第52話:森でのピクニック

 秋の風が爽やかに吹き抜ける。

 木々の葉は優しく擦れ合い、そよそよとした穏やかな音で俺たちを包み込んだ。

 今日は休日。

 カレンたちと一緒に、学校近くの森でピクニックをしている。

 辺りからはチチチ……と小鳥の可愛いさえずりが聞こえ、風とともに揺れる木漏れ日は柔らかく、一時だけでも張り詰めた日常から解放してくれた。

 マイナスイオンたっぷりといった感じ。

 地面に敷いたシーツの上で寝っ転がり、木々の隙間から空を眺めていたら、カレン、ネリー、ルカが俺を覗き込んだ。


「そのまま寝ちゃわないでよね。私たちはお昼寝じゃなくて、ピクニックに来たんだから」

「お昼ご飯を用意しますよ、ギルベルト様」

「ギル師匠、起きてください」

「ああ、そうだな。そうしよう」


 むくりと身体を起こして、俺も昼食を準備する。

 みんなで持ち寄ったお弁当を食べるのだ。

 カレンから順番に用意した食べ物を紹介することになった。

 意外にも、彼女が取り出したのは小型の手動削氷機だ。

 ……ということは!?


「私はかき氷をお作りしま~す。シロップはたくさん用意してきたので、お好みでどうぞ~」

「「おおお~」」


 魔法で生み出された氷が削られ、器にふんわりと小さな山を作る。

 思い思いのシロップをかけると、雪山のように白い氷に赤や青、黄色といった鮮やかな色彩が誕生した。

 前世で楽しんだかき氷そのものだ。

 俺がかけたのは<夜苺>のシロップ。

 一口食べた瞬間、甘酸っぱいさっぱりとした風味が口中に広がり、あのキンッ! が訪れた(局部ではなく頭部に)。


「「……くぅぅ~」」


 周りを見ると、三人ともこめかみを押さえていた。

 こういうところは異世界でも同じなんだな。

 続いてはネリーの料理だ。

 彼女が出したのは……剣の形をしたたくさんのクッキー!


「私はクッキーを焼いてきました。モチーフは見ての通り……剣です!」

「「おおお~」」


 一口に剣と言っても、短剣タイプから大剣タイプまで様々だ。

 さっそくみんなで食べる。

 パキパキとした歯ごたえがおいしく、控えめな甘さが美味だった。

 次はルカの料理。

 鞄から出されたのは、粒が光っている葡萄だ。

 こ、これは……!


「ボクは"ユグファイズ"の名産品、<光葡萄>を持ってきました」

「「おおお~」」


 ルカが言うように、<光葡萄>は"ユグファイズ"の名産品。

 食べると体力が少し回復する効果もある。

 原作で冒険を始めたばかりの頃は、結構お世話になったのを覚えている。

 もちろん、味もおいしい。

 やや酸味が強めの甘さと瑞々しさが、より気分をリフレッシュさせてくれた。

 みんなで<光葡萄>を食べ、俺の料理を披露するときがきた。

 バスケットからあれを出す。


「俺は……サンドイッチを作ってきた」

「「おおお~」」


 俺が用意したのは、何の変哲もないサンドイッチ。

 普通のベーコンとレタスをパンで挟んだ。

 みんなのお弁当と比べると見劣りしちゃうかな……と思ったが、三人の輝いた目を見てそんな心配は吹き飛んだ。


「うわぁ、おいしそう! ピクニックにピッタリじゃない! いただきます……おいしい!」

「ベーコンのしょっぱさがたまりませんね! レタスも瑞々しくて最高です!」

「すごい柔らかいパンですね! 耳が取れてるのがまた素晴らしい……こんなおいしいサンドイッチはボクも初めてです!」


 三人とも、嬉しそうに食べてはおいしいと言ってくれる。

 作ってよかった。

 カレンたちは食べつつ、別の感想を話し合う。

 

「どうせならギルベルトの顔の刻印でも刻めばよかったのに」

「さようでございます。一段と素晴らしいサンドイッチになったでしょう」

「ボクの光魔法ならうまく刻めるかもしれません」


 ……共食いかな?

 何はともあれ、みんな気に入ってくれたようで嬉しい。


「なんか食べる順番が逆になってしまったな」

「まぁ、いいじゃない」

「食べたいときに食べたいものを食べましょう」

「ボクもネリーさんに賛成です」


 かき氷を、クッキーを、光葡萄を、サンドイッチを味わいながら平和を噛みしめる。

 明日からはまた実践的な授業が始まるのだ。

 俺たちはたっぷりと英気を養い、次なる課題を迎えた。

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