5 ゼフィス
エレンケイア。
それはロフィス・エントクロマイヤーがもといた世界で伝説に語られる破壊神の名前である。
天より突然現れ、人間の文明を灰燼に帰した破壊神。その世界の人々はおとぎ話にしか捉えていなかったが、存在していた。
ただし、破壊神ではなくその世界に機能するプログラムとして。
元々は一定値以下へと下回らないように自然環境を保全するためのプログラムシステムだった。
だがいつしか環境の前提条件である人類を異物として認定・判断し、排除するようになってしまった。
また間の悪い事に、エレンケイアを作り出した文明は人類同士の戦いで破滅し、作られたプログラムだけが残されてしまった。
そのため、【エレンケイア】は人類が一定数越えるたびに出現し、間引きを行うようになっていたのだった。
このシステムを解明したのがエントクロマイヤー家、ひいてはロフィスの父親であった。
彼はプログラムの分解を試みたが、エレンケイアは長期運用によって自己に目覚めつつあり、断念。
可能な限り超圧縮させ、別のものに移す必要があった。信頼できるものであっても知り合いに移植できないと判断し、やむなく自身に移植する。
父親が死を迎えればエレンケイアも意味消失する、という根拠の無い推測からであった。
その後、エレンケイアは発現することなくロフィスの代となったが思わぬトラブルに遭遇する。
ロフィス自身の異世界召喚である。そこでさらに異なる異世界人と接触した事により不安定化してしまった。
エレンケイアがロフィスに現れる可能性はあったが、その前に元の世界に帰還を果たし、再安定を図ることができた。
しかし、これらの問題をロフィスは異世界に行ってしまったことの精神バランスの不安定化、という誤解をしていた。
エレンケイアが人類の成長を理解するため親から子への受け継ぎを見守っていた事をロフィスは知る由もなかったのだ。
結局、エレンケイアがまだ存在している事を知らずにロフィスは、静流マサキと結ばれ、双子を為した。
エレンケイアは双子の男子のほう、ゼフィスに継がれる。そしてロフィスは知る。
わが子が使う部分異形化の技が、遠い昔に父に聞かされたエレンケイアの術式と似ている事を。
エレンケイアは父とともに天に還ってなどいない。これまで脈々と受け継がれていた事を。
ロフィスはそれを知りながら、黙して語らなかった。彼自身が、この世界で洸耶やマサキと乗り越えたのだから、我が子にもそれができると信じて。
*****
次の日の昼前。
ゼフィスは移送され、藍明守病院で身体検査を受けていた。
体質調査、精神検査、運動能力検査等々。検査服から元の服に着替えて、事情聴取に移る頃には神威と優雅の二人が到着していた。
「ん、お疲れ」
自動販売機が並び、簡易的なテーブルや無機質な長椅子が並ぶ休憩エリアで総司が座って二人を迎えた。
総司の向かい側にはゼフィスが座している。事務的な事情聴取には見えない。
「存外、血色は良さそうだな」
「お互い重傷にならなかったからな」
到着した二人が騒動についてどれほど情報を渡されていたか総司は知らない。二人には重大な事件として伝わっていた。
暴走したゼフィス相手に待機していた総司がかなりの無茶をしでかしていることを予測していたのだが、二人とも特に負傷している様子はなかったのである。
ゼフィスのほうが少々ばつが悪そうな顔をしているので、優雅なりに総司を茶化したつもりだったのだ。
「事情聴取といっても、時系列的にこの騒動でこいつに聞くことはほとんどなさそうだと思ってる。何しろ意識はほとんどなかったんだからな。」
「そういうことになる」
総司は自信満々に言うが、ゼフィスは目を逸らしている。正直なリアクションである。
「それならいいが」
