第8話 相方は王子でした
さて、それからというもの。
家屋の裏庭に転移陣を見つけた私たちは、それがダンジョンの外に巧妙に隠されていた対の転移陣と繋がっていることを発見した。
こりゃあ便利だ!
つまりは、ダンジョンの中に居を構えても、これがあれば外との出入りが容易だということだね! ということがわかったわけで。
再びダンジョン内に戻り、冒険者コンのタイムリミットの期日を迎え、しれっと冒険を終えた
「……冒険者ギルドがダンジョンを管理しているのに、ダンジョンのマスターが変わったことには気づかないのか?」
冒険者ギルドで冒険者コンのクエスト終了の手続きをする際、ボスらしきドラゴンを倒したことや、ダンジョンの主になってしまったことを問いただされるのではと心配していたエリクだったが、到達階数だけを伝えたらお役御免になったことにキョトンとなった彼が、もっともな疑問を口にした。
「管理って言っても。あくまで冒険者がいつでも好き勝手に入ることができないように入り口を施錠しているだけで、実際のところの管理者って意味じゃないのよ」
しかも、通常の
せいぜい、難易度の高い魔物を倒した証拠を見せて、冒険者ランクの査定のために、冒険者カルテに書き加えてもらうくらいだ。
つまりは――、言わなくてもいい情報は言わなくていいということで。
ダンジョンの主になりました――! なんて話、馬鹿正直にしたら面倒ごとにしかならないじゃないの――!
沈黙は金!
別に不正をしているわけでもないし悪事を働いているわけでもないからいいわよ、と言ったら「そういうものなのか……」とエリクがわかったようなわからないような顔をしていた。
――とまあ、そんなわけで。
私は――、いや。私とエリクはそれから、ダンジョン内に新しい居を構え、そこを生活の拠点とし。
時に一緒にクエストに行ったり、時にふらっと興味のあるクエストに
――う〜〜〜ん。
――やっぱり、一緒にいて楽だし、クエストに出てもやりやすい。
――これは、だいぶ良い拾いものだったのでは?
……人を、拾い物扱いするなどどういう教育を受けてきたのだと
言葉の表現としては適切ではないことはさておき、つまりはそれくらい、私にとってエリクは得難い人物だったと言うことを言いたいだけなのだ。
いやあ〜、これ、ずっと続いてくれないかな〜。
と、そんなことを思う反面。
しかし私は知っているのだ。
エリクが外で意外に――、いや意外でもなく。
女子に、モテるのだということを!
そうだよね〜〜〜!
あれだけイケメンで爽やかで、しかも優しくて強いときちゃあ、そりゃモテるでしょお!
いつか「俺、結婚したいと思える人ができたから、パーティ解消してほしい」と言われる日が来るかもしれないな……と、内心で戦々恐々としながら、それでもその日が来たら心から祝福するよ……! とも思いつつ。
相変わらずの、のらりくらりと惰性で日々を過ごしていた私なのだったが。
ある意味、私が恐れていたその日が来たのは。
私がエリクとパーティを組み始めてから、半年ほどたった日のことだった。
◇
「すまん、ニア。……パーティを解消してほしい」
「……えっ?」
その日、私がいつもどおり魔術の研究に勤しんでいたところに、エリクがとことことやってきて、突然重々しい雰囲気でそんなことを言い出したのだ。
「……えっ、あっ!? もしかして……、彼女できたの!?」
もしかして結婚しちゃう!?
おー!
ひゅーひゅー!
と。
それまで、こっちで勝手に脳内予想していたことがついに現実に起きたか……! と思った私が、思わず口にしたのだったが。
「え? いや、違うけど。なんで結婚……?」
と逆にエリクに戸惑われた。
あ、え……、違う? 違った!? えー!?
だって私、エリクからパーティー解消を申し渡されるときは彼女ができた時か結婚する時くらいしか想定してなかったんだけど、じゃあなに!?
え、私、エリクからパーティー解消を言い渡されるようなこと、なんかした……?
そう思いながら、これまでのエリクとの日々をふと真剣に思い返してみると。
そういえば「洋服を裏返したまま洗濯籠に入れるな」と注意されていたのを、ずっと守れていなかったな……。
あ、あと。食べ終わった後の食器をずっと、流しの水につけ忘れ続けていたような……。
はっ! それとも! 「髪を乾かした後、床に落ちた髪を拾え」と注意されていたことを無視し続けていたこと――?
………………。
あれ。
全然ないでしょと思っていたけど、ふと振り返ると意外と心当たりある……?
思い返すほどに心当たりのようなものが浮かんできた自らの所業に脂汗を流し、
「あの……、もし私の所業に思うところあってのことだったら率直に言ってもらえると直せる部分に関してはできるかぎり直すんで……」
と言うと、
「いや違う。ニアのせいじゃない。俺の事情だ」と、私の不安を否定するエリクの言葉が降ってきて。
あっ、違ったんだよかった……、と束の間ホッとしたのだったが。
エリクはそう答えながら、私とじっくりと話し合いの場を設けるためなのか、近くの丸椅子を自分に向けて引き寄せ、こちらに向き合うようそこにどっかりと座った。
「……俺、行かなきゃいけないんだ」
「どこに」
「それを言ったら、ニアも巻き込むことになる」
巻き込むことになる――と言われたとて。
じゃあ何も聞かずにハイさよならと言えるほど、すでに私とエリクとの縁も浅くはないわけで。
「……それって、やっかいごと、ってこと?」
「ああ」
私の問いかけに、珍しくエリクが重々しく答える。
……珍しい。
基本的にエリクはいつでもどこか飄々としていて、私がマイペースにエリクの言うことを聞かずにいろいろ
「それなら、余計私は聞かずにはおけないでしょ」
困っている相方を助けなくて、何がパーティーだ。
……まあ、言っても私はもともとそんなに
それでも、これまでずっと、楽しく居心地よくいさせてもらった諸々の恩義を返そうという気心ぐらいはある。
「ニア……」
私の言葉に、エリクが一瞬、心を打たれたような表情を見せる。
だけどそれも束の間、再び何かを決心したような顔に戻って、「でも、命に関わるかもしれないことだ」と真剣な面持ちで告げてくる。
「命に関わるなら余計ほっとけないでしょ。それ聞いて一人で行かせるとか後味悪すぎるし。それにエリクは、もう十分私の強さも知ってるじゃない」
ちょっとやそっとじゃ死なないって!
だから言ってみな! と。
ドン! とエリクの肩を叩きながら言うと、
「それは……、俺の話を聞いても、俺についてきてくれる選択肢があるってことか?」
「聞いてみないことにはなんとも言えないけど。逆に聞かないことにもなんとも言えないわよ!」
だからほら! 言ってみ! と更にエリクを促すと。
促された方のエリクは、少し逡巡するような様子を見せた後に、はあ、とため息なのか呼吸を整えたのかどちらとも取れる息をつき、それから口を開いてこう言った。
「実は俺――、この国の王子なんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます