第47話:第二期の始まり
「……さて、お主らは楽しい夏休みを過ごしたようじゃの。気の抜けた顔ばかりじゃ」
学園の講堂にシルヴァン先生ののんびりした声が響く。
今日は二学期の初日。
授業が始まる前に、講堂で全校集会が開かれていた。
カレンやネリー、ルカはシャキッとしているが、他の生徒たちは皆どこかぽやんとしている。
人間、長期休暇の後はすぐ平常運転とはいかないものだ。
シルヴァン先生もその辺りはわかっているのか、特に怒るようなことはせず、やや呆れた様子で講堂を見渡した。
「まぁ、今日くらいは多めに見てやりたいところじゃが、そうもいかん。……みなも"星影の鉄槌"フリードリヒと聞けば目が覚めるかの」
その名を聞いた瞬間、講堂の雰囲気が一変した。
生徒たちは顔つきが変わり、真剣な表情で壇上を見る。
無論、五亡星の名が出たからだ。
シルヴァン先生は硬い表情のまま話を続ける。
「北東にあるフリードリヒの拠点に……"大陸連盟"が攻め入ることを決断したのじゃ。今、我が国を含む拠点の周辺国は戦争の準備を進めておる。殲滅作戦はおよそ二ヶ月後。本格的な冬が訪れる前に片をつける予定じゃ」
この段階になると、もはや講堂はざわざわとしたどよめきに包まれていた。
隣に座るカレンたちも驚いた様子で話す。
「ね、ねえ、ギルベルト。フリードリヒと戦いが始まるって」
「きっと、想像以上の大規模な戦争になりますよ……」
「ボクは緊張で心臓がバクバク鳴っています」
彼女らの言葉に俺も強ばった表情でうなずく。
"大陸連盟"とは、ここルトハイム王国がある大陸全体の同盟を示す。
五亡星は各地に点在しているので、拠点の周辺国が手を結んで戦うのだ。
もちろん、原作でもフリードリヒとは戦闘する。
しかし、一つ気になる点があった。
――シナリオでは、フリードリヒ戦はもっと後のはずなんだが……。
タイミングが速すぎる。
そもそも、五亡星と戦うのは二年生に上がってからだ。
予定より早い会敵に、前世にプレイしたゲームシナリオ通りではない運命を感じる。
シルヴァン先生はどよめく生徒たちに手をかざして、講堂に静寂を戻した。
「お主らに伝えることはもう一つある。かつてない大規模作戦のため、我が学園も後方支援参加することになった。生徒諸君の役割は後方支援じゃ。あと二ヶ月、有意義に過ごしてくれたまえ」
話が終わるや否や、講堂は今日一番のどよめきに包まれる。
そのまま始業式は終了となり、俺たちは各々のクラスに向かった。
□□□
教室に戻るとすでにライラ先生が教壇に立っていて、みんなすぐ席に着いた。
「諸君、久しぶりだな。また会えて嬉しい。さっそくだが、学園長の話を再確認する。ちょうど夏休みの間、"大陸連盟"が五亡星へ攻撃することを決めた。最初の目標はフリードリヒ。ルトハイム王国とその周辺国が、戦争の準備を進めている」
この頃になると生徒はみな落ち着いており、静かにライラ先生の話を聞いていた。
「学園長は生徒全員が後方支援に属するような口ぶりだったが、実際は違う。この二ヶ月の試験内容を加味してメンバーを選別する。後方支援ではあるものの重要な任務だ。お前たちの頑張りを期待する」
生徒は互いに静かな声で相談する。
カレンたち三人もまた、小声で俺に話した。
「あなたは選抜メンバーを……狙うんでしょ?」
「ギルベルト様が目指さないはずはありませんものね」
「ボクもそう思います」
三人の言葉に、俺も静かにうなずく。
「もちろん、選抜メンバーを狙うよ。五亡星を倒すサポートがしたい」
五亡星を倒せなかった場合、原作は魔族支配のバッドエンドを迎えてしまう。
そんなのは絶対にダメだ。
そして……フリードリヒは強い。
自分の成長した操作魔法がどこまで通用するのか、試したい気持ちもあった。
強敵と戦えると思うと、武者震いする自分がいた。
ライラ先生は教室を見渡すと、課題について話してくれる。
「では、さっそくだが夏休み明け最初の試験課題を説明する。試験内容は、天空都市"アダライト"の調査だ。王国騎士団の調査に、学園の一年生も同行させてもらうことになった。騎士団から心構えを学んでこい」
その言葉を聞き、生徒たちからはまた別のどよめきが上がる。
――天空都市"アダライト"。
数年前発見された空飛ぶ巨大都市で、古代文明の名残が色濃く残っている。
都市の最深部には大量の高純度な魔石や貴重なアイテムが貯蔵されているので、おそらくそれの回収が目的だ。
だが、その道のりは険しい。
侵入者を排除する罠や入り組んだ道……何より、棲み着いた強力な魔物たちを倒さねばならない。
猛毒を駆使するポイズンナーガ、七つの目を持ち死角がないセブンスキャット、霊気という特殊な魔力を扱う霊気タイガー……。
原作ではサブイベントの扱いだったが、なかなかの高難易度だったのを覚えている。
「この作戦は、人類史上初めての五亡星への攻撃になる。お前たちもその一助となれるはずだ。……私はそう信じている」
ライラ先生は全体を見ながらも、俺に真面目な視線を投げかけた。
気が引き締まり、硬く拳を握る。
午前中で慌ただしく準備を終え、俺たちは天空都市"アダライト"の調査へと向かった。
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