それで話が通じるならと神威は一件をスルーする。もはや済んだ話であるのと、エルレーンとリヴァイアサンというのが大きな問題として浮上しているからだ。
リヴァイアサン。それは人工島施設のことである。作ったのは合衆国。合衆国とは国交が断絶しているので、何らかの理由でエルレーンという男に占拠されたということになる。
聞けば優雅はエルレーンの姿は目にしていたという。彼が【デモニック】という薬物を、リー・パーシアスを通じて広めて実験を行っていたようだ。
リー・パーシアスの所業と繋がりは、エルレーンによって隠滅されていた。その程度の暗躍はしていたのだ。
ディレイフニルがエルレーンに協力し、そのきっかけは何だったのかは聞くしかないようだ。
「リヴァイアサンの件は排他的経済水域に躊躇なく踏み込んできて、すでに迎撃活動に向かった連邦海軍が呆気なく撃退された。そして、件のエルレーンの宣言もあり、AAAと連邦軍部の協同作戦に話は至った。」
神威は現状を説明する。AAAの遊撃戦力である彼らがリヴァイアサンに行くのはほぼ決定なのだろう。
「ついては、ゼフィス、君にも協力してもらいたい」
神威の勧誘にゼフィスは目を丸くした。そしてすぐにフッと笑った後に、首を横に振った。
「誘いは嬉しいが、な」
ゼフィスとてAAAの構成員資格がある男だ。ここ数年の体調不良という名の精神支配がなければ、神威たちと並び立つ魔法使いであったろう。
理由はいくつかある。一番の大きな理由は、今のままでは神威たちの足手まといになってしまうということだ。
「だが君は」
「言いたい事は分かっている。それは僕にとって感謝すべきものだ。だが、頭で納得していないことがあるんだ」
ゼフィスは神威に確固たる意志でそう答えた。
神威は『君は一人で十分に戦うことができたから大丈夫だろう』と言いたかった。ゼフィスもそうだろうと大筋理解していた。
昔のゼフィスは神威の境遇を小馬鹿にしたこともあった。そういうわだかまりはすでになく、自然と共闘のできる彼の懐深さに甘えたい心情もあった。
だが大きなわだかまりが藍明守にあった。それを解消しない限り、エルレーンやディレイフニルと戦うことはできなかったのである。
「単独であれば、目的地に飛んで行く自信はある。決戦の時にまた会おう。」
ゼフィスは同級生たちに微笑んで見せて別れた。それもまた、彼が明確に変わった証であった。
ゼフィスはまず帰宅した。数日行方不明だった身なので、どういう対応を取られるか分からない。
ただ、出迎えた母親、マサキは元気に帰ってきたゼフィスに少々驚いたようだった。タイミング悪く、父のロフィスは不在だった。武藤での作戦のこともあったし、学園の方に行っているのかもしれない。
また、静流神社の自宅には双子の姉のラミアも戻っていた。一連のフラグメントの事件があって心配して帰って来たということだろうか。
「久しぶりだな」
「お互いにね」
こうしてラミアとまともに話したのも2、3年ぶりである。正月の新年祝いで顔を合わせるものの、ゼフィスはその時何もかもから拒絶していた。
ロングヘアの美女の姉は漫画家生活をしている割には肌が整っていて、グラビア雑誌の女優よりも余程美麗であった。
「エレンケイア、というものを聞いた事はあるか」
本来ならば父親の方に色々話す事があるはずだったが、ゼフィスはラミアに対し話を進めた。【エレンケイア】はエントクロマイヤーの子に受け継がれる。
大部分はゼフィスのものとなっているが、ラミアにも一部継がれているかもしれないと思ったのだ。
「ないわね」
ないと言いつつも心当たりがある風にゼフィスから視線をはずした。
「有れば困るものかしら?」
「昔は困った。今は分からない。俺はそれを見つけに行きたいと思っている」
「戻ってこれる旅?」
