悪党の悪党

「ただいまー」


「お帰り」


 先ほどの盗人の根城とそう変わらないほど古びた家屋は僕の自宅だ。違う部分といえばこまめに掃除をしているため、少し清潔に見えるところだ。


 そんな中、ベッドに寝込んでいる髪もひげも手入れされておらず、よれよれの服を着たくたびれたおじさんはパーター、僕の父親のような人物だ。


 物心ついた時にはすでにここで生活していた僕を拾ってここまで育ててくれた人だ。


 昔は体格もよく強かで優しい人物であったが、病に罹り目の前の細く弱弱しい雰囲気になってしまった。


 それでも変わらず僕をいつも心配してくれている人だ。


「また、カラスになったのかい?」


「何のひねりもない方法での盗み、しょうもない盗人だったけど。悪を狩る悪。う~ん、かっこいい~~」


「楽しそうなのはいいけど、約束は守っているかい?」


「ちゃんと守っているよ」


 パーターとの約束。それは自分の実力がばれないようにすること。


 パーター曰く、僕の力は世間から見たら異常らしい。


 ソウル。命持つものに宿っているエネルギー。生命を維持する役割を担っている。


 このエネルギーを使って自身の身体能力を強化したり、物にそそぐことで強化することができる。さらに、傷などを回復することもできる。


 世間ではこのような認識らしい。


 だが、僕はそれで止まらなかった。


 強化できるということは、ソウルは何かしらの物質として干渉しているのではないか。


 その疑問をもとにソウルを鍛えた。雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の寒さにも負けず、寝ているときも、ウンコをしているときも常にソウルというものの理解と操作を行った。


 そして、極めた果てに俺はとうとうソウルの物質化に成功したのだ。


 盗人の首を飛ばした時の剣はその成果であった。思ったようにものを作れる。これが僕だけの能力であるらしい。


 その過程でソウルの扱いがうまくなった。


 そして、ソウルは自分から離れれば離れるほど制御が難しくなるということも分かった。


 力を持つものはいい意味でも悪い意味でも目立つ。それに比例して面倒ごとや危険度が増える。


 それを危惧したパーターは僕に実力がばれないようにするという約束をしたのだ。


 そして、考え付いたのが「カラス」という存在だ。自分の正体を隠し、なおかつ自由にふるまえる。そんな一石二鳥な存在だ。


 布が破れ、クッションがはみ出ている椅子に座り、袋を漁る。


「『シュバルツ』の二十巻。ん~~~~、今回はどんな感じなのかな」


「ジーノはその漫画本当に好きだね」


 僕は漫画が好きだ。これまでに百作品以上の作品を読んできた。このスラム街でならず者から巻き上げてきた金で買っている。


 その中でもネロという作者の『シュバルツ』という作品が特に好きだ。


 この作品の主人公、シュバルツは表では普通の人として振舞い、裏では闇の組織を倒して回る、そんなダークファンタジーだ。


 このシュバルツの男心くすぐるかっこいい行動にあこがれカラスというキャラで活動している。


 まぁ、僕の場合は世の中をよくしたいとかじゃなくてただ面白そうだからやっているだけだけど。


「あ、薬はちゃんと飲んだ?」


「飲んでいるよ」


「それならいいや」


 適当に確認した後、漫画へと意識を戻し、作品の世界観を楽しむことにした。

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