ナース、バレる

母が現役の頃は、何かあれば自分の勤務先か、勤務先や看護師仲間の紹介の病院で診てもらうから、最初から看護師だとわかっていることが多かったと思う。


けれど、引退してからは、周囲も同じように現役を退いているので、初めての病院にかかることも増えてくる。


母は、元看護師ということを隠したがった。

私たち家族にも内緒にするように言った。


だが、問診票を書いた時点で、多分「?」と思われている。

病状が過不足ない。服薬名が詳細。既往症は、自分でメモして持ち歩いていたから、年月や年齢が明確で、病名が○○性△△のように正式名称すぎる。


診察に入ると、自然と医学用語混じりで説明し、看護師さんだったの?などと聞かれて、結局すぐバレる。


入院すると、看護師さんの間で情報は引き継がれ、「大先輩ですね」と言われたり、若いナースには「緊張しますー」と言われたり……。


さすがに高齢になってくると、そこまで言われることはなかったようだが、職業病は染み付いたまま。


足を骨折した母の手術の日。

父と2人オペ室の前まで見送ると、閉まった扉の向こうから、看護師さんとの会話が聞こえた。

 お名前は?

 「○○です」

 今日はどこの手術をしますか?

 「左大腿骨骨頭ひだりだいたいこつこっとう!」

80歳を過ぎた普通のおばあちゃんは、大腿骨骨頭とか言わないよ。

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