拷問か? 拷問か!?(喜)
気絶したロサを事務所に置いてきた僕は宿屋に帰ろうと歩を進めていた。
「おい待てよチビ。俺たちと遊んでいかないか?」
ある日、街の中、大きなお友達に囲まれた。
ロサと一緒だった時から視線を感じていた。おそらくは彼女のファンなんだろう。常に人目がある、人気者は辛いな。
「お手柔らかによろしくお願いします」
逃げるにもさすがに数が多すぎる。そしてこの展開も楽しそうだ。
男たちは手加減なんかするわけもなく髪の毛を掴まれて連れていかれる。
薄暗く、スラム街を彷彿とさせる路地を通り、僕は崩れかけている壁にドンッと叩きつけられる。服が汚れてしまわないようソウルで見えない薄いフィルターを張って保護する。
「お前、俺のロサちゃんに何してるんだ?」
「ひ、ひえーー。なにも」「おい、ロサちゃんはお前のものじゃないぞ! 俺のだ!!」
演技を遮るんじゃない。
「お前のでもねぇぞ! 俺のだ!!」
「いや、僕のだ!」
なんか、僕のことそっちのけで喧嘩をし始めた。ナニコレ? どういう状況?
「あ、あのー」
「ほら見ろ! これがロサちゃんハンカチだ!」
「こっち何てロサちゃんのプロマイド、サイン付きだぞ!!」
「俺なんてロサちゃんと握手したときから手を洗ってないんだぞ」
「僕のなんてロサちゃんの髪の毛からかつらを作ろうと材料集め中だよ」
ロサのグッズを見せ合ってロサへの想いの強さを誇示しあっている。
面白い雰囲気を感じたんだが。退屈になって静かにっ去ろうとした時、僕の横に口論していた男の一人が飛んできた。
それを皮切りにどんどん男たちが蹴散らされて人で山ができていた。
蹴散らした張本人が近づいてくる。
「ガキィ。ちょっと面貸せや」
男は犬のような耳を持ち、黒いサングラスをかけ、左眉の上から縦に傷が入っている。
その特徴は昨日見た獣人たちで一番印象に残っている人物だった。
「は、はい」
こちらが本命だったか。僕はいかつい印象の男におとなしくついていった。
窓シャッターの隙間から黄昏時の光が差し込む室内。壁に人の顔を崩したような絵画や鞘に収まる刀が飾られ、ソファには極道を歩んでいるとばかりの人が座っている。全員、獣人だ。
そんな中、上座に座る先ほどの男をテーブルをはさんで地べたに正座をして見上げる僕。
「テメェ、昨日俺たちの邪魔したよな」
思った通りのガチのヤがつく人たちの事務所にワクワク感が湧き出す。
「おい! 兄貴が聞いてるだろうがっ!」
「ひっ」
ソファに座っていた舎弟の一人がドンと音を立てて勢い良く立ち上がる。
「座れ」
「っ! はい」
まさに鶴の一声。静かな声であったが圧がすごい。
いいね。このひやひや感。
「で、ガキ。返答は?」
「そ、そうです。僕です」
徐々にしぼむように返事をする。実にヘイボンだ。
「ロサ嬢との関係は?」
「困ってそうだったので助けただけです」
「嘘つけい! 今日デートしてたじゃねぇか!!」
「おい」
「すいやせん」
再び興奮した声を発した舎弟を黙らせる。それを確認した男は僕をにらみつけるように目を細める。
この人たちはあれか。ロサファンクラブ過激派とかだろうか?
「ひっ。お、お礼として買い物に付き合ってもらっただけです」
「それは本当か?」
「う、嘘は言っていません!」
いつかの盗賊のごとく体を震わせる。
「……嘘は言ってなさそうだな。ということはお嬢にはそう見られたってことか」
「あ、兄貴」
先ほどの検圧はどこへやら。男の目には悲し気な影が宿る。
どういうことだ?
「わりぃな、ガキ。勘違いで手荒な真似をしちまった」
「え?」
「おい。このガキを大通りまで連れて行ってやれ。もちろん傷一つなくな」
おいおいおい。またも肩透かしを食らうのか?
ほら、殴ったりして拷問したり、コンクリート固めて海に沈めるとか。荒々しいことしてくれよ!!
舎弟B、Cに手を掴まれ立たされる。
「あ、兄貴! ちょっと待ってくだせぇ」
「なんだ」
よくやった舎弟A。言ってやれ、こいつの臓器売り飛ばそうとか。
「今の俺たちはお嬢にいい印象を持たれやせん。だからこのガキを通してもらったほうがいいと思うんです」
違う。もうちょっとえげついことを。
「恥を上塗りしろと?」
兄貴はここ一番でとんでもない殺気を放つ。
「たとえ恥を上塗りしてもお嬢の安全をいち早く確保できるなら!!」
だがそれに臆することなく舎弟Aは食い下がる。ああ、もういいやどうにでもなれ。
「……いいだろう。ガキ、名前は?」
「ジーノ・ホープデス」
「では、ジーノ。恥を忍んで頼む。俺たちとロサ嬢で話し合いができる場を作ってはくれねぇか」
兄貴が机に両手を置き、頭を下げる。
「アア、イイデスヨ」
「本当か!!」
もういいよ。君たちには失望した。適当にやって適当に終わらせよう。
「兄貴! やりましたね」
「ああ。ジーノよ。協力してくれるんだ。こちらの事情も話そう。聞いてくれ」
僕の目はすでに遠い世界を見つめていた。
「俺たちのガキの頃、どこからばれたのか獣人の村が襲われてな。男は殺され、女子供は囚われと村は壊滅したんだ」
獣人は希少だ。奴隷やらなんやらで欲しがる奴も少なくないだろう。金になる、ということだ。もちろん、獣人だろうとそのような襲撃はこの国では許されていない。そもそも奴隷を扱うこと自体が犯罪だ。
「そんな中助けてくれた人物が姉貴、ロサ嬢の母親だ」
「あんときの姉貴、マジでかっこよかったすよね」
「そのあともよくしてくれてな。一時的な住処や金とかな。そん時に出会ったのがロサ嬢だ。あんときはまだ物心ついてなかったから俺たちのことは覚えていないだろうが」
「あんときのロサ嬢もかわいらしかったすよね」
「ずっとお世話になるのも迷惑だと思った俺たちは半年たたずで姉御の元を離れた。そのあとは同じ目に合っている仲間たちを救う旅へと出た。目的のためには人には言えないことをしてきた」
「大変だったすよね」
ちょいちょい合いの手入れるのやめてくれ。
「そんな中この街へたどり着き、ロサ嬢に再会した。鮮やかなピンクの髪、他を寄せ付けない美貌、そして紅のバラの髪飾りを見た瞬間お嬢だと確信した。初めは接触しようとしたが、あの時とは違い俺たちの手は汚れ過ぎた。彼女の鮮やかな踊りを汚してしまうことを恐れた俺たちはばれぬよう陰ながら応援することにした」
早く終わらないかな。
「だが、放置できないことを聞いた。最近、多くの踊り子が行方不明になっているということを耳にした。こうしては居れないと思い接触したのだが、そのあとはわかるな」
適当に首を縦に振る。
「失礼を重ねるのは承知している。だが、ロサ嬢への愛だと思って許してくれ。改めてよろしく頼む」
ジャカが頭を下げるのと同時にここにいる全員の頭が下げられる。これは少しだけ気分がいい。
「いいと一度言ったからね。最善を尽くすよ」
「頼む」
依頼を引き受けた僕はすでに日が落ちていたので二人の舎弟に宿まで送られたのだった。
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