誘拐される。それもまた一興
「さて、そろそろかな」
「(何がそろそろ、ってわぁ)」
「クロちゃんだぁ~」
孤児院に入って数か月。自分の立場にも慣れてきたころ。クロもまたマスコットとしての地位を確立していた。
いつも通り年少の子供たちにもみくちゃにされている。
「何がそろそろなんだ?」
弄ばれているクロに代わって質問してくるのは主人公ハロルの親友ルキス、同い年で緑髪の眼鏡をかけている人物だ。
「面白そうなことが起こりそうな予感がするだけ」
「面白そうなこと」
「おーい、ルキス。相手になってくれないか」
「わかった」
ルキスは庭で剣の練習をしているハロルに呼ばれる。
アマリス王国は剣の材料となる鉄やミスリルの採掘ができる鉱山が多い。そのため剣の国といわれるほど剣が多く製造されており、剣士が多い。
ハロルもルキスも例にもれず剣を使っている。特にハロルはほかの子たちと比べ一段レベルが高い。さすがは主人公と認めた男だ。
この孤児院の一番の年長者は僕を合わせて四人。ハロル、ルキスそして。
「けがをしないように気を付けてね」
紅一点のマシャ。孤児院のお姉さん的なポジションのしっかり者だ。そして、物語のヒロインだ。
ハロルと話しているときほかのこと話しているときよりウキウキしている。好意を持っているのは明らかだ。
「わかってるって」
「そういって三日前にけがをしていたでしょ」
「ふっ、夫婦みたいだな」
「「夫婦じゃない!!」」
ベッタベタの夫婦漫才。ありがとうございます。
「(ジーノ、助け)」
「(悪い、今からマンガ読むから無理)」
「(ちょっ)」
クロが腹を撫でられているのをよそ眼に漫画を読みだす。今日はギャグ中心の日常系漫画だ。
あたたかな日が差している中、漫画にのめりこんでいると声をかけられる。
「荷物持ち、手伝ってくれない?」
「うん、いいよ」
今日は野菜が安く売られている日だ。金にそれほど余裕のないこの孤児院ではこういうときに買いだめをして、節約をしていかなければならない。
稽古をしていた二人と僕の荷物持ちとマシャで買い出しに向かった。
「今日もいい買い物できたわ」
「少しぐらいは持ってくれないか」
「そんな重い物女の子に持たせるの?」
野菜だけでなく、日用品も買った僕たちは前を向いても買ったものが視界に入るほどの量を持って歩いていた。
「それにしても買い過ぎじゃないのか?」
「私も少しそう思っているんだから言わないで」
三人で並んでいるところの一歩後ろで言い合いを眺めている。僕が入ったらダメな空気だ、
気配を消して透明人間のようにふるまっていると楽しそうな予感がする。
「がぁっ」
不意に陰から出てきた男たちにハロルたちが襲われて意識を失った。
僕なら一瞬で全滅させることができるがそれは面白くない。おとなしく意識を失ったふりをして男たちに連れ去られたのだった。
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