第51話:噂と実体(Side:ジゼル①)
「……いやぁ、当初はどうなることかと思ったが、無事任務が達成できてホッとしたよ」
「まったくだ。学生と合同任務なんて不安でしょうがなかった」
「それにしても、優秀な学生が多かったな。さすがは国内最高峰の学園、"ルトハイム貴族学園"というわけか」
周囲のテーブルから、騎士たちの笑い声が聞こえる。
みな、思い思いの感想を述べながら酒を飲み、食事を口に運ぶ。
私もまた、そうだ。
ここは飛行ゴンドラの係留基地に隣接した、騎士団寮の食堂。
天空都市"アダライト"の魔石回収任務が終了し、こぢんまりとしながらも宴が開かれた。
魔石はどれも高純度の物ばかりで、騎士と生徒の頑張りもあって戦闘による遺跡の損傷はない。
上々の結果だった。
学園の生徒は皆なかなかにレベルが高く、中でも四人の生徒が突出していた。
カレン、ネリー、ルカ、そしてギルベルトである。
予想以上の活躍ぶりに、周囲の騎士たちからは笑顔が零れた。
各々、酒を交わしては参加生徒の戦闘を反芻している。
私のすぐ隣では、ギルベルトと仲が良いという話のネリーとルカを担当した騎士たちが話していた。
「……ネリー、と言ったか? すごい剣魔法の使い手だったな。俺たち王国騎士団より優れた太刀筋だったぞ」
「ああ、それを言うならルカって子もすごかった。光魔法は回復や支援がメインだが、光弾の連続放出とは驚いた。威力も申し分ない」
いずれの二人も事前の情報より優れた結果を見せたらしい。
優れた結果と言えば、カレンという令嬢の氷魔法も見事だった。
強度と精度が群を抜いており、魔物の動きを予想する洞察力も素晴らしい。
遺跡を傷つけないためにはどう立ち回ればいいのか、頭の中で明確にわかっていたのだろう。
目まぐるしく動く戦況の中、しかも天空都市という不慣れな場所を考えると、手練れの騎士に匹敵する実力者だ。
酒を飲みながら昼間の出来事を思い出していると、騎士の一人が私に尋ねた。
「ジゼル隊長、噂のギルベルトはどうでしたか?」
周りの騎士たちはみな会話を止め、私の言葉を待つ。
酒に酔いながらも、誰もが真剣な目をしていた。
これから話す私もまた、同じような瞳なのだとわかる。
「……彼が一番強いわね。体力も魔力も戦術も、名実ともに一番だわ」
ギルベルトはあの最弱の操作魔法の使い手と聞いていたが、想像以上の強さだった。
――魔力を飛ばした対象を、意のままに操る。
これは相当の脅威だ。
まさか、熟練度によってあれほどまで操作対象が広がるとは思わなかった。
魔物や魔法を操る精度と威力は素晴らしく、私でさえ本気を出さなければ操られる。
腐食ワイバーンの討伐も、空気の性質を利用したのは天晴れだ。
魔法弾などを放っては、遺跡を傷つける二次被害が起きてもおかしくない。
"遺跡を傷つけない"という縛りの中で、よくぞ強力なA級魔物を、しかも二体倒したのは騎士団でも上位の戦績だ。
騎士たちが互いに興奮した様子でギルベルトの活躍を振り返る中、私は思う。
――フリードリヒ討伐作戦では、きっと……いや、必ず彼も参加するはずだ。
今よりさらに強くなっていると考えると、楽しみで身体が震える。
大規模な戦闘を控えてはいるが、新しい強者の出現を祝い、私は盃を呷った。
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