第29話:ダンジョン攻略RTA

「……ギルベルト様、囲まれているようですね」

「ああ、だが、俺たちなら余裕で対処できるはずさ」


 背中合わせになったネリーと小声で話す。

 縦横40mはあろうかという広大なフロアには、何十体もの魔物が蔓延る。

 ここは学園が管理するダンジョンの一つ、“怪異の迷宮”。

 俺たちは今、実地試験の真っ只中だ。

 内容は二人一組でのダンジョン攻略RTA。

 最深部の第七層に到達し、ボスを倒すまでの速さが競われる。

 第四層までは順調に進んだものの、部屋の中央にはスタンピードの罠がかけられており、魔物の群れに囲まれてしまった。

 ざっと見た感じ、アルミラージやグール、スケルトンといったE級や、ガーゴイルにオーク、トロールなどD級の魔物ばかりだが数が多い。


「ネリー、手分けして戦った方が早く終わりそうだ。互いに正面の敵を倒そう」

「かしこまりました。どちらが早く倒せるか勝負ですね」


 話し終わるや否や、俺とネリーは勢いよく駆け出した。

 入学してから何度も実地訓練を受けるうち、彼女もカレンもずいぶんと魔物との戦いに慣れた。

 この程度の群れなら一人でも倒せる。

 無論、俺も無傷で勝つつもりだった。

 走りながら、ダンジョン全体に視線を巡らす。

 操作魔法を扱ってきて、この魔法の肝に気づいた。

 それは……。


 ――周囲の状況をよく把握すること。


 周りにある物全てが俺の武器になるからだ。

 敵の数は多い。

 まずは広範囲攻撃で先手を取りたい。

 壁に掲げられた松明と、その周囲の空気を操作する。

 瞬く間に、室内を照らすくらいの火は激しく燃え盛った。


「《灼熱領域ヒート・エリア》!」


 松明の火をさらに操作して、魔物の群れに浴びせる。

 フロアに断末魔の叫びが響き渡った。

 火の海の中から、三匹の魔物が飛び出る。

 ガーゴイルが一体に、コモンバッド(大型のコウモリみたいな魔物)が二体だ。

 飛翔できるので攻撃を躱せたらしい。


「《魔力短剣マジック・ダガー》」


 魔力を操作して、いつもの剣より小型のダガーを三本生成する。

 それぞれの胴体目がけて勢いよく投げた。


『『ギィアアッ!』』


 ナイフが突き刺さり、ガーゴイルたちは地面に落ちる。

 魔物学で学んだ心臓の位置を狙ったので即死だ。

 実技と座学、両方の努力が生かされているようで嬉しい。

 操作魔法で魔石を浮かべ回収していたら、ネリーが駆け寄ってきた。


「ギルベルト様ー、そちらはいかがでしょうか」

「無事全部討伐したよ。ネリーの方も終わったみたいだな」


 ネリー側にも多数の魔物がいたが、みな彼女の剣魔法により切り倒されていた。

 さすがは学年でも五本の指に入る実力者だ。

 ネリーは俺が倒した魔物の数々を見ると、いつもの状況説明を始めた。


「高温の炎に焼かれた魔物の死骸が地面に横たわり、さながら灼熱地獄のような……」


 この状況説明が聞けるのもありがたいことなんだよな。

 本来なら断罪を実行し、俺の残虐な状態を嬉々として説明するのだから……そう思ったときだ。


「それはそうと、ギルベルト様……」


 突然、光が消えた。

 ……ネリーの瞳から、フッと。


「カレン様はいいですけど、他の女の子とは仲良くしないでくださいね」

「も、もちろんだよ。そんなことするはずないじゃないか」


 い、いきなり何を言い出すんだ。

 彼女の背後には、無数の剣で串刺しにされた魔物の死体が何体も転がる。

 一歩間違えた世界線にいる俺の末路を暗示しているようで、大変に恐ろしかった。


「他の皆さんはどこまで到達したのでしょう」

「どうだろうなぁ。俺たちも決して遅くはないと思うが、早いチームは第五層まで到達してるかもしれないね」


 ネリーの瞳に光が戻ったことに安堵しながら答える。

 “怪異の迷宮”は大変に広く、階層ごとに何個ものダンジョンフロアがある。

 ランダムな場所に飛ばされるワープトラップや、入り組んだ小道などもあり、他のチームと遭遇することはあまりなかった。

 “キタルの森”で確認できた順位が、今回は確認できないのも生徒たちの競争心を煽る。

 チーム分けの結果、俺はネリーと、カレンはティナと組んだ。

 ルカはまた別の女生徒と組んだが、まぁうまくやっているだろう。

 原作主人公だからな。

 ネリーは硬い表情をしながら話す。


「ボス戦を考えると気が引き締まりますね」

「俺たちなら無事に倒せるさ。ネリーもすごく強いんだし」


 学園生徒の訓練に使われる仕様上、ボスは倒しても新しい生徒がボス部屋に入るたび復活する特別な魔法がかけられている。

 だから、必ずボス戦はある。

 逆に言うと、前の生徒たちのおこぼれを貰うこともできないというわけだ。

 そういえば、俺のステータスはどうなっているんだろう。

 ボスの前に確認してみるか。

 ステータスオープン!



【ギルベルト・フォルムバッハ】

 性別:男

 年齢:15歳

 Lv:60/99

 体力値:8790

 魔力値:10020

 魔法系統:操作魔法(系統Lv8:/10)

 操作対象:①無生物 ②小動物 ③魔法(使用者が自分以外) ④人間 ⑤魔物

 称号:立派な貴族令息、早く死なないでほしい人No.1、死神が来たら喜んで守りたい男、大変な努力家、人間、常識破り、並み局部、異例の合格者、期待の一年生、半信半疑男、ボクの……師匠……、仲間思いの同級生(New!)、強い後輩(New!)、ムカつく後輩(New!)



 ステータスが上がってて嬉しい。

 とうとう魔力値が1万を超えたぞ。

 なんだか感慨深い。

 仲間思いの同級生、というのは、たぶん一年生からの評価で、強い後輩は二年生かな。

 ミハエル戦を見て評価してくれたんだろう。

 恐怖の対象から遠ざかっているようで安心する。

 最後のムカつく後輩は、ミハエルからの称号だろうな。

 こんな称号は要らないのだが。

 学園生活は順調に進められているが、この先も真面目に過ごしていこう。


「……ギルベルト様、どうされましたか?」

「いや、何でもないよ。先に進もう」


 しばし思考にふけってしまった。

 気を取り直して、俺はネリーと一緒にさらに下層へと進む。

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