ゼフィスの今までは感じなかった強い意志を感じて、ラミアはあえて聞く。たとえその後が別れの言葉であろうとも。
「生きていればまた会えるさ」
そう言ってゼフィスは立ち上がった。
「母上や父上によろしくな」
「ええ」
ゼフィスは別れの言葉を言わなかったが、区切りをつけた。ラミアはそれを引き止めず返事をして送り出した。
ゼフィスは静流神社を出て、見慣れ歩き慣れた路地を行く。住宅街に人気はほぼない。
戒厳令などは出ていないが、フラグメント騒動のせいで外出しにくく、街中は静まり返っている。
そんな人っ子一人すれ違わない路地を歩いていき、見慣れた一軒家を訪ねる。インターホンを押して出迎えたのは、薄手のセーターを着た女性だった。
伊達優貴、ゼフィスにとってはかけがえのない幼馴染であり、彼自身は彼女と男女の仲が確定的だと思い込んでいた女性だった。
優貴は戸口に立つ幼馴染の姿を認めると何か言おうとして大口を開くも、直前で止めた。
恨み言か非難か。ゼフィスに言いたいことはいくらでもあるだろう。
「俺はここでいい。優雅たちも動いている。2、3日中には何とかすることだろう」
優貴はそういうことではないと言いたげに首を振る。しかし彼女は、玄関から動かない。
ゼフィスを抱きしめようとか、手だけでも握ろうとか、そういう行動の素振りは一切見せない。
それが自然なのだ。それを押し付けていたのは他ならぬゼフィスの方であったのだから。
「ありがとう。行方を案じてくれていただけで十分だ」
幼馴染であるというだけで世話を焼いてくれていたこと、フリでも親しく付き合ってくれたこと、それらを含めてゼフィスは頭を下げた。
「ゼフィス、私は」
優貴は今にも泣きそうな顔で口を開くが、ゼフィスは首を横に振った。
「君は君の幸せを追うべきだ。僕は僕の道を往く。ここでお別れだ」
優貴はすでにゼフィスとは別の人間、優雅と婚約中と聞いている。ゼフィスは優貴を愛していたが、その愛からはっきりと決別を示した。
「ここで君に別れを言えなければ、僕は覚悟を明確に持てなかった。だからありがとう。そして元気で。お互い大人になった時に、また会えるといいのだが」
ゼフィスは微笑んで別れを告げ、踵を返した。返事は待たなかった。背中に言葉を投げかけられるかと思ったが、何もなかった。
彼は振り返らずに優貴の家から去った。もしもここで振り返っていたら覚悟の一つも揺らいでいたかもしれない。
優貴は涙を流していた。声なく涙を流していた。それが別れを惜しんでなのか、人が変わったゼフィスに感動してなのか、彼女自身もよく分からなかった。
*****
「距離が稼げない!?」
「うむ、突貫工事すぎてな。少し足りないな!」
日本、武藤ニュータウンの蔵人重工研究エリアの庭で声が上がる。
庭には飛ぶのかのも怪しい一人乗りの飛行機のようなものが鎮座している。白衣で眼鏡の男の説明に、長身で帽子を被った男、静流が声を上げたのだ。
夜の研究所に静流が来ていたのは、彼もリヴァイアサンをなんとかしようと突入手段を打診しに来たのだ。
ライザードである彼の力を連邦政府に売り込むことは考えなかった。そして連邦からも彼に依頼することはなかった。
公安局の牽制があったことを彼は知らない。
そんなわけで静流はライザード製作でも名高い気紛れな技術者、ツァイスを頼ったのだが、結果は失敗作であった。
1人用の小型化で燃料が少し足らないという本末転倒な設計ミスであった。
「ぐぬぬ」
現在、空港で突入作戦の準備が整いつつあるという情報を掴んでいる。この完成した小型突入飛行機で空港に乗り込んで参加させてくれと頼みこむ事もできる。
ただ静流探偵事務所は政府とは背を向けていた。その線引きを、個人的に越えるのはルール違反だと、静流自身が思っていた。
