元伝説の魔術師令嬢、役立たずは出ていけと言われたので冒険者コンに参加したら庶子の王子とマッチングしました!
遠都衣(とお とい)
第1話 ニア、家から追い出される
――ある日突然、父親から家を出て行けというようなことを言われた。
「ニア、お前は……! このひと月以内に上級貴族の結婚相手を見つけることができなければ、問答無用でこの家から追い出すからな!」
この、穀潰しが! と。
…………えっ!?
「それってつまり、玉の輿できる結婚相手を見つけて出ていくか、見つけられなくてもそのまま追い出すから、どっちみち私をこの家から追い出すってことよね!?」
つまるところそれは、私に家から出て行けって言ってるのと同義よね!? ――と。
思わず父にそう言い返したら。
「お前みたいな家の恥をいつまでも置いておけるわけがないだろう! ここまで育ててやったことだけでも感謝するんだな!」
と、そう言い捨てられた。
………………え。
えええええええ〜〜〜!?
ちょっ、親としてその発言ってどうなの〜〜〜〜〜!?!?
え、いやいやしかもなによ?
なんかよく見ると、父親の後ろにいる妹をはじめとする他の家族たちも、私を嘲るようにくすくすと笑ってるし。
「え、あの……、家の恥って言うのはその、一体どういう……?」
「いやだお姉さま、わからないの? いい年した貴族の娘が部屋に引きこもって怪しげなことばかりしたり、汚らしい格好で外に出て、冒険者まがいなことをしていらっしゃるじゃない……!」
お姉さまのせいで、私たちがどれだけ恥ずかしい思いをしたかわかってらっしゃらないの!? と。
……ああ、なるほど。
妹のメアリが言っているのは私がライフワークとしている魔術の研究のことだ。
確かに、メアリのいう通り、魔術の研究を人生の第一とする私は、日頃から部屋にこもって研究をしたり、ある程度成果が見えたら実践と称して外に実技実験をしに行ったりしていた。
でも――。
「それで稼いだお金は一部だけどちゃんと家に入れてたし、お父様がお金に困っていた時、私が
「う……、うるさい! それはそれだ! そんなよくもわからんあやしげな研究よりも、上級貴族に嫁いで家の役に立つことの方がよっぽど有益だというのがお前にはわからんのか!?」
はあ!? 意味わからんし!? いやわかりはするけどさ!?
貴族の家において、娘の結婚が大事な役割を果たすことぐらい私だってわかってるっての!
だからそれでつい数ヶ月前、父親に言われるがままに仕方なく行った舞踏会で、私を口説いてきた男がいたからそいつを紹介したら、なんかよくわからんがメアリの婚約者にと横流ししやがったじゃんか!
その時メアリがアプローチしていた男よりも爵位が上だったからとかなんとか!
私よりもメアリの方が男の扱いが上手いからとかなんとか!
いやね、私は別によかったのよ?
その、口説いてきた男の人には少し申し訳なかったけど、結果メアリと仲良くやってるみたいだったから、それが双方にとって幸せなんだなと思っていたし。
私には魔術の研究の方が大事だったし。
でもさあ!
うちの家族さあ……!
感謝しろとかまでは言わないけど、この扱いはないんじゃないのおおおお!?
確かに魔術の研究に明け暮れちゃってたのは外聞的に良くなかったかもしれないけど、私だってそれなりにこの家に貢献しようという気持ちはあったんですけど!?
だからなんだかんだ言われながらも、言われたことにはそれなりに前向きに協力してきたつもりだったんですけど!?
魔術の研究だけは止められなかったけど!
――と、ギャンギャン嘆いてみたものの。
まあ確かに、改めて思い返してみると「私、あの家の中ではなんかずっと冷遇されて暮らしてきたような気がするな……」と思った。
貴族と言っても男爵で末端貴族である我が家は、どちらかというと自らの才覚で成り上がろうというより、他人のふんどしにあやかってうまい汁を吸おうという志向の強い家で。
だから、両親も兄も権力者におもねろうとする姿勢が強いし、妹も上級貴族の子息に媚を売って玉の輿を狙うようなタイプで、自力で色々と頑張りたいタイプの私とは明らかに合わんのよなーとずっと思いながら暮らしてきたのだ。
……あれ、そう言えば。
ここ数年、食事も家族の集まる席に呼ばれていなかった気がする……?
私自身、研究に没頭すると寝食を忘れてしまうタイプだから、そのあたりあまり頓着もせず気にもしないできたけども、そう言えば家族一緒の席に居合わせることもここ数年なかったような……、ということに思い至った。
……なるほどお!
つまり今回の話は、体のいい厄介払いってことだね!
わーお!
と、最終的にそうきっぱりと結論づけて。
「じゃあ、わかりました! 私、あなたたちの期待に応えられそうにないので、すっぱりさっぱり出ていきます!」
と言って。
ぱっきりきっぱり爽やかに――、私の言葉にぽかんとした家族を残して、大手を振って家を出ることにしたのだった。
◇
――さてここで、私のことを少し自己紹介しておこう。
私の名前はニア・クレイドル。
しがない男爵令嬢である。
そして、突然なんだと思うなかれ。
私には――前世の記憶がある。
前世で超超優秀な魔術師だった私は、今世も前世の記憶を引き継いで生まれ変わった。
なぜかと言うと――、前世で取り組んでいた魔術の研究を、死んだ次の生も続けたかったからだ。
そのために、既存の研究と並行し【生まれ変わった後も記憶を引き継ぐ術】を研究し編み出し、実行したらその場で即死んでしまった。
そうして、死んだ先のあの世で、神様に怒られた。
『――お前、そりゃあ禁術だよ』って。
まあそりゃそうだ。
輪廻転生に絡んじゃうもん、神域に触れちゃう力だよね。そうだよなあ――と深く納得した私に。
神様は私の目の前で、大きく嘆息した後にこう言ったのだ。
『編み出しちまったもんは、まあしゃあない……。1回目だから目を瞑ってやるが、2回目はないからな』と。
こうして、幸いにもというか、一度目だからお咎めなしという温情を受けた私は、禁術の記憶だけ綺麗さっぱり消された後、今のこの姿、ニア・クレイドルとして生まれ変わったのだった。
ニア・クレイドルとしての人生は――、まあ先ほど見ての通りだ。
平民に生まれるよりはまあ境遇はよかったとは思うが、いまやそれも失ってしまった。
――でもまあ、ろくでもない家族と一緒に居続けるよりは、いっそよかったのかもね!
むしろ確かに、父の言う通り、独り立ちできるまでは魔術の研究ができる環境で育ててくれてありがとうと言ってもいいのかもしれない、と楽観的に考えながら。
とりあえず私は、近くの街に向かって歩き出したのだった。
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