第2話 冒険者コン
そうして、家族に『ビシッ!』と啖呵を切り、
「ああああああ、お金が無ああああああい! 無くはないけど足りなあああああい!」
――たどり着いた最寄りの町の冒険者ギルドで早速、絶望にくれていました――。
お金が……。
お金がない!
いや、全くないわけじゃないのよ!
腐っても男爵令嬢だったわけだし……。
冒険者の仕事を引き受けていたから、それなりに稼いでもいたわけだし……!
でも、でもね……、魔術の研究とかするには全然足りないの……!
いやさあ、魔道具のための加工用金属とかいくらするか知ってます……?
魔導書だって希少本買おうとすると本代が馬鹿にならないし!
それに、そもそも私、世間の相場をよく知らないから、生活するための家を借りたり家具を買ったりしたらどれだけ残るんだろ? って話よ!
あああああ、お金があああああ……。
とまあ、それをなんとかしなければと思ったわけだから、お金を稼ぐべく冒険者ギルドに来たわけなのだったが。
◇
「あら、ニアさん。お久しぶりですね」
冒険者ギルドに顔を出すと、馴染みの受付嬢がそう言って私に声をかけてくる。
先程もちらっと述べたが、魔術の実践とか研究のために冒険者登録をしている私は、一応この最寄りの町では顔見知りになるくらいには冒険者ギルドには馴染みがある。
もちろん、貴族であるという素性は明かさずに。
「ううん……、ちょっと色々あってね……。ねえ、割のいい仕事とかない? お金を稼ぎたくてさ……」
「あ〜……、今ですか?」
今はぁ……、と渋い顔を見せる受付嬢に、私は「なんだ?」と眉間を寄せる。
「なに?」
「今、ニアさんに紹介できるような高額案件とかないですよ。と言うかそもそも、ここら一帯の強力な魔族はみんなニアさんが服従させちゃいましたよね?」
「ああ……、うん……、そうね……」
そうでした……。
魔術の実践だ! と張り切って高難度クエストを受けまくった結果、ここらの強い奴らはほぼ私が制圧したんでしたね……。
はは……、と受付嬢に気まずい顔を見せながら、それでもなんとか稼ぎ口を見つけないと、と必死で彼女にがばりと縋り付く。
「高額じゃ無くてもいいの……! とりあえず日銭でもいいから……!」
「だ、だったら、これとかどうですか?」
そう言って縋り付く私に、受付嬢(ごめん、名前忘れちゃったんだ、ほんとごめん)がペラリと一枚チラシを差し出してくる。
「……冒険者コン……?」
「ちょうど明日から、うちの冒険者ギルド主催でやるんですよ! ほんとは、男女カップリングの町興し目的で起案してたんですけど、全然人が集まらなくて」
だから、男女のマッチング目的じゃ無くても、仲間集め目的とかでの参加でもいいからと、幅を広げて参加者を募っているらしい。
……まあそらそーでしょーね……。
マッチング目的の層がいないとは言わないが、かなりニッチなのは火を見るより明らかで。
よく冒険者ギルドもこの企画にGOを出したなあ、と妙な感心をする。
「女性は参加費無料ですし! そのために今回は特別に【
「えっ!? ダンジョン開けるの!?」
ダンジョンとは、その名の通りモンスターが住まう地下ダンジョンで、この時代ではその管理は主に王宮と冒険者ギルドが管轄を分けて行っている。
大昔にどこかの偉い魔術師が封印して回ったダンジョンを、たとえばどうしてもそのダンジョンにしかないアイテムだったりが必要な時に、申請を出して開けたりすることがあるのだ。
「冒険者コンで開けるとか、正気? 大丈夫なの?」
「それがですね……、そこまでしないともう、参加者こないかなあって結論になっちゃっててぇ……」
ダンジョンの『風通し』にもちょうど良いタイミングでしたし、赤字になると私たちのお給料にも響くんですう! と言ってのける受付嬢からして、やっぱりこの冒険者ギルドちょっとイカれ気味だなと思った。
「あっ! いやっ! もちろん、挑戦ランクは設けますよ! 流石に初心者とか参加させないですし!」
あと、開催期間も設けるので、3日経ったら自動的に中にいる人間は転移されるようにしますし! と受付嬢が説明する。
まあ確かに、チラシを見てもいま受付嬢の彼女が言ったこととほぼ同じことが記載されている。
一応、安全上の注意は払われてるってことか……? と思っていると。
「ねえ〜、ニアさんも参加しましょうよ〜。女性の頭数少ないんで、ニアさんが参加してくれると、こっちとしても助かるんですよおお〜」
と押してくるので。
確かに、普段はダンジョンが一般冒険者向けに解放されることなどそうそうないので、正直興味がありすぎるくらいに興味がある。
ダンジョンというのは普通、先ほど述べたように常時は王宮と冒険者ギルドが手分けして入り口を封じ管理しているのだが。
ずっと封じっぱなしにしていると知らない間にモンスターの無法地帯になり危険度が増す可能性があるため、こうやって定期的に解放し腕の立つ冒険者に入ってもらい中を風通し良くさせることがあるのだ。
どうやら今回は、それと冒険者コンをぶつけて、一石二鳥でいこうというギルドの魂胆らしいけど……。
確か、【志学】のダンジョンってさあ!
奥に古代魔術の魔術師が残した魔導書部屋があるって言われてるんだよね……!
ええ〜〜〜〜〜!
行きたいいいいいいい!
…………。
……うん。
いや、躊躇する理由なんてなかったわ!
「……今日泊まる宿の割引チケットもつけてくれるなら」
「はいっ! 了解です! 交渉成立ですねっ!」
と。
すんなり「いいわよ」と言えばいいものを、そこはどうせならついでにと、仕方ないなあと渋る様子を見せつつ宿の割引もしてもらえたらとちゃっかりお願いをしてみたら、あっさりオーケーをもらえたので。
こうして私は、冒険者コンに参加することとなったのであった。
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