最後の役割
「ただいまー」
「……おかえり」
ん? パーターのいつもより元気がないな。
そんなこと関係ないといわんばかりに我がもの顔で家に入るクロ。本当に図々しいな。
「猫飼いたいんだけど。いい?」
「……ん? その黒猫かい? ちゃんと世話できるならいいよ」
「(そうだそうだ、ちゃんと世話をしてくれたまえ)」
戯言を無視しつつ戦利品を整理する。クロは昨晩の残飯を食らっている。ここまでくると図々しいのレベルを超えている。
「……体調は大丈夫なの?」
「気づいてたのかい?」
調子が悪そうなことに加えて最近はパーターのソウルの力強さが衰えつつある。いわゆる寿命というやつだ。
僕がソウルを強化すれば多少寿命が延びるだろがパーター自身のソウルをため込む器が修復しない限り意味がない。
その器は僕でも修復することはできない。
「ジーノ、話があるんだ」
「何?」
「王都にホープという孤児院がある。そこの院長とは古くからの顔見知りでね。お前のことをすでに話しているから今度からはそこで過ごすといい」
孤児院の住所と簡易的な地図が記された紙を渡される。
「僕がいなくても大丈夫なの?」
「これでも昔は暴れん坊として有名だったんだ。大丈夫さ」
僕に剣の基礎を教えてくれたのはこの人だ。今思えば実力者だったんだろう。そこら辺のゴロツキや前のナンチャラという盗賊団のボスよりもはるかに強かった。
「ふ~ん、そう。なら行ってくるね~」
今まで集めてきたものと金、そして何よりも大切な漫画をソウルで作った袋に詰める。
「ほら、クロ行くよ。引っ越しだ」
「(ボクからしたらまだ引っ越してないけどね)」
クロは僕の肩に乗る。そして、扉へと手をかける。
「そうだ。暇つぶしにこれを置いていくよ」
数十冊の漫画を机に置いていく。そのタイトルは「シュバルツ」。
「いいのかい? 大切なものだろう」
「それは保存用が汚くなった時用の予備のまた汚れた時用の予備だから」
「??????」
「何冊かあるから大丈夫ってこと。これを読まずに死ぬのは損だと思って」
パーターは漫画を手に取って開く。
「じゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
改めて扉に手をかけ家から出る。僕は振り返り、長年住んできた家を一望して頷く。
「これぞ旅立ちって感じだね」
「(何言ってんだ? こいつ)」
ーーーーーーーーーーーーーー
初めは気まぐれだった。いや、燃え尽きてしまったと思っていた正義感が少しだけ残っていただけかもしれない。
私はこのスラム街に来る前は治安維持の騎士団に所属していた。
ある日、怪しい薬の取引の現場に出くわした。私は正義感の元、何人かは取り逃がしたもののその場にいる人たちを取り押さえた。
次の日、上司である第四騎士団長に呼び出された。
「パーター君、君が捕まえた人たちなんだが解放したよ」
「どうしてですか!!」
怪しい薬も大金も証拠は押さえたはずなのになぜ。動揺で大声を出してしまった。
「なぜって? 簡単だよ。この世には知らないほうがいいことがあるってことさ」
「まさか」
団長もグルだったってことか。私は冷や汗を流す。
「これをほかに報告しようとしても無駄だぞ。すでに君は殺人犯として指名手配されている。そんな君の話を聞いてくれる奴なんていないだろう」
団長がそういうと扉から二人の騎士が剣を構えて入ってくる、
もうここにいてはならないと判断した私はその二人を斬り、逃げ出した。
無我夢中で逃げたその先がこのスラム街だった。噂には聞いていたがひどいありさまだった。ガラの悪い輩、ボロ雑巾のような衣服。
そんな中、一人で生きていけなさそうな齢の少年が壁を背にしていた。私はなけなしの食料を彼にあげ、近くのボロボロの家へと連れ込んだ。
ほかにもこのような子供はいたが私はこの子に目を引かれた。目は瞬きをせず、呼吸も弱い。それでも生き延びるという意思を魂から感じ取れたからだろうか。
震えた小さな手を掴んだ時、誓ったのだ。この子が将来自由に生きていけるように。正義とか悪とか関係なく自分の正しさを貫けるように。
それが私の最後の役割と信じて。
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