第3話 大当たりの相方

 そうして、そんな経緯で参加することとなった、初めて参加した冒険者コンでペアを組まされた相手は。


「――エリクだ。よろしくな」


 すらりとした高身長、柔らかそうな短髪の黒髪に優しげな琥珀色の瞳を持つ、かくも爽やかなイケメンで。


 そんな爽やかなイケメンが、爽やかな顔で、にこりと笑って私に向かって握手を求めてくる。

 初めて参加した冒険者コンでペアを組まされた男はどうやら、期待しないで参加した割にはなかなかの好青年のようだった。


「……ニアよ。よろしく」


 そうして、こちらに差し出されてきた手を握り返しながら、私も彼に向かってさらりと名を名乗る。

 握手を握り返した時に触ったエリクの手は『おお、ちゃんと剣士をやってきたんだな』と、剣術ど素人の私でもわかるほどに、剣ダコで固くゴツゴツとしていた。



 そうして、初めましてから始まった冒険者コンでのマッチングは。

 ――あらゆる意味で、大当たりだった。



 ◇

 


「エリク! 右!」

「おう!」


 私が叫んだ位置に現れたオークを、エリクは正確に手にした剣で刺し貫き、そこにすかさず私が魔術でとどめをさす。


火焔フレイム!』


 魔術で放った炎を、エリクが刺し貫いた箇所に向かって寸分違わず狙い当て、内部から炎で焼き尽くす!

 

「ニア! こっちもだ!」

火焔フレイム! ついでに雷霆一閃サンダーボルトっ!』


 先ほどとは反対側から差し迫った別のオークに、エリクの攻撃を支援するように同時に火炎と雷撃波を撃ち放つ。


 正直――、『イケメンはなんだかんだ見掛け倒しでそんなに強くないんじゃないか』という私の予想を裏切り、エリクは有能すぎるほどに強かった。


 普段は誰かと組むくらいなら一人の方が効率いいし気楽だと思う私が、面白いくらい意思疎通ができて連携しやすく、魔物も楽に倒せるのだ!


 すごい! 天才か!?

 

「ふう……。こんなもんね」


 そう言って、その場に現れたオークをひととおり倒した後、私が汗を拭きながら一息ついていると。


「よ、なかなかやるじゃないか」

「そっちもね」


 同じく汗を拭きながら近づいてきたエリクに私は「大丈夫? どこか怪我とかしてない? 簡単な回復ならできるけど」と声をかける。


「大丈夫だ。誰かさんのサポートがいいからな」


 と、こちらの問いかけにそう答えたエリクは、私に向かってにこっと笑って見せる。

 

 ……う〜ん、爽やか。

 

 しかもね、この人、何が優秀かって。

 生活力がもの凄くあるのよ……!!


 たとえば、ちょっと休憩しようとか言う時に黙って火を起こしてくれたり(ちなみに私は魔術を使わないと火を起こせない)、地べたに座るかーと思うとさっと敷布を出してくれたり。


 それが嫌味じゃなくさらりと出てくるものだから、一緒にいてすっごく居心地いいったら!!


 正直、前世も含めてそれなりにいろんな人と行動を共にはしてきたけど、こんなに居心地のいい人は初めてと言っても過言ではなかった。



「しかしまあ……。ダンジョンってもんに初めて入ったけど、すげえんだなあ……」


 汗を拭き、水を飲み、あらためて周囲を見回す余裕のできたエリクが、頭上に広がる大樹の葉と、足元の足場になっているその幹を見ながらそうつぶやく。


「エリクはダンジョン初めてなの?」

「ああ。だから、ギルドで今回の企画を聞いて、見てみたいと思って申し込みしたんだ」

 

 婚活の相手じゃなくて、申し訳ないって謝るべきか? と、エリクから苦笑しながら言われたのだったが。


「それをいうなら私だって、婚活目的というよりもこのダンジョンの中にあるって言われてる魔導書目的だもの」


 エリクのことなんか責められない、と私も返す。


「じゃあ俺たち、ちょうどいい同志だったんだな」

「そもそも、この冒険者コンで恋人目的とか結婚相手探しに本気で申し込む人がどれくらいいるのかって話だけどね」

「確かに」


 そう笑い合い、束の間の休憩とダンジョン内の緑を楽しむ。

 

「ここが地下だとは思えないな」

「この手のダンジョンって何故か、入り口近い低層階はこんな感じで緑が生い茂ってるのよね〜……」


 おそらく、どこかに太陽の代わりとなる光源が魔術で据えられているのだろう。

 流石に青空までは見えないが、頭上に重なる葉と葉の隙間からは、木漏れ陽と言って差し支えない柔らかな光が降り注いでくる。


「さて、そろそろ行くか」


 適度な休憩が取れたと思えるタイミングで、エリクがそう言って立ち上がる。


「俺は単に、ダンジョンに興味があってここに入ってみただけだけど。ニアは魔導書を探すって目的があるんだろ? 邪魔じゃなければ俺も付き合うよ」


 せっかくだから色々ダンジョンの中を見てみたいしな、とエリクが言う。


「え……、いいの? 正直、私も具体的にどこにあるかまではわかってないんだけど……」

「なら尚更、ひとりで探索するよりは相方がいた方が良くないか?」


 そう言ってエリクは、私に向かって人当たりの良さそうな顔でニカリと笑う。


 い……、良い人〜〜〜〜〜〜〜!

 良い人すぎて悪い人に騙されないかなってちょっと不安になるくらい良い人!

 

 本当は、ある程度適当に冒険者コンでのマッチングでパーティーを組んで探索したら、後は相手に事情を説明してソロで潜ろうと思っていたのだ。


 でもエリクの言ってることはもっともで、冒険者コンでのダンジョンの解放期間が3日間しかない以上、あんまり悠長にもしていられない。


 ひとりより誰かもうひとりいてくれると、精神面でも体力面でも助かるのは確かで。

 ひとりだとほぼ休みなく探索することになるが、他にもうひとりいてくれると、片方が見張りをしてくれている間片方が落ち着いて休憩できる。

 まして、エリクのように気遣いや気配りに優れた相手ならなおさらだ。


「……いまよりもダンジョンの深部に入っていくと、魔物も強くなるし危険度も増すけど」

「大丈夫。もうわかってもらえてると思うけど、俺、多分そんなに弱くないし」


 足手まといにはならないよ、と。

 これまた、私が思っている通りのもっともなことを言われる。


 確かにね!

 こんなに阿吽あうんの呼吸で一緒にバトれる人、そうそういなかったし!

 断る理由なあああああい!


「じゃあ、お言葉に甘えて!」


 断る理由がなんかあるんじゃないかと考えたが、考えても結局ぱっと浮かんでこなかったので素直に相手の好意に甘えることにした。


「あの! 途中、魔導書とかマジックアイテム以外で欲しいものがあったら、いくらでも譲るからね!」と一応のこちらの譲歩も見せつつも。


 別に気にしなくて良いのに、とひらひらと手を振る目の前の好青年を見て「もしやこれは、家から理不尽に追い出された私に対する神様からの埋め合わせなのではなかろーか」と思ったのだった。

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