肉じゃがっておいしいよね

「ちっ、ろくなもん入ってねーな」


「まぁ、みすぼらしい黒髪のガキだったからな」


 ボロボロの壁に囲まれ、薄暗く、ほこりまみれで掃除もろくにしてないことがわかる部屋で今日の戦利品を確かめる男二人。あまり良くなかったようだ。舌打ちをしながら話している。


「金はまぁまぁだ。あとは漫画と食料。『シュバルツ』。最近話題の作品だな。それと人参に玉ねぎ、豚肉にジャガイモ。野菜は嫌いなんだが」


「そうなのか。今日の夕食は肉じゃがにしようと思って買ったんだが」


「肉じゃがってお母さんかよ。ママ~、今日肉じゃががいいってか」


「「「ハハハハハハハハハ」」」


 三人は同時に笑いあう。


「「ハハハ……は?」」


 男たちは気づく。仮面をつけた人物が混ざっていることに。


「きさま、だれ……」


 気づいた時にはその視界は反転し、宙を舞っていなければ見えない景色を映していた。


「(声が出ない。何が起こっ……た)」


 一瞬の出来事に脳の理解が追い付かない。


「俺の名はカラス。闇に羽搏く一羽の害鳥さ」


「(カラス……だと)」


 自分の首が飛んだ、気づいた時には身体を動かすどころか息をすることすらできなかった。


 死の間際にとらえた視界にはまるでおままごとで遊んでいるように楽しんでいる表情だった。まだ十年も生きていないような子供がしていい表情ではなかった。


「(狂っ……ている)」


 そう思いながらほこり塗れで冷たい地面を転がって意識は遠のいていった。









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「そうなのか。今日の夕食は肉じゃがにしようと思って買ったんだが」


「肉じゃがってお母さんかよ。ママ~、今日肉じゃががいいってか」


「「「ハハハハハハハハハ」」」


 のんきに自分たちのアジトに向かっていたので建物の上を渡って追跡をして自然な形で会話に入った。


 肉じゃがを馬鹿にしているのかこいつら。おいしいだろ肉じゃが。


 それともまずいやつしか食ったことがないのか。料理とかできなさそうだし、人生損しているなぁ。


「きさま、だれ……」


 まぁ、君たちのここで人生は終わるんだけどね。僕はソウルで作り出した剣で盗人二人の首をはねる。


 盗人の目がまるで信じられない状況に理解が追い付けていないという感じの開き切った目で僕を見つめる。


 そうだその目だ。僕の心を沸き立たせる。自然と口角が上がる。


 とと、そうだ。ここで名を名乗らなければ。


「俺の名はカラス。闇に羽搏く一羽の害鳥さ」


 ンン~~~~~~、シュバルツっぽくてかっこいい~~。悪をもって悪を狩る。なんちゃって正義集団の騎士団よりヒーローっぽい。


「さて、酔うのはここまでにして。戦利品♪ 戦利品♪」


 やりたいことをやって満足した僕は剣を仕舞い、ほこりまみれの部屋を漁る。


「ちっ。しけたものしかないなぁ」


 この二人いかにも小物そうだったもんなぁ。やっぱり名のある盗賊団とかそういうのに出会いたいなぁ。


 自分の袋の中に金目になるものを入れる。いつのものかわからない食べ物類は入れない。


「このぐらいでいいかな。しょぼい奴らだったな」


 盗むだけ盗んで部屋を後にする。


 死体はそのままだが、まずこんな場所見つかるわけないし、見つかっても調査なんてされない。こういう場所だしな。


 少し楽しめただけ良しとしよう。

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