第6話 ドラゴンオーブ
「エリク!」
「っ
爆発の衝撃で転がり出てきたエリクを見つけ出すと、私はエリクの無事を確認するためそちらに向かって慌てて駆け出した。
ドラゴンの体内で魔術を爆発させたとは言え、肉片は飛ぶからね……。
あと運が悪ければ骨片も飛んでくるから、それが刺さると怪我の元だよ。
それを防ぐために、爆発直前にエリクの周囲に結界をはったわけだけど、無事を確認するまでは安心できないじゃない。
「エリク! 大丈夫?」
「多分……」
そう言って座り込み頭を振るエリクに、私はどこか怪我をしていないか腕を持ち上げたりジロジロ身体中を確認してみたが、とりあえず大事に至るような怪我はなさそうだった。
「……大したもんね。ドラゴンとあんな至近距離で戦ってほぼ無傷なんて」
「それはこっちのセリフだ。なんなんだよお前のあの意味わからん魔術は!」
詠唱魔術に並行して無詠唱魔術二重でしかも打ちまくりとか意味わからんだろ!
「そう言われても……」
意味わからんと言われても、できるもんはできるし。
と言っても、私の他にできる人なんてそういないだろうけど。
「ニア……、本当に何者なんだ……? まさか魔族とか言わないよな」
「なわけないでしょ。どう見たってただの人間でしょうに」
確かに。魔族の中には人間に擬態するのがうまいやつもいるけど。
でも魔族は基本詠唱魔術を使わないからなぁ。
わたしたち人間より根本魔力の源に近い魔族は、呪文を媒介せずに魔力を操る。
手足を動かすのと同じ感覚で、随意で魔力を具現化させることができるのだそうだ。
それはもう、術という手段を経由しない時点で、魔術とは言わないのだけど。
そこまで説明すべきかと思っていたけど、どうやらエリクは私の言葉を素直に信じてくれたようで、「世の中、いろんな人間がいるんだな……」の一言で片付けていた。
いやあ……、この人ホント、大物よね。
「あっ、ねえ。ドラゴンオーブ欲しいドラゴンオーブ!」
とりあえず、彼の中でわたし何者問題が解決したらしいエリクの袖をくいくいとひっぱりながらそう言う。
「ドラゴンオーブ?」
「知らないの? ドラゴンの核よ! そのまま売っても高く売れるし、魔道具とかの素材としてもめちゃくちゃ価値があるんだから!」
せっかくドラゴンを倒したんだから、持って帰りたい!
「つまりは、お宝、ってことか……。どこにあるんだ?」
「え? 核って言うからには体内にあるんじゃないの?」
「…………どこ…………?」
私の言葉に、エリクがダンジョン内に横たわるドラゴンの巨体を見あげる。
「これを俺に……、あてもなく
「…………」
そういえば私……、核の場所って知らんな……。
過去、ひとりでドラゴンと対峙したときは、大抵跡形もなく吹っ飛ばしていたし(その時はドラゴンオーブの存在を知らなかった)。
ドラゴンの核がドラゴンオーブなのだと知った後、採取目的で討伐した時は、同行してくれた研究者が掘り出してくれたし。
うーん……。
「諦めるか……」
「いや待て、諦めるの早すぎるだろ」
「だって、こんなの解体してたら日が暮れちゃう」
しかも血生臭いし。
その血生臭いことをちゃっかりエリクにやってもらおうとか不届きなことを考えていた私だが。
そんな話をエリクとやいのやいのしている時だった。
私たちの隣で横たわっていたドラゴンが、淡く光を放ち出したのは。
「あれ……」
ドラゴンの全身を包むように、キラキラとした光が身体中を纏ったかと思うと、ぱぁ……、とその光が霧散し、それと同時にドラゴンの体も消失した。
「おい、消えたぞ……」
「あっ、ちょっと見てあれ」
ドラゴンの体が横たわっていたちょうど中心と言える部分。
そこに、きらりと光る何かが転がっているのが見えた。
近づいてみるとそこには、ドラゴンオーブにも見えなくもない、黒曜石にも似たつるりとした石が落ちていて。
「これが、ドラゴンオーブなのか?」
「……かなあ?」
「かなあってなんだよかなあって」
「だって。ドラゴンオーブは完全な球体なの。でもこれ、卵型だし……」
む?
エリクと会話を交わしながら、くるくると卵状の石を眺め回していたら、あることに気がついた。
「……これ」
「なんだ?」
「ゴーレムの核だわ」
「は?」
「ほら見て、ここのとこ。文字が刻んであるでしょ?」
これが呪文になってて、ようするにこれを核としてドラゴンのゴーレムが生成されているらしい。
「でも、切った感触は普通にゴーレムじゃなく肉の感触がしたぞ?」
「それだけ、優れたゴーレム生成術を持ってるってことよ……」
この私でさえ、この核の部分を見るまでゴーレムだとは気づかなかったのだ。
エリクが切った感触でわからなかったと言っても無理はない。
……これ、またこの呪文の部分に魔術を流し込んだらゴーレムができるのかな……?
とはいえ、ゴーレムの核というには、ちょっと……、術式が長すぎる気がするんだよなあ……。
古代語で書かれた呪文は、所々書かれていることは読めるが、文字も小さくかなり複雑になっているので、ここですぐに判別することが難しい。
ゴーレム生成のためだけの術式というよりは……、ゴーレム生成の方がオマケのような……。
う〜〜〜〜〜ん……。
……やってみっか!
……何事も一歩踏み出してみないとわからないって言うしね!
またドラゴンになっても、また倒せばいいし!
そう、楽観的思考の元、行動に移した私は、手にした卵型の核にさっそく呪文を流し込んだわけだったのだが――。
その瞬間。
ダンジョンが、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……、と激しい音を立てて、揺れ始めたのでした……。
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