それはとてつもなく個人的感情だし、世界の危機には関係のないことなのだが、静流は今までになく厳しく思い留まった。
とはいえ頼りにしていた手段が半ば使えなくなったことに変わりは無い。そして何より時間が無いことを静流の焦りを進めた。
何とかできる力を持ちうるのに、入場券すら持たないことは悔しいことこの上ない。
「手ならあるぞ」
この場にやってきた3人目の男の声。それはゼフィス・エントクロマイヤー。
「こいつが全開で飛び、僕の魔力でさらに押し上げる。どうかな?」
どこから話を聞いていたのやら。的確に手を差し伸べる。静流は目を丸くし、ツァイスはため息をつく。
「科学的には敗北を感じるが、今はそれが最適解だ!」
「自身の決着のために、急行電車に乗り遅れてしまってね。そのチケットに相乗りできるか聞きに来た」
ゼフィスは武藤を混乱に陥れた張本人だが、それがエルレーンの手によるものだと静流は知っている。
何より、彼の表情は昨夜よりも晴れやかで、余裕を感じられた。ダメどころか歓迎すべきことである。
「なら、善は急げ、ってことだな!」
静流の表情は一転晴れやかに、ゼフィスの右腕を勝手に取り握手して言った。
ゼフィスはほとんど情報が無い。
そもそも武藤の研究所を訪れたのは、自力飛行だけで飛んでいくには魔力を使いすぎるから知恵を貸してもらう程度の腹積もりであったのだ。
ゼフィスにしてみれば、蔵人静流が政府に協力を依頼されず研究所にいたのは偶然だ。しかし結果的に、神威たちとほぼ同時に、おそらくは先回りしながら乗り込むことができそうだ。
*****
九狼神威、出雲総司、美剣優雅の三人は指定された空港にやって来ていた。
武藤ニュータウンから南、埋め立て地を含む港湾都市、神代市。その空港。
旅客機の出発見合わせが続く中で、彼らが徒歩でやってきた駐機場。そこに待っていたのは持明院秋人、ただ1人のみ。
「おいおい、他に援護もいねぇのかよ!?」
総司が言うのもむべなるかな。本拠地突入作戦を若造4人へ任せる仕事ではない。この場に神威たちがいる方が不自然である。リヴァイアサンに飽和攻撃や、軍隊の直接突入、あるいは伊達洸耶などの最高戦力投入が自然である。
「最高の鉄砲玉だ。光栄に思った方がいい。」
ブラックスーツ姿の秋人が自嘲気味に笑っている。神威たちにとっては、何度かぶつかった商売敵ではあるが、友人関係であることには変わりない。
「ゼフィスはどうした?」
「まだほかにやることがあるそうだ」
この場にいない5人目の男の話をするも、優雅が口を開いた。本来であれば、口にしない男の名だ。秋人も大体の経緯をすでに聞いているという状況であることが分かる。
「人工島リヴァイアサン。その突入ルートの説明をする。乗ってくれ。」
タラップが下りている航空機を親指で差して、秋人は搭乗を促す。
機内は貨物のためのレイアウトで、客席は無い。コクピットに、パイロットはいない。
「操縦したことがあるのか?」
「ない。自動で片道。そう聞いている。」
「片道ィ!?」
自然に操縦席に座る秋人だったが、総司の問いの返事は呆れるものだった。それに片道切符の突入作戦とは、本当に鉄砲玉である。
「合衆国から一部提供された内部構造は、見た目の上層はほとんど飾り。本体は下層ブロックにある。生産施設やエネルギープラントなどがあるそうだが、そこの詳細な説明はなかった。目標の人物がいるのはプラント基部だと思われ、そこまでの大体の構造がこれだ。」
秋人はタブレット機器で、雑な構造データから目的地へと至る地図を出す。
「アホかっ! 迷路の正解ルートしか書かれてない、子供の落書きじゃねぇか!!」
見たままの感想をそのまま言ってくれる総司。予想通りの反応で、少し楽しい秋人だった。笑い事ではないし、ツッコミとしても笑えないため、神威は押し黙っている。
「敵がいる方向が正解だろう。そしてそこに罠が張られている。」
「敵はいるが、罠は張られていない、と思う」
優雅の目線はクールである。感情の起伏が無いとも言えるが。とはいえ、総司は思う所あって一言添える。
「その心は?」
総司の感じ方は神威にとっても貴重だ。評価している。
「あのエルレーンという男、こちらを引き出して打ち負かしたい手合いだ。適度に障害を設定して、誘い込むイヤな性格に見えた、な。」
総司の黒幕の評は実のところ一理あるのだが、他の3人は会っていないので分からない。この場にゼフィスがいれば良かったのだが、いないものは仕方ない。
「秋人、こちらは?」
構造地図で判明している箇所の中で説明されていないスペースが1つだけある。神威は煮詰まった話題を置いておいて、話を切り出した。
「脱出ボートがそこにある。作戦成功したら、そこまで逃げてオシマイ、だ。」
「動くことを信じる以外にはない」
優雅が身も蓋もないことを言う。実際にその通りである。ああだこうだと言っても仕方ない。目的地は出たとこ勝負になる。
「ギャンブルで勝つにはどうすればいいか、知ってるか、優雅」
「聞こう」
カジノまで行ったが結局やらなかった優雅にギャンブルは分からない。総司なりの答えを待ちながら、空き座席に座りシートベルトを締めた。
「胴元になることさ」
非常に笑えない皮肉を聞いて、優雅はやはり無表情だ。
「盤面を壊せるだけの武器を私たちが持っているなら勝てるさ」
「どうかね。そりゃあ俺達じゃねぇかもしれんぜ?」
秋人の軽口に総司は続ける。毒にも薬にもならぬ会話だ。この4人が集まった時点でこうなる。
「盤面を壊せるだけの力なら、あるさ。多分ね。」
副操縦席に座った神威が呟く。気休め程度だが、神威なりの盛り上げ方だった。
「出発する。状況によっては荒っぽい着陸になる。シートベルトはしっかりな。」
「とっくにな」
憎まれ口を叩き続ける総司。秋人は苦笑して、頭にインカムヘッドセットを着ける。管制塔に出発連絡をして、機器を操作すると、航空機が動き始めた。
空港から航空機が離陸して1時間程度。本来は地図上にはない陸地がコクピット窓からの眼下に見えた。
「撃ってくるぞ」
「ウソだろ、オイ!?」
秋人の呟きに総司は叫ぶ。
「秋人、オートパイロット解除!」
見えた方も見えた方だが、反応する方も反応する方である。リヴァイアサンから対空砲が撃たれている。サイボーグ化されている神威よりも早く秋人が見えてしまったおかげで、神威は覚悟が早かった。
航空機の操縦をしたことはないが、ヘリと同じならやりようはある、という神威の個人的な考え方からだ。
それにも限界はあろうが、手をこまねいて主翼や胴体を撃たれる方が問題である。
「ここかな?」
ただ主操縦席に座っている秋人が航空機についてさほど明るくなかった。
「お前、何で緋芽連れてこないんだよぉぉぉぉ!」
自動操縦を解除したせいか目に見えてバランスが崩れた航行に総司の声が上がる。
総司の幼馴染であり、秋人と付き合っている近藤緋芽は言動がおかしい割に機械に強い。乗り物シミュレーター好きも趣味の内らしい。
「彼女には書類処理を任せてきた」
コクピット外で煌く光。直撃弾の1つが、胴体を突き抜けるよりも早く弾が散らされる。
「あと10分ぐらいで辿り着けないと、事前に張ったシールドが無くなるぞ」
「初心者に無茶言わないでくれ! 気づきが早かったのはそれが原因か!」
秋人の得意なことは符術である。陰陽術士家庭では一切評価されなかったが、結界に防御術に、防御力を利用しての攻撃転化に、神威たちにとっても苦戦させられた術である。
到着前に攻撃されることを想定して、航空機に防御術を張り巡らさせていたのである。
防御があるから多少無茶は通る。しかし、航空機が地上に降りるためには速度を下げ、高度を落とさなければならない。速度を下げるということは、撃たれやすくなることに他ならない。
想定着陸地点に迫る機体だが、対空砲の加減はない。墜落の想定をしなければならないかもしれない。
神威が一瞬、普通に降りるか、撃たれる覚悟で行くかを考えた。その時に、眼下に別の飛行物体が見えた。
グライダーにも見えない、翼がないロケットのようなカプセル状の小型物体。謎の揚力を得て滑空する。そのカプセルには人間が掴まっている。
ゼフィスだ。
彼の魔力によってカプセルは飛んでいる。リヴァイアサンに向かって直進している。
「今だ!」
直進するゼフィスの乗るカプセルに対空砲が分散する一瞬を狙い、神威は操縦桿を引く。着陸するランディングギアを操作するヒマは無い。速度と対空砲のせいでバーストしたり的が増えるだけだ。
ゼフィスの乗るカプセルも安全な着陸を毛ほどにも考えてないようで、リヴァイアサン表層の建物群を破壊しながら中心部近くに墜落していった。それを見ながら、神威たちの乗る航空機もリヴァイアサンの離着陸スペースに胴体着陸していった。
おそらくはあまり経験しない衝撃がコクピット内部に伝わる。外では主翼の片方が折れた。どうせ片道だから壊れるぐらいどうでもいいのだが、燃料に引火しなかったのは不幸中の幸いと言えるだろうか。
「いってぇ~」
などと言いながらも意識をしっかり保っている総司。傾いているコクピット内で、シートベルトを外す。
「煙い」
次に起き出したのは優雅だった。明確に火は点いていないが、違和感があるのだろう。シートベルトを引きちぎって、席を立つ。
「やれやれ」
「くっ」
秋人が両肩を動かしながらシートベルトを外す。一番意識が飛んでいたのは意外にも神威だった。
「いやー、大きな怪我しなくて良かった」
「秋人、お前は頭でも打っとけば良かったんだ」
「フ、怪我をして心配される気はない」
秋人は自動拳銃がちゃんと動くか確かめて、腰に差す。総司が、火器の入った重いリュックサックから、アサルトライフルと拳銃を出している。
「ん」
優雅は総司から渡された拳銃の安全装置を解除する。
「ふむ」
神威はひしゃげた飛行機の出入り口の具合を確かめ、全力で蹴り破いた。サイボーグ化している彼の最大キック力は10トンに達する。間違っても人間相手には出せない。
「さぁ、ご覧ください。こちらが
秋人が下手なガイトの真似をしている。だいぶ余裕がある。
「ふーん。で、あれ歓迎の人たち?」
「どう見ても人間ではない、な」
胴体が半ば歪んでしまっている航空機から出た4人の目の前に広がるのは陸地の見えない海原と、アームスーツを身に纏った者の軍団だ。
総司の冗談は優雅にさらっと流される。
「うーん」
神威は唸って、両手のダブルサブマシンガンをフルオートで距離の近いアームスーツに浴びせる。弾1つ1つはさほどではないが、集中的に浴びせられた弾丸はアームースーツの頭部を吹き飛ばした。頭をやられれば倒れる。
「通常弾は効く。全滅を狙うのはよくないね。」
神威の先制攻撃で1体倒れたが、敵は目の前だけでも10体ぐらいいる。それらは神威たちを脅威目標として認識し、全力で向かってくる。
「なるほど。誘い込んで来る手合いか。」
「よく分かったろ?」
アームスーツの群れから距離を取るべく、神威たちは走り始める。敵の包囲の逃げ道、それは彼らを上手いこと内部に誘いこむルートであった。その意図を秋人にも理解できてしまう。総司は時折アームスーツを撃って牽制しながら、リヴァイアサン内部へと走り込んだ。
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