第49話:遺跡での戦闘

「……《流麗華》!」

『ガァァアッ!』


 闇の剣を振るい、ポイズンナーガの首を切り落とす。

 重い首がゴトンと地面へ落ちると同時に、紫色の毒ガスが勢いよく吹き出した。

 辺りに充満する前に、操作魔法ではるか上空へと動かす。

 強力な毒ガスは風に流され、瞬く間に消えてしまった。

 後方で別の魔物を倒したカレンが俺の隣に駆け寄る。


「相変わらず、見事な一撃ね。ポイズンナーガはC級だけど、素早くて厄介な魔物なのに」

「よく見ていれば動きに規則性があるのさ」


 天空都市の魔物は下界と等級が同じでも、それぞれ特殊な強さを誇る。

 それでもカレンとのチームワークもあり、順調に目的地の塔へと進めていた。


「じゃあ、気をつけて先に進みましょうか」

「ああ」


 カレンと話しながら、そっと後方を見る。

 ジゼル隊長はというと……先ほどから静観するばかりだ。

 援護することも何か指示を出すこともなく、ただ黙って俺とカレンの戦いを見守っている。 相変わらずニコニコとした微笑みを浮かべるものの、何を考えているのかはわからない。

 隣のカレンもジゼル隊長が気になっているようだが、俺たちはただ魔物を倒して塔に進むだけだ。

 気を取り直して前に進む。

 歩きながらも、周囲の様子をよく探る。

 この辺りは大小様々な建造物が入り組み死角が多い。

 先ほどのポイズンナーガも、地形をうまく利用して近づいたのだ。

 警戒すること五分ほど。

 ひときわ大きな魔力を感じ取った。


「……カレン」

「ええ、わかっているわ」


 遠方の角から、ゆらりと四足歩行の魔物が現れた。

 濃い灰色の硬そうな体毛に覆われた。大きい猫のような魔物。

 だが、不気味な紅い瞳の数が、普通の猫ではないと強く主張する。

 瞳の数は七つ。

 B級のセブンスキャットだ。

 天空都市の中でも中ボスクラスの強さ。

 セブンスキャットは俺たちを見るや否や、即座に魔力を練り始めた。

 ドンッ! という衝撃とともに風が凝縮されたブレス、《疾風弾》が放たれる。

 こいつが使うのは風魔法。

 練度も高く、当たるとなかなかの威力を誇る。

 何より、風の波動が遺跡を傷つけたら大変だ。


「《魔法操作:疾風弾》」


 魔力を飛ばして攻撃を操作する。

 さらに凝縮させ、セブンス・キャットに跳ね返した。

 ちょうど辻の開けた場所にいたので、風の波動も遺跡を傷つけることはなかった。

 《疾風弾》に込めた魔力をそのまま本体にうつし、セブンス・キャットの全身を操作する。 度重なる修行と実践を経て、魔力の細かい動かし方も習得できていた。


『ギギャッ……!』


 セブンス・キャットの身体を操作して、ぞうきん絞りの如く勢いよく締め付ける。

 骨と肉の砕ける音がし、ぐたりと死骸が地に落ちた。

 これで終わりかと思ったが、魔物はまだたくさんいる。

 青銅ゴーレムに鎧マンティス、騎士レイス……。

 塔へと歩を進めるたび次々と姿を現し、俺たちに攻撃をしかけてくる。

 まるで何かを守るように……。


「カレンは遺跡をガードしてくれ!」

「了解! ……《氷の浮遊壁》!」


 空中に氷の壁が生まれ、魔物たちの攻撃を防ぐ。

 魔物どもは遺跡の保存などおかまいなしなので、それはもう好き勝手に攻撃してくる。

 自分たちの攻撃が遺跡に当たる恐れがあり、遠距離攻撃があまり頻用できない。

 最初は立ち回りに難義したが、今はもうだいぶ慣れた。

 建造物や地面など傷つけさせていないのだ。

 おそらく家だろうか、建物の壁や天井には不思議な紋様が描かれ、古代人の信仰や暮らしの余韻……少しだけ古代の息吹を感じられた。

 こんな貴重な建物を壊させてたまるか。

 目に見える範囲の魔物に操作魔法の魔力を飛ばし、全ての動きを止める。


「《煌霊》」


 魔力剣の形を鞭に変え、空中で全ての魔物をたたき切る。

 魔物は俺が倒して、カレンが氷で遺跡を守る役割分担のおかげもあり、貴重な建造物やモザイク画の床を壊さずに済んでいた。

 さらに都市の中心に向かって歩くこと小一時間ほど。

 とうとう、目標である塔の全容が見える場所に着いた。

 二階建ての家の陰から様子を窺う。


「……あれが目的地か」

「ずいぶん高いわね」


 高さはおよそ300mはあるだろうか。

 天高くそびえる建造物は、同じ石造りでも都市にあるどの建物より威厳にあふれている。

 古代人にとって、一段と特別な場所なのだろうと見るだけで想像ついた。

 すぐにでも中に入りたいものの、そういうわけにはいかなかった。

 塔の前には……二体の魔物がいる。

 7mほどの硬そうな翼を持ち、細長い口が特徴的な魔物……。

 A級の腐食ワイバーンだ。

 二体いるから番いだろうか。

 奴らは金属は錆びさせ、生物の身体は腐らせる特殊なブレスを吐く。

 遺跡を攻撃されたら大変だ。


「カレン、敵は二体だ。手分けして戦おう」

「そうね。私は右を倒すわ」


 挟み撃ちしようとカレンと左右に分かれて歩き出そうとしたら、初めてジゼル隊長が俺たちに声をかけた。

 淡々と、告げる。


「待ちなさい。……ギルちゃん、あなた一人で戦いなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る