狂ったカラスは楽しみたい

@jiyuujinn

プロローグ

正義も悪も

「この国の治安はわれら騎士団が守ります!」


 活気づいた広場の真ん中で赤髪の女性が熱心に演説をしている。


 騎士団。犯罪者を捕えたり、喧嘩の仲裁、迷子の猫探しまでやってのけるこの国の治安維持組織。「正義」の名のもとに活動する国家集団だ。


 今週は見回り強化週間だったか。その決起集会をこの広場でしている。


 まぁ、僕には関係のないことだ。力強い声を背に金と食料の入った袋を持って広場を去った。







 僕が暮らしている場所は治安が悪く、整備もろくにできていない、いわゆるスラム街というところだ。


 物心ついた時にはこの環境におり、パーターというおっさんと一緒に暮らしている。血縁関係はないらしい。


「おい、ガキ。荷物を置いてけ」


 帰り道、明らかに僕よりはるかに背が高いガラの悪い男二人に道を塞がれる。このスラム街ではこのようなことは日常茶飯事だ。


「え、でもこれは」


「うるせぇ。よこせ」


 荷物を強引に奪われる。


「か、返して」


「うぜぇな!」


 小さな僕の体は自分と同じくらいの大きさの足で蹴り飛ばされる。


「もう、こいつやっちまおうぜ」


「おとなしく渡しておけばこんなことにならなかったのにな」


 そう言って、男二人で僕の体を何度も蹴りつける。僕の体は打撲痕と切り傷で蝕んでいく。


 漫画でやられ役のテンプレにそうかのようなセリフと行動だな。こういう場面は主人公らしき人物がこいつらを倒しに。


「おい、お前ら何をしている」


 来た! そう思い顔を上げる。そこには騎士団の服を着た気だるげな男が立ってた。THE・主人公、という風貌とオーラではないが今どきの漫画は多様性がある。見た目だけで判断するのはよくない。


「いやぁ~、騎士団の方。これで見逃してくれはくれませんかね~」


 男の手に持っているのは金。


「……見回り強化週間だ。稀に頑固な奴もいる。うまくやれよ」


「お互いにな」


 下卑た笑いで互いの健闘を称えあう。


 賄賂か。本当に見た目だけでは判断できないな。


 正義も悪も法律や規則のようにどこのだれが作ったか知らないルールという縛りの中で生きている。その枠組みの中でうまくやっている奴が得をする。そういう仕組みでこの国の秩序はできている。正直者が損をする、そんな世界だ。


「興が冷めたな。もう行くぞ」


「あぁ、そうだな。最後にっ!」


「がぁ」


 置き土産といわんばかりに蹲っている僕の腹を蹴り上げる。体は血を吐きながらころがっていく。


 男たちは去り、現場には僕一人となっていた。


 死体のように転がっていた僕は黒い仮面をつける。傷も打撲痕もすべて癒え、血のにじんだ服だけが先ほどの光景を連想させるだけとなった。その服さえも黒い衣装に身を包むことで跡形もなく消える。


「ククク、奪えるのは奪われる覚悟のある奴だけだ」


 まるで闇夜を纏ったかのような人物はカラスが飛び立つかのようにその場を後にした。

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