ナースの本領 〈ナースの観察眼 こぼれ話〉

私の頸部嚢胞けいぶのうほうの手術をしてくれたのは、母の”推し“の外科医だった。

かつて一緒に働いていた先生が、別の総合病院で勤務していたのだ。


鎖骨あたりの手術で、何かと慎重にならざるを得ないし、見える場所だから傷痕も目立たない方がいい。

となると、腕のいい信頼できる先生にお願いせねばと、母が動いた。

私も知っている先生だったし、何より母の選択に異論などない。


久しぶりに会った先生は相変わらず優しく、結婚前の女の子に傷痕が残る……と気遣い、いたく心配してくれた。


が、当の私は、いらないモノを抱えてびくびく過ごすより、さっさと取ってほしい。

傷があるから嫌だなんて言う人は、こちらから願い下げだと思っていた。

だから当時付き合っていた人にも手術宣言をした。


結核で入院中の検査では、粘液の正体がわからなかったから、嚢胞を取り出して、改めて検査することになっていた。

母も先生も、私には何も言わなかったが、癌の可能性もあると、ひそかに心配していたらしい。

だが、そんなことは一切おくびにも出さない母は、やっぱりナースだった。


結局、嚢胞は結核性のもので、完全に除去できた。

傷痕も最小限にしてくれて、母も「上手に縫ってくれたー」と喜んでいた。

今では、ほとんど目立たない。

これも長年の『ナースの推し活』のおかげ。ナースの本領発揮だ。


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