第5話 ダンジョンの奥
オークを倒し。
アウルベアを倒し。
バイコーンを倒し。
途中行き合った冒険者たちと交流しつつ、
「そろそろだと思うのよね……」
2日間、ぐるぐるとダンジョンを巡り階層を降りながら、他の冒険者との情報交換でだいぶ詳細が記されるようになった地図を見ながら辺りを見回す。
「ここのボスモンスターか?」
「そうよ。まあ、私の目的はここのボスじゃないんだけど……」
とはいえ、往々にしてダンジョン内の重要なお宝はボスモンスターが守っている傾向がある。
まして、ここは【志学】のダンジョンだ。
一説には【志学】のダンジョンは、かつて著名な魔術師が自らの研究室を設置するために作り、外部からの侵入者防止、および弟子の育成場のために魔物を放つダンジョンとして制作と言われている。
となると、私の目的である魔導書その他もろもろは、最奥部でモンスターに守られている可能性が高いと踏んだわけなのだけど。
結構なハイペースで進んできたほうだから、多分他の冒険者にはまだ先を越されてないと思うのよねー、と思いながら、魔術で作った明かりで周囲を照らす。
ダンジョンというのは、低層階はちゃんと光源があり緑が生い茂っていたりするが、8階くらいまで降りてくると『これぞダンジョン!』みたいな暗闇・石壁・迷宮の3点セットになる。
なるべく明かりを分散させて広く照らし出せるようにはしているが、驚くことに魔物に光が当たって視認するよりも、エリクが感覚で察知する方が早かったりする。
その辺り、剣士ゆえの感覚なのかどうかわからないが、魔力感知を優先して純粋な気配探知が遅れがちな私にとっては貴重な存在だなと実感する今日この頃である。
「――待て」
と、そんなことを考えていたら、ほぼ私の隣を歩いていたエリクが、行く手を遮るように私の体の前に手を差し出し、歩みを制してくる。
「しっ」
唇の前に指を立て、ほとんど音もなくそう指示をしてくるエリクに、私は一体何事かと見つめる。
――どぉ……ん……。
そんなに遠くはない場所から、大きな衝撃音が聞こえた。
「戦闘してる……?」
「行くわよ!」
「あっ!」
訝しむエリクを待たずに、私は音が聞こえてきたであろう方向を目指して駆け出す。
戦闘してる? じゃない。
――戦闘している。間違いなく。
しかもおそらく、ここのボスモンスターと。
「……やだやだやだっ! ここまできて、魔導書取られたくなぁああい!」
「そっちか!? 俺はてっきり、他の冒険者を心配して助けに行こうとしてるのかと!」
先陣きってダッシュして、ぶっちぎりでおいていったはずのエリクにいつのまにか易々と追いつかれている。
「知らんわ他の冒険者とか! まずいと思ったらちゃんと逃げるわよ子供じゃないんだから!」
「そうは言ってもなあ!」
「「ひぃぃぃいいいいいいぃいいいい!」」
大声を交わしながらエリクと目的地に向かって猛然と走っていた私たちだったが、「あれが入口か!?」という穴を廊下の先に見つけた瞬間。
複数名の男女が悲鳴を上げながら部屋から転がり出てくる場面とかちあった。
「なんだ!?」
「エリク! あれ!」
出ていった冒険者たちを訝しげに目で追うエリクと、室内に目を向ける私。
一足先に室内で暴れ散らす魔物をみた私は、その姿をみて事態を一瞬で理解した。
「ド――」
ドラゴン――――!?!?
「おい! ドラゴンがいるなんて聞いてないぞ!」
「私だって聞いてないわよ!」
しかも、中にいるのはドラゴンの中でも上位種のブラックドラゴンだ。
ドラゴンというのは、最上位種のエンシェント・ドラゴンを筆頭に、レッドドラゴン、ブルードラゴン、ブラックドラゴンが存在する。
めちゃくちゃにわかりやすいことにレッドが炎属性、ブルーが氷もしくは水属性、ブラックが土属性なのだけど(ちなみに普通の緑色のドラゴンは風属性だけど、グリーンドラゴンとは言わないらしい。なぜだろう)、炎や水は相反する属性をぶつければいいから戦いやすいのに反して、土属性が相手としてはひっじょーにやりにくい。
炎・氷の耐性強いし、水だとどんだけ時間と物量が必要かって問題だ。
しかも基本攻撃が地鳴りだからね!
魔術がないとだいぶきつい!
「エリク! こっちで注意を引きつけながらでっかい呪文詠唱するから、その間にアイツの表皮になるべく深い傷付けてくれる?」
ぶっちゃけて言うと、どんなに表皮が硬くても、外側から完全消滅させられるだけの術も無くはない。
でもそれをここで使うと、衝撃でダンジョンが崩れて私たちが生き埋めになる気がする……!
多分、本気の術を使うと、いくら古代魔術で編まれたダンジョンだろうと、平気でぶっ壊しちゃう気がするんだよなあ!
てなわけで、果たして
「わかった!」
言われた当の本人は、そう簡潔に答えてたたたっ! とドラゴンめがけて走っていった。
えっ! やっ!? ちょっ!?
素直すぎだし早すぎでしょ!?
あの男! 全く臆することとか知らんのかい!
そう思いながら、私は慌ててドラゴンめがけて無詠唱で『
右手に持つ杖で『
左手にはめた指輪で防御結界。
そして、最後のひとつは自らの口だ。
両手で無詠唱魔術を放ちながら、本命の呪文を口で唱える。
――基は闇を照らす者 または悪しきを浄化せし者
そう。
私が無詠唱魔術の研究に熱を上げたのは、単に呪文の発動速度を上げるためじゃなかった。
詠唱中に無詠唱魔術を同時発動することで、詠唱時間を稼ぐ。
本来、後衛である魔術師が、一人で完結できるようになる術。
――すべての罪深きを
――有と無の海に
そして、私の得意とする詠唱魔術が力の源とするのは――、精霊以上の存在。
――よりて満ち 我が
呪文を唱える視界の先、まさにちょうど良いとしか言いようのないタイミングで、エリクがドラゴンを深々と傷つけた。
『
呪文を発動させるキィ・スペルを唱えた瞬間、無詠唱でドラゴンの近くにいるエリクに結界をはり。
ドゴオォォォォォォォォン……!!
瞬間、私の放った術によって、内部から炸裂したドラゴンが地に倒れ伏す音が、ダンジョン内に響いたのであった。
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