最高に面白い物語の始まりだ!!
「(あぁ、シュバルツ面白かった。あれは憧れる)」
「でしょ」
スラム街から長い旅路を超え、地図に記された王都の孤児院ホープの前へとたどり着いた。
アマリス王国。僕の育ったスラム街もこの国の一部だ。あのくそだまりみたいな街とこの王都は比べ物にならないほどに美しい。本当に同じ国か?
道中の列車の中でクロにシュバルツを読ませ、シュバルツのすばらしさを力説した。わかってくれたようでよかった。
「うん。家よりは圧倒的にいい建物だ」
王都の栄えている場所の建物と比べると見劣りするがあのボロ家よりは断然マシだ。
「(ククク、ここが我らの拠点か)」
しっかりシュバルツに染められている。
「おや? 君は?」
そこへ孤児院から白いひげが印象的な初老のおじいさんが出てきた。
「僕はジーノ。パーターさんに紹介されてきました」
おじいさんは目を見開いて驚くような仕草をする。
「君がジーノ君かい?」
「そうですけど」
さっき言っただろ、耳遠くなったのか、という言葉を飲み込み肯定する。
「ということはパーターは」
いわんとすることはわかる。おそらく死ぬ前に俺をここに送るということを手紙かなんかで伝えたんだろう。
神妙な面持ちで僕を見つめる。
「あぁ、ごめんね。話は聞いてるから。辛かったね。もう大丈夫だから」
僕を慈しむように抱きしめてくる。
表だけの境遇だけ見れば憐れむのはわかるが、いろいろとやってきたからなぁ。この抱擁をまっすぐに受け取るには汚れすぎてるな。
「知らないおじさんに抱きしめられてもか。ワシはこの孤児院の院長、フラナだよ。よろしくね、ジーノ君」
「よろしく」
フラナの懐抱から解放され、手を引かれて孤児院に案内される。
中に入ると庭で遊んでいた子供たちが僕に視線を寄せる。その中で一番大きく僕と同年くらいの男子が話しかけてくる。
「フラナさん。この子は?」
「この子はジーノ君っていって新しい子だよ。みんな仲良くしてあげてね」
フラナが何か言っているが僕は目の前の男子に釘付けになる。
オレンジ髪の容姿の整った少年。外見だけの印象はこれだ。確かにより目立つ容姿をしているが僕が着目しているところはそこだけじゃない。
オーラだ。まるで太陽のように輝いている。物語の主人公といっても差し支えないほどに。
面白い。これからこの男に起こるだろうイベントに他人ながら胸をワクワクさせる。
「ん? ジーノ君、なんで笑っているの」
しまった。自分でも気づかないうちににやけてしまったようだ。
さて、ここの返しは重要だ。今後の立ち位置を左右する。
目立つキャラはだめだ、動きづらくなる。あと面白くなさそう。であれば返答はこれだ。
「じ、ジーノです。よ、よろしく」
主人公を遠くから観察する静かな幼馴染。すなわち、出番が多くないモブに近しいキャラ。それこそ一番面白そう。故に初対面おどおどキャラだ。
「僕はハロル。よろしくね」
出された手に躊躇いながら手を出して握手をする。
その時、最高に面白い物語が始まる鐘の音が鳴った気がした。
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