第31話:みんなで買い物

「ギルベルト、何をしているの。置いて行っちゃうわよ。今日は新作の服が出ているはずだから、できれば早く見たいの」

「ギルベルト様、急いでください。見る物がたくさんあるので、急がないと日が暮れてしまいます」


 すぐ行くよ、と言い二人の後を追う。 

 今日はお休み。

 カレンとネリーと一緒に、学園近くの街“クェルン”へ買い物に出かけることになった。

 毎日勉強や修行に忙しいが、たまには休養も必要だ。

 ちょうど控えている試験もないしな。

 “クェルン”は学園とほど近いということもあり、若い層向けのp店が多かった。

 もちろん、ゲームセンターだとかショッピングモールなんて一つもないが、その代わりファンタジーなお店が盛り沢山だ。

 何百冊もの魔導書を売る本屋に始まり、剣や鎧が並ぶ武器屋、赤や黄色などの鮮やかなポーションを扱う薬屋などなど……。

 はっきり言って、歩くだけで非常に楽しい。

 カッコいい剣が売っていたので欲しくなり、ちょっと見ようとしたら、カレンにグイッと手を引かれた。


「あっ、あそこだわ。さっそく行きましょう」

「どんなお洋服が売っているのか楽しみですね」

「う、うむ、そうだな」


 両腕に当たる膨らみ(何がとは言わないが)を感じつつ、お店へと連行される。

 店舗の名前は”ネーザラフ”。

 主に若い女性に人気のある有名なブランドで、この世界では一大ブランドとして知られている。

 カレンとネリーに手を引かれ入店すると、聖女や修道女みたいなキャラデザの店員さんたちに出迎えられた。


「「いらっしゃいませ」」


 店員さんたちの雰囲気を見て、感じる。


 ――一度入ると何も買わずに出られない類いの店だ。


 前世でも服屋に行くことが極めて稀にあったが、「お似合いですよ!!」、「試着どうですか!!」、「今流行ってますよ!!」ばどと店員の猛攻にあい、辟易した経験がある。

 それ以来服屋恐怖症となってしまい、結局、通販で買うことが多かったっけ。

 まぁ、元々ファッションにはあまり興味がなかったが。

 カレンやネリーは店内を見ては、感嘆とした声を上げる。

 高そうに見えはするが、意外にもリーズナブルな品が多い。

 この価格設定も人気のある秘密だった。

 二人の買い物を見守ろうと思っていたら、試着室の前に連行された。

 な、なんだ? と思う間もなく、ファッションショーが始まる。


「ねぇ、ギルベルト。このワンピースとシャツ、どっちがいいかしら?」

「私に似合うのは何色でしょう。ギルベルト様の意見を聞かせてください」

「う、うん、そうだね。どれも可愛いんじゃないかな」


 「どれも可愛い」と言ったら、どこが可愛いのか細かく説明させられた。

 ひとしきり服を試着すると、カレンとネリーが俺の腕を掴んだ。


「……さて、次はギルベルトの番ね。可愛くしてあげないと」

「そうですね。私たちだけ楽しんでは申し訳ないです」

「え……あ、いや、ちょっと……!」


 右からはカレンが、左からはネリーがガーリーな服を着せてくる。

 レースなフリフリのピンクワンピースに、花の飾りがついた髪留め、膝下くらいまでの長くて白い靴下、極めつけは先っぽが丸い可愛いブーツ。

 抵抗虚しく、あれよあれよという間に着せ替えられてしまった。

 着せ替えが終わると、店内に歓声が湧いた。


「「おおお~!」」


 不本意ではあるが、みなが喜ぶのも無理はないだろう麗しい女の子が鏡の中にいた。

 ギルベルト・フォルムバッハ、女装ver。

 髪留めで止められた金髪からはおでこが顔を覗かせ、澄んだ碧眼はどことなくうるうると煌めく。

 元が良いからか、女装しても悪くない。

 むしろ良いな…………じゃなくて!


「はい! 着替えは終わり!」

「「ああっ! もったいない!」」


 新しい扉が開かれる前に、即座に服をチェンジした。

 元のギルベルトに戻る。

 ひと悶着はあったものの、結局カレンは水色のワンピースを、ネリーはパステルな黄色のスカーフを買った。

 ちなみに、俺も女装一式を買わされそうになった(カレン&ネリー&店員さんたち)が、断固としてお断りした。

 前世では断れなかったけど、今世ではちゃんと断ることができてよかったな。

 Noと言うの大事。

 お店を出たところで、ネリーが街の一角を指して言った。


「あそこのカフェで休憩しませんか? お茶にケーキもあるみたいです」

「「賛成」」


 三人で近くのカフェに入る。

 室内はアンティーク調の内装や家具が並ぶ、こじゃれたお店だ。

 みんな思い思いのセットやお菓子を頼む。

 俺はレモンケーキと紅茶。

 さっぱりといこう。

 カレンとネリーは六等分にカットされたケーキを六個ずつオーダーし、ホール状にして喜んでいた。

 何でもホールで食べるより、こうした方が贅沢な感じがするのだそうだ。

 ……というか、全部食べるの、それ。

 何はともあれ、みんなで一緒にケーキを口に運ぶ。


「「いただきま~す…………あんま~い」」


 レモンケーキ、普通にめっちゃうまかった。

 爽やかな檸檬の酸味と、背中側にコーディングされたチョコの甘さが絶妙にマッチする。

 これ頼んでよかった~……っと思っていたら、両脇からフォークに乗せたケーキが差し出された。

 カレンが持つのはショートケーキで、ネリーのはチーズケーキだ。


「ほら、ギルベルト、あ~んして。あなたの分も頼んでおいたわよ」

「ギルベルト様、私のケーキも食べてください。たくさんあるのでどうぞ遠慮なさらず」

「え……い、いや、さすがに恥ずかしく……」

「「さあ、どうぞ」」


 二人の圧に負けケーキを食べさせてもらうと、店内からクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえた。

 店員さんもお客さんも、微笑ましそうに俺たちを見る。

 恥ずかしくも嬉しい。

 これが青春ってヤツか。

 前世では得られなかった尊い経験ができ、本当に嬉しい。



 だがしかし、……真の本番は夜なのであった。



 □□□



 迫りくる両者から必死に逃げるも、すぐに捕まった。

 ベッドに引きずり込まれる。

 今日は買い物して終わりだと思っていたら、そんなことはなかった。


「カ、カレン! ネリー! お願いだから、少しだけ休ませてくれぇっ! このままじゃ干からびるっ!」

「自分で自分を操作すればいいでしょう。もっと頑張りなさい」

「ギルベルト様、甘えてはなりません。これも鍛錬です」

「そんな無茶な…………んあああ~……あぁんっ!」


 二人のおかげもあってか、以前より大きくなった気がする(何がとは言わないが)。


 ――こんなことなら、俺もケーキを六個くらい食べて体力を蓄えておくべきだった。


 意識が飛びそうな頭の片隅で、俺は薄らと思うのであった。

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