黒クロコンビ

「うっひょー。今回の戦利品はすばらしいな」


 盗賊団を一掃した僕は盗賊団が蓄えていたお宝を漁っている。大規模というだけあっていいものが多い。


「これはコレクト用。これは売り飛ばす」


 ちなみに僕は宝石のように光り輝くものが大好きだ。きれいだしかっこいいし見ているだけで満たされる。


「うん、目ぼしいものは大体集めたね。あとは……」


 先ほど撃たれた銃弾とそれを発射した黒い銃身を手に取る。


「高性能な銃だな」


 普通の道具ではソウルを込めたとしても簡単に霧散してしまう。そのためソウルが霧散しないように加工して作ったものは高性能で高価だ。


 その中でも銃は珍しい。


 そもそも銃などの遠距離武器自体が強くない。


 ある程度戦闘に慣れている人間にはソウルで強化した攻撃でなければダメージを与えることは難しい。もとより当てること自体難しい。


 そのうえソウルは自分から離れれば離れるほど制御は難しくなる。それゆえ、銃弾が当たる前にソウルが霧散する。


 剣などの近距離武器よりコストもソウル効率も悪い遠距離武器をわざわざ使う必要はない。


 僕の場合は自分のソウルで作ったもののほうが圧倒的に性能がいいから必要ないんだけど。


 僕は剣を作り出すと拳銃を粉々に破壊する。


「さて、そろそろ引き上げるか。騎士団にも来られたら面倒だし」


 これほどの規模であると騎士団がマークしていてもおかしくない。異変を感じて様子を見に来るかもしれない。


「(たす……けて)」


 どこからか脳内に語り掛けるようにか細くささやかれる。これは漫画で読んだことのある展開だ。


 面白そうと嗅覚が確認した僕は声の主を探し始める。


 しばらく散策すると瓦礫が散乱し、砂埃が待っている崩れた小屋だったものの中に黒い猫が瓦礫に挟まれていた。


「お前か。俺を呼ぶのは」


「(たす……けて。急に、小屋が崩れて)」


 小屋が崩れて……? 改めて周囲を確認すると瓦礫の中に顔面血まみれの男が伸びている。


 ……原因、僕ですねぇ。


 しょうがないけど助けようか。瓦礫をどけて黒猫を開放する。そして、傷ついている黒猫に触れる。


 ソウルは傷をいやしたりする効果がある。それを活性化させ回復させる。


 本来、このようなことはできない。生物一体一体が持つソウルはそれぞれ固有の性質を持ち、他者が干渉することはできない。


 空気のように自然ソウルを体内に取り込んで時間をかけて自分と同じ性質のソウルへと変質する。変質は自分のソウルの性質にしかできない。


 だが、僕の場合は違う。鍛錬の末、ソウルを極めた僕は自分のソウルの性質を意図的に変質させることができるようになった。


 僕は黒猫のソウルを感じ取り、それに合わせて変質させ回復させる。


 徐々に傷は塞がっていく。


「ん?」


 治療中、違和感を感じる。傷はいやしきっているのにソウルを吸われ続けているような……。


 っと、突如ソウルが急激に吸われ始めた。変質していないソウルまで吸われ始める。


 自分のソウルが枯渇しないように取り込む自然ソウルの量とその変質速度を上げる。


 二十秒くらい吸われ続けてようやく落ち着いた。


「ふむ、驚いた」


 体験したことのない出来事に少し焦ったが面白い経験ができた。


「(助けてくれてありがとう)」


 回復した黒猫は生まれたての小鹿のようにぶるぶるとした四つ足で立ち上がりながらお礼を言う。


「構うな、ただの気まぐれだ」


 脳に語り掛ける猫。そんな面白いことを体験させてくれたからね。


「(!? ボクの声が聞こえているのか!!)」


「急に声を荒げるな」


 別にうるさいというわけではないが、なんか気持ち悪い。というかこの反応はこの猫が特別なのではなく僕が異常なだけか?

 これも鍛錬の果ての境地ということだろうか。


「(それならば話が早い。ボクを飼ってくれないか。定住の地がなくてさまよっていたんだ)」


「僕が君を?」


 図々しくも養ってくれだと? 黒猫との生活を想像してみる。


 黒猫を肩に乗せるダークヒーロー。


 ……悪くない。それに僕にできないことをやってもらうというのもありだ。


「いいよ。でも、働かざる者食うべからず。君にも働いてもらうぞ」


「(えぇ~、やだ~。ボクは清潔であったか~い部屋の中、こたつの中で丸まりながらキャビアを食ってだらだらと生きていきたいんだ)」


「なんか急に猫肉が食いたくなってきたな」


「(冗談です。働かせてください)」


 猫肉がどんな味なのか興味が出てきたんだが。残念だ。


「そうだ。君、名前は?」


「(吾輩は猫である。名前はまだない)」


「じゃあ、クロで。帰るよ」


 クロはニャーと不満げな声で鳴きながら僕の体を這い上がり、黒いローブに潜り込む。


 服の中に生物の温かみを感じながら今度こそ、その場を去った。

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