歩く災厄
日が沈み、闇に包まれるはずの街は未だに騒がしく光を放っている。
事務所の廊下をシャラとミルスは歩いている。
「こんな夜中から仕事の話ですか」
「すまないね。先ほどスワレン伯爵から急な依頼が入ってね。明日のパーティで余興として踊ってはくれないかと」
「スワレン伯爵ですか……」
この街の領主、ジロウ・スワレンはでっぷりとした体形で金色の装飾を纏っている趣味の悪い領主という印象を持っているミルスはその名前に嫌悪感を示す。
「そんな顔しないでくれ。金払いはいいんだ。我慢してくれ」
「わかってますよ」
ミルスはため息をしながらシャラと社長室へ入る。
「きゃあ」
ミルスが中に誰かがいることに気付き悲鳴を上げる。
社長室の中にはシャラがいつも使っているデスクに座っている黒い装束の何者かがいた。室内は暗くシルエットでしかわからない。
窓は開いており、カーテンが夜風に煽られ揺らいでいる。
「誰だ!!」
シャラが問いかける。するとパンと本を閉じるような音が響く。
「お前、まさか、その本は。読んだのか!!」
シャラは焦った声で侵入者に問いかける。
侵入者は答えるようにミルスのほうに本を投げる。その本をミルスはきれいに捕ると同時に本が開かれる。
「ミルス!! 読むんじゃない!!」
シャラは本へと手を伸ばす。だが近づくシャラの眼前にナイフが投げられ取り上げることはできなかった。
「彼女が読み終えるまで動くな」
シャラは男の命令にした唇をかんで悔やむような顔で従う。
ミルスは廊下からの光を頼りに読み進める。その顔はみるみると青ざめていく。
「なに、これ」
本の内容はミルスにとって信じられないものだった。
行方不明になった子たちの名前、その隣に高額な金額、そして購入者と書かれた一覧。そこから考えられるのは商品として彼女たちが売られたということだ。それを証明するように日記のように当時の様子が書かれている。
その中にはロサの名前と購入者にジロウ・スワレンの名前が書かれていた。日付は今日。
「しゃ、シャラさん、これはいったい?」
答えを求めるようにミルスは問いかける。
「ばれたならしょうがない。ああ、そうだよ。行方不明者の子たちは売っぱらってたんだよ。金になるからなぁ!!」
逃げられないと察したシャラはキャラが変わったように暴露を始める。
「あなたって人は」
「動くな! 死にたくないのならな」
シャラは剣を取り出しミルスへと向ける。
「ひゃっ」
「まずはそこの奴を片付ける。それまで動くなよ」
腰を抜かしてしまったミルスはその場で尻もちをつき動けなくなってしまう。
「お前、よくもばらしてくれたものだ。まぁいい。ロサは莫大な金を生んでくれた。これで一生遊んでいける。あいつの母親を手にかけたときはだいぶ手間……」
シャラが言い終える前に心臓をナイフが貫く。
「な、に……」
シャラは力なく倒れる。
いろいろなことが起こり事態を理解していないミルスの瞳は月明かりによって照らされた侵入者の全容を映し出す。
「あなたは、まさか!?」
「俺の名はカラス。闇に羽搏く一羽の害鳥さ」
カラスと名乗った男は窓から夜の街へと消えてった。
「歩く災厄、カラス。なんで、こんなところに」
「おい、何があった!」
そこにジャカが入ってくる。部屋の惨状を見て顔をしかめる。
「大丈夫か」
ジャカはミルスに手を伸ばそうとした時にミルスから零れ落ちている本が目に入る。手に取って本を読む。
「これは」
「どこのどなたかわかりませんが私は大丈夫です。それよりもロサちゃんを」
「了解した」
正気に戻ったミルスはジャカにロサを託す。ジャカはうなづくと一目散に部屋を出る。
ミルスが残された部屋には金庫がこじ開けられていた。
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