第34話 バーベキュー

 告白をした、のだと思う。

 いまいち現実感がないのは、まだなんの結論も出ていないからだ。


 凛音は顔を赤くして「そうなんだ……」と呟いたきり、その件には触れていない。

 おまけに俺たちには、やることがあった。チェックインと夕食の準備だ。大まかなことは、タクシーの中で凛音が済ませていたらしい。


「運良くログハウスとバーベキューセットがあったから、それにしといたよ」

「運がいいなぁ」


「急にキャンセルが出たのかもね」


 なんて会話をしながら、明らかに二人では広いログハウスに入る。玄関が既にでかい。六人ぐらいまでなら、余裕で靴を並べられそうだ。


 リビングに荷物を置いた凛音が、掃き出し窓を指さして言う。


「ちなみにここ、ウッドデッキでバーベキューできるらしいよ」

「設備がいいな」


「シャワーもついてるし、二階の寝室はちゃんと二部屋あるって」

「設備がいいな⁉」


「見てこのテレビ、おっきいでしょ。映画観たら大迫力!」

「せ、設備が良すぎる! なんだここ!」


「忘れちゃったの?」

「十年前は普通にテントで寝ただろ。えぇ……今ってこんなに発展してるんだ」


「外国人もいっぱい来てるみたいだからね」


 一階部分を一通り確認すると、凛音はさっそくバーベキューセットを手に取る。


「ねえ稔。ご飯にする? ご飯にする? それとも、ご・は・ん?」

「めちゃくちゃ一択じゃん」


 よっぽど空腹なのか、問答無用である。


 おとなしくウッドデッキに出て、バーベキューの準備を始める。着火剤と炭は、既にバーベキューセットの横に置いてあった。炭用のトングとマッチを駆使して、着火剤に添加。燃えやすい炭らしく、簡単に火がついた。


「手際がいいねえ。稔、焼き肉屋さんのバイトもできるんじゃない?」

「焼き肉屋はガスだから手際とか関係ないだろ」


「じゃあ、バーベキュー屋さん?」

「ない」


「ないなら作ろう! 『バーベキューみのる』この夏開店!」

「絶対儲からない。俺の人生壊れちゃう」


 網を載せると、そこへ凛音が肉を並べる。落ちた油が煙になって、香ばしい匂いが広がっていく。それにつられて、急激に湧き上がってくる食欲。思えば昼に食べたのはソフトクリームだけだった。


「バーベキューって、すっごく幸せになれるよね。毎日やりたいくらいだもん。専門店がないの、絶対おかしいよ」

「焼き肉食べ放題行けって」


「風情が足りないというか」

「じゃあまず東京を出るんだな」


「中退するってこと?」

「凛音は大学辞めてもあんまり関係ないもんな」


「でも、大学は通いたいからだめです。ちゃんと卒業します。私は偉いので」

「めっちゃ金持ちになったら、そういう家を建てればいいのかもな」


「それだ! 稔って天才?」

「かもな。ほら、肉焼けたぞ」


 紙皿に取り分けて、食べ始める。


 こうやってバーベキューをするのも、思えば久しぶりのことだ。家族で旅行することはあっても、泊まるのはホテルや旅館で、キャンプ場という選択肢はなかったから。


 凛音はどうだったのだろう。考えていたら、焼けた肉が俺の皿に置かれた。


「ほらほら稔、手が止まってるよ。どんどん焼いて、じゃんじゃん食べて」

「凛音もちゃんと食べろよ。ほら、このピーマン焼けてるぞ」


「いいの? じゃあ稔にはこのカルビをあげよう」

「サンキュー」


 協力しながら、用意されていた肉と野菜を食べ進めていく。


 凛音の家族と、俺の家族でのバーベキュー。あれは賑やかで、楽しい時間だった。ずっとこんな時間が続けばいいと思った。


 でも、バーベキューはいつまでも続かない。食材がなくなったら、片付けをしておしまいだ。


「美味しかったぁ~」


 満足そうにのびをした凛音が、指でつまんで服の匂いをかぐ。


「うん。煙臭い」

「バーベキューの宿命だな」


「じゃあ先にシャワー浴びて、その後に散歩しよっか」

「わかった」


「ちなみにここ、二階にもシャワーついてるらしいよ」

「設備が良すぎる」


 なんでこんなところに二人で泊まってるんだ?

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