!」
ジロウの命令を受けてガージスがカラスへと切りかかる。鋭く、高速に振られた剣をまるで息をするかのようにカラスは防ぐ。
ガージスはそれにひるむことなく追撃をする。だがそれも全く意もしないかのようにすべて防がれる。
「どうなってんだ。これはぁ」
今対面している男は攻撃も防御もすべてが普通、誰にでもできる動き。少なくもない剣豪と戦い、生き延びてきたガージスにはどうということもない相手。
だというのに勝てるビジョンが全然見えない。相手の動きは見えているというのに剣を当てられないし、防ぐことができない。ソウルの量はガージスより下だというのにただの技量だけで圧倒している。
攻められてもいないのにガージスの体には傷が増えていく。
「何をしているガージス。早く済ませろ」
「わかってる! 黙ってろデブ!!」
「で、デブ!?」
相対したことのない相手を前にしてガージスの化けの皮がはがれる。だが戦況は変わらない。
「これが本気か?」
「はっ、いいだろう。奥の手というものを見せてやる」
ガージスはポケットからなにかを取り出すとそれを飲み込んだ。するとガージスの身体から多量のソウルあふれる。それに比例して肉体が大きくなる。
「ほう、面白い」
「ははは。初めて使ったがこれはいい!! これさえあれば俺も幹部になれるはずだ。カラスとやら。悪いが俺の礎になってくれ」
「では第二ラウンドといこう」
「そうだな。だが」
三十メートルほど離れていたガージスが一瞬の合間にカラスの眼前に現れる。
「これで終わりだ」
ガージスは拳をふり絞りカラスの顔面を思いっきり殴り飛ばす。カラスはその衝撃に従い箱に身体を突っ込む。
「はははははは。いいねぇ。これは!」
「が、ガージス。倒したのか」
ガージスの豹変用にジロウは引き気味に問いかける。そこに扉がどんどんと叩かれている音が聞こえる。
「見ての通りだ。旦那。俺はこのまま外のうるさいハエどもも蹴散らしてくる」
「そ、そうか。頼むぞ」
「んんー」
何か狂ったように笑いながら倉庫を去ろうとした時、何かを見つけたロサが唸る。
「何を勝った気でいる」
ガージスが振り向くと先ほど吹き飛ばした男が何事もなかったかのように立っていた。
「なんだよ。今気分いいんだからよぉ。水を差すなよぉ! さっさと死ねぇ!!」
ガージスは直撃を受けたというのに無傷という事実を受け入れられず、ただがむしゃらにカラスに再び殴りかかる。
その拳をカラスは片手で難なく受け止める。その衝撃で屋敷が揺れる。
「は?」
「もう十分だ。戯れは終わりだ」
空いた手でガージスの頭を掴み地面にたたきつける。倒れ伏しているガージスをジロウの前に蹴飛ばす。
そしてカラスは人差し指を立て、指先にソウルを収束させる。
「んん」
「ひっ、痛っ」
そのエネルギーに当てられたジロウは尻もちをつく。
「旦那、やっぱり痔……」
「うるさい! そんなこと言ってないでど、どうにかしろ!!」
「あいよっ!?」
ガージスが立ち上がろうとした時、身体のあちこちから血液が飛び散る。
「何が起こって……まさかあの薬、未完成品なのか。くそ、あのじじい」
ガージスが愚痴を言っている間にエネルギーの充填が完了する。
「覚悟はできたか?」
「おおおおおおおお、おいガージス!」
「わかっている!!」
行動を起こさなければ死ぬ。そんなことは二人ともわかっているが身体がいうことを聞かない。初めて見たときはこれほどの実力があるとは露ほども思わなかった。ましてやここで死ぬことなんて。
そんな事情など関係なしにカラスは無慈悲に言葉を発する。
「超絶スーパーウルトラデンジャラス、バレット」
カラスがパチンと指を鳴らすとソウルが収束された球をはじき出す。球内の空間をゆがませながら一直線にガージスとジロウのほうへと向かう。球は二人の半身を消し飛ばしてもなお止まることなく通過した。球が通った後は残るものは何一つなかった。
「ロサ嬢を開放しろ!!」
そのタイミングでジャカが扉を蹴飛ばし仲間と共に突入する。カラスのはなった球が結界に触れ消失したため、魂具が停止していた。
ジャカはガージスとジロウが死んでいる状況に一瞬硬直するが、その場に残っている黒い衣装を纏っている男に剣を向け、部下にロサを救出するように指示する。
「何もんだ」
「俺の名はカラス。闇に羽搏く一羽の害鳥さ。残念だが、今宵のショーは閉幕だ」
カラスはそういうと闇の中へと消えていった。
残された半身を失った二人の死体の一方はズボンの臀部が血で染まっていたらしい。
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