金のにおい
モディシュに来て三日目。今日も今日とて髪飾り制作に精を出している二徹目。
ジャカとの約束の時間が近づくたびに没頭している時の興奮が憂鬱な気分へと変わっていった。
時間になり集合場所の広場に行くと近づきがたいオーラを放っているジャカが居座っていた。周りから明らかに避けられていた。
この光景ですでに帰ろうと思ったが一度承諾した手前ドタキャンというのも味がない。
髪飾り制作も大詰めに入った今、暇つぶしのイベントとしては悪くない。より面白いイベントに発展する可能性だってある。
周囲の注目を一身に受けながらジャカの元へと向かう。
「来たか」
ジャカは立ち上がる。
「行くぞ」
世間話とかなく淡々と進めるタイプのようだ。つまらない話を聞くよりはよっぽどいい。
僕たちは合流してすぐに行動を起こした。
「今日のロサ嬢の仕事は午前中のみだ。だからこれからロサ嬢のショーを見に行こう」
「ご遠慮いただきたいんですが」
「ん? なんか言ったか」
「何でもない」
踏み込んではいけない、そう感じた。
目的地の店へとたどり着いた僕はより一層鬱葱とした気分になる。
「R・O・S・A、ロ~サ!!」
今まで冷静沈着な強面のおっさんが隣で光る棒を持ってはしゃいでいる。
大人数のファンの中、顔を見せないようにローブをかぶり部屋の後ろのほうにいるのに存在感が出ている。
「おい、ジーノ。お前もやれ」
「えー」
「R・O・S・A、ロ~サ!!」
この空気がいやになった僕は、熱中しているジャカの隙をついて向かい側の店でオムライスを食べて時間を過ごした。
「さて、ここからはお前の出番だ。ここから事務所への帰る道筋はわかっている。先回りするぞ」
熱狂的なファンとはいえここまで知っているのは度が過ぎているのではないだろうか? 口には出さんが。
案内された場所はジャカたちと初めて出会った路地のように人気が少ないところだった。
「ここで待つ」
このアイスクリームうまいなと思いながらロサを待つ。
「あ、ジーノ君」
コーンを食べ終わるころ、ちょうどロサが僕たちを見つけて駆け寄ってくる。
「この前はごめんね。あんなお恥ずかしいお姿を」
「貴様、ロサ嬢に何をした?」
「何もしてないでうっ」
言い切る前に胸ぐらをつかまれて持ち上げられ息が詰まる。
「それで、そちらの方はいつもショーに来てくださっている方ですね」
「気づいていたのですか!?」
手を離したかと思うとボトンと落とされる。
「えぇ、いつもローブを着ていて顔までは見えてませんが応援してくださっているのは知っています」
なんか、僕居なくてもうまくいってない? 前はローブを着ずに接触したから駄目だったってことでローブを着たままならいけるのでは?
「話の途中で悪いけどこの人が君と話がしたいって」
「そうなのですか」
援護してやったぞと首を振って合図する。
「先日は失礼しました。私、オオカミ系の獣人のジャカと申します」
ジャカはフードを脱ぎながら自己紹介をする。
「先日の獣人でしたか」
「はい。あの時は話す前にお逃げになったので」
あれ、まさか僕の責任か? あれでロサとの接点ができたんだ。あの髪飾りの再現できるのであればどうでもいいな。
「すいません。そのー、お顔が少し……」
「自覚はありますので」
「積もる話もありますし、事務所でどうですか?」
「じゃあ僕はここで」
さて、僕の仕事は終わりだ。さっさと帰って髪飾りの完成を。
「ジーノ君もいかがですか?」
「……行きます」
断らないよなというジャカの圧に負けた僕はしぶしぶついていった。
「あのずぼらな母がそんなことを」
「真面目状態のアネキは珍しいですよね」
地獄の時間だ。本当になんで僕連れてこられたの?
退屈になったので極限まで気配を薄めて退室した。
終わるまで適当に金目のものがないかと事務所を適当に探索している。
「では五千万ウェンということで」
「ぐふふ、これで彼女は僕の。ぐふふ、ぐふふふふふふ」
とある部屋から二人の男の声が聞こえる。
五千万ウェンだと? そんな大金が動いているのか。
……少しぐらいなくなっても気づかないのでは? それでいこう。夜に忍び込むとしよう。
「ジーノ君ここにいたんだ」
「ロサ嬢はこれから用事があるようだから帰るぞ」
「ごめんね。これからシャラさんと話があるようで」
それは好都合だ。早く宝石を作って憂いなく忍び込もうと思っていたんだ。
夜に向けてとっとと事務所を去ったのだった。
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