開かずの間

 これは去年の夏休みの話だ。

 サークルのメンバーの野田君の祖父母の家があるX県の山間やまあいの村に旅行へ行くことになった。

 新幹線と在来線に加えて路線バスを乗り継ぎ、その村に着いたのは日が暮れかかる頃だった。

 野田君の祖父母は既に他界していたが、叔母さんが家で出迎えてくれた。そこは家というよりちょっとした旅館ぐらいある大きなお屋敷だった。

 野田君の叔母さんは「家が大きすぎて、掃除するだけでもひと苦労なんよ。でもこの家はちゃんと綺麗にしとかんと色々あるからねぇ……」と何か含みのある愚痴をこぼしていた。


 僕たちは男女3人ずつのグループだったので、叔母さんは隣り合った部屋をそれぞれあてがってくれ、風呂やトイレの場所なども教えてくれた。そして最期に一つ説明を付け加えた。

「あ、それから。この家の一番奥にある部屋の入り口の襖にお札が貼ってあるんやけど、決して開けんといてね。それさえ守ってくれれば、あとはあんたたちの自由にくつろいでくれてええから」

 そう言って叔母さんは自分の家へ帰って行った。

「何故だろう?」そう思いながらも僕たちは叔母さんの言いつけを守り、滞在期間中はお札が貼ってある部屋には一切近づかなかった。そして、あっという間に充実した時間が過ぎ、僕たちは仲間との楽しい旅行の思い出を胸に、家路についた。

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