第28話:ムカつく後輩(Side:ミハエル①)
「……クソッ! ギルベルトの野郎、思いっきり殴りやがって。ふざけんじゃねえ!」
寮の部屋に戻った俺は、とにかく怒り心頭だ。
大勢の前で一年生に敗北して大恥をかいた挙げ句、大怪我を負った。
顔も全身も痛え。
俺でなきゃ死んでたぞ。
本来なら、ギルベルトをぶちのめして気分良く取り巻きの女たちを可愛がるつもりだったが、急遽中止にせざるを得なかった。
顔も身体も痛くてそれどころじゃねえ。
今すぐ怪我を癒やしたいところだが……。
「おい! さっさとポーションを持ってこい! 遅いんだよ!」
さっきから何度呼びかけてもあいつが出てこない。
もう一度怒鳴ろうとしたとき、ようやく奥の部屋から現れた。
「あっは! ご乱心でございますね、ミハエル様」
「……あぁ? それが主人に対する態度か? 舐めてんのか、お前」
「申し訳ございません、舐めてませんです。あっは!」
ヘラついた笑みを浮かべながら現れたのは、紫とピンクのマーブルな髪がやたらと目につく女。
こいつはアリス。
最近、エスターライヒ家に仕え始めたメイドだ。
たまに腹立つ言動が目立つが、そこそこ有能なので傍に置いている。
顔もスタイルも俺好みだしな。
「まぁ、いい。お前のふざけた態度はいずれしつけてやる。それより、早く回復ポーションを渡せ。痛くてしょうがねえだろうが」
「もちろん、ご用意しておりますよ。最高品質の〈回復ポーション:S〉でございます。あっは!」
「さっさと渡せ」
アリスに笑いながら差し出されたポーションを奪い取る。
一口飲むが、痛みは完全には消えなかった。
クソッ、ダメージが大きすぎるんだ。
仕方がないので全部飲み、どうにか痛みは消えた。
ちくしょう……このポーションはかなり高いんだぞ。
更なる損をした気分で不愉快になる。
空き瓶を壁に投げつけると、アリスが笑いながら言った。
「ミハエル様に勝利するとは、あの”極悪貴族”もなかなかやりますねえ。こっそり見学してましたが、魔法の使い方が結構うまかったですよ。あれほどの強さなら、我らがミハエル様が負けるのも当然ですね」
「……お前は俺を馬鹿にしてるのか?」
「いやいや、馬鹿にしてなどおりませんので。ご主人を馬鹿にするメイドがどこにいるでしようか。どうかお許しくださいませ、あっは!」
雷魔法で焼き殺したいところだったが、グッと抑える。
さすがに寮内で殺人はまずい。
実家から運び入れた高級ソファに腰掛けると、自然と決闘での印象が漏れ出た。
「クソッ……操作魔法がなんであんなに強いんだよ。おかしいだろ。最弱の魔法じゃないのかよ」
操作魔法と言えば、“小石しか操れない”ことで有名だ。
それこそ、人類最弱の魔法にふさわしい。
しかし、ギルベルトの扱った魔法はまったく違った。
事前にアリスから作戦を聞いていなきゃ、俺自身が操作されて即終了した可能性だってある。
同時に魔法の操作対策も積んだが、まったく意味がなかった。
魔法回路を操作するってなんだよ、ふざけんな。
ギルベルトに限っては、さらに面倒な点がある。
――あいつが強いのは……操作魔法の練度だけしゃない。
基礎的な身体能力や魔力の量、戦術に剣術。
そのどれもが極めて高度だった。
下手したら二年生はおろか、三年生にさえ匹敵するレベルだぞ。
正直なところ、勝つイメージが湧かなかった。
ブツブツと呟いていたら、アリスがあっは! と笑いながら言った。
「何も考え込む必要はありませんよ。“極悪貴族”は定説を覆すほどの努力を積んだ、ということでしょう。もっとも、絶望的な弱さの操作魔法をあそこまで極めたのは感嘆に値しますが」
「あいつがそんなに真面目だったなんて聞いてねえぞ。努力嫌いで有名だったろうが。何があったんだ」
「たしかに、それは私も気になります」
あのギルベルトはなぜここまで強くなるほど努力したんだ。
そもそも、“ルトハイム魔法学園”の首席合格は相当高い壁だぞ。
ギルベルトについて考え出すが、すぐに思考を止めた。
そんなことはどうでもいい。
それより今は、前期末に向けた準備を進めなければ。
学内で築き上げた俺の地位が危なくなっている。
「アリス、聞け。前期末の学年合同演習で、俺はギルベルトと再戦する」
「あっは! 知ってます。聞いてたんで」
……こいつはこいつでムカつくな。
ぶん殴りたい気持ちを抑えながら言う。
「そこでだ、アリス」
「はい」
「作戦を考えろ」
「ええ~、またですか~?」
「早くしろ」
しばらく、アリスはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたが、やがて、あっは! といつもの笑い声を叫びながら言った。
「良い案が思い浮かびましたよ。今回ばかりは、ミハエル様も修行が足りませんでしたねぇ。ですが、ご安心を。この作戦ならミハエル様も汚名挽回できますから」
「……お前、やっぱり俺を馬鹿にしてるだろ」
「あっは! 汚名返上と間違えました。……さて、作戦でございますが、私の召喚魔法を使いましょう。この作戦なら、いくらあの”極悪貴族”と言えども死にますよ」
アリスは真面目な顔になって話し出した。
こうなったときのこいつは頼りになる。
召喚魔法とはその名の通り、魔物や動物を召喚し、使役する魔法だ。
こう