第19話 魔道具とペアリング
「なんだか、手慣れてるように見えるな」
そうエリクが言うのはおそらく、使用人に対する立ち居振る舞いや、ここでの存在の仕方について言及しているのだろうと察した。
「親から放任された淑女にしてはよくできてる」
「まあね」
――どちらかというと、前世で詰んだ経験ですけどね!
これでも一応前世は、腐っても皇族の末席にいたもんで!
初めて言うけど!
と言っても、どちらかというと皇族というよりは魔術師としての方が名を馳せてしまっていたから、あんまり自分で皇族感ないんだけど。
いろいろあって皇位継承権もなかったしなあ。
そういう意味では、エリクと境遇が似てたりするんだよね。
まあだから、ちょっと共感というか、縁を感じた部分もあるんだけど。
「……そういえば私、人前ではあなたに敬語を使った方がいい、のよね?」
今のところ、人がいるところでエリクに話しかける時はそうするように気をつけてはいるつもりなのだが(とはいえ大人しくしようと心がけていたので、他の人がいるときにはなるべく出しゃばらないようにしていた、つもり)、その辺でボロが出ないように厳格にしようとするならば、普段から敬語に切り替えた方がいいのやも? と思いエリクに尋ねる。
しかし。
「いやあ? 別にいいんじゃないか? 婚約者なんだし」
と、当の本人は軽い様子だ。
「えぇ……? まあ、本人がいいって言うならいいけどさあ……」
「大丈夫だって。ほら、言っても第二王子だし。俺別にいままで周りの人間たちにも王族だから敬えとか言ったことないし」
大体、王族なんてただ民衆を統治する権限をもつことになっただけの人で、結局は人の稼ぎで食わせてもらってるんだから、一般市民より偉いなんてことないんだって! と、王族以外が口にしたら即捕まって刑に処されてしまいそうな際どいことを言い出す。
でもまあ、この感性は民衆には好かれるだろうなあ。
……貴族からは疎んじられそうだけど。
「ん〜、じゃあ、様子見ながら。とりあえず二人の時はいつもの調子でしゃべるわ」
「おう。そうしてくれた方が俺も気軽だしな」
そうして、お互いに意見がまとまったところで、エリクが「ところで――、宰相についてだが。実際に見てどう思った?」と意見を聞いてきた。
「うーん。ぱっとみ普通のおじさんだけど。ちょっと臭い」
「臭い?」
「もちろん実際に匂うわけじゃないわよ。ただ……、なんというか、魔族の匂いがする」
「それは……」
エリクが、魔族という私の発した言葉に身を乗り出す。
「わからないけどねー! それだけだと。別に、国家転覆を狙って魔族と関わりを持っているとも限らないし」
魔族と言っても、実際には人間に害意を持つものだけが存在すると言うわけではないのだ。
基本、人間から迫害を受けているので(とはいえ魔族側にもそれだけのことをされる理由があるのだが)、人間に対して好印象を持っている魔族は少ないが、中には人に対して興味を持ったりする魔族もいなくもない。
だから、一概に『魔族とのつながりがある』と発覚しても、即ダウトかと言うとそうとも言い切れないのが難しいところだ。
「だから、宰相の方はあなたが洗ってくれる? 私はお兄さん探しに専念する」
そうすると、もしかしたら最終的にどこかで点と点が線で繋がることもあるかもしれないし。
そう言うとエリクは「洗うっつったってなあ」とどうすればいいのやらと渋い顔をするので。
「まあ、なんかいくつか役に立ちそうな物を渡しとくわよ」
エリクにそう言いながら、マジックバッグからいくつかの魔道具的なものを掌の上に取り出す。
手のひらに取り出した、耳飾り、指輪、宝石をそれぞれエリクに渡すために机の上に一つずつ置く。
「この耳飾りと指輪が通信機なの。耳飾りが受信機で私のしている指輪と繋がってるから、私が魔力を使って指輪に話しかけると、そっちの耳飾りから声が届くようになってる」
試しにちょっと着けてみて、とエリクに耳飾りをつけさせ、そのまま着けた耳飾りに触れさせる。
「……特に何も聞こえないが」
「そりゃ、魔力を流してないからよ。ほら、耳飾りの触れてる部分に魔力を流して」
私がそう指示すると、エリクが言われた通りに耳飾りに魔力を流したのを見てとったので、私も自分の指にはめた指輪に魔力を流し、システムを起動する。
「あー、あー、テステス」
「お、聞こえた」
すると、こちらの声に反応した様子で、エリクがぴっと背筋を伸ばした。
「よかった。ちゃんと繋がってるわね」
作るだけ作って、実用に使わずしまっていたのでちゃんと今も動作するか心配だったが、これなら大丈夫そうだ。
片方通行がうまく行ったことに安心した私は、逆にエリクに渡した指輪が私がしている耳飾りと対になっているので、そちらに話しかけると今度は私の耳飾りからエリクの声が聞こえるようになっているということも説明する。
話しかけている間は指輪に刻印されている術式に触れて魔力を流し込むこと。
話す側も聞く側も、魔道具に魔力を流し込まないと起動しないと言う代物である。
私からエリクに話しかけるのには成功したので、今度はエリクから私への通信がうまくいくか試してみる。
「あー、あー」
「うん、こっちも大丈夫ね」
よしよし、我ながら優秀!
前にも言った通り、私の専門は魔道具ではない。
けれど、無詠唱魔術で何ができるか、どこまでできるかというのは私の研究の範疇である。
なのでこれは、その研究の一環でできた副産物なのだ!
我ながら天才すぎて怖いわあー! と内心で自画自賛しているところに、なぜか目の前のエリクがなんだか少し照れ臭そうな顔で、私に向かってこう言ってきた。
「これってあれだな……、はたから見るとペアアクセサリーみたいに見えるな……」
と。
………………。
…………………………。
……………………………………。
へぁっ!?
た、確かに…………!?
耳飾りはお互い片耳ずつしか着けていないので、一対のアクセサリーを仲良く二人でひとつずつつけているように見えるし、指輪に関してはいい逃れようもなくペアリングだ……!
「あ、え……と、私はその、特にそんなつもりは……!」
「わかってる。というか、逆に俺としては、ニアにそのつもりがあってくれた方がある意味嬉しかったりしたわけだが……」
まあそういうタイプでもないしな、と言いながら、エリクは左手の中指にするりと指輪をはめた。
――私が指輪をはめている指と、同じ指に。
…………え?
なんかよくわかんないけど妙に照れくさいのはなぜだろう……?
そうは思いながらも、私は気を取り直して他の魔道具の説明をすべく、軽く咳払いをして気持ちを切り替える。
「……この宝石は、一見ただの宝石に見えるけど聖水を練り込んである。普通の人が触るとなんのこともないものだけど、魔族が触ると痛みを感じるし、近づくと色が変色するわ」
だから、何かのタイミングで宰相に触れさせるか持たせてみるといい、とエリクに手渡す。
「ふ〜ん。ぱっと見、ただの宝石だけどな」
「ぱっと見でわからないから試金石になるんじゃない」
「まあそうだな」
どういうタイミングで渡せるかはまた考えるが、とりあえずありがたくもらっておくよ、と言ってエリクが懐にそれを仕舞い込んだので。
「とりあえず私は、明日からお兄さんの動向調査に専念するわ。別行動になることが増えると思うから、なにかあったらこれで通信し合いましょう」
と言ってその夜は別れた。
はてさて。
うまいこと順調に、エリクのお兄さんが見つかると良いのだけど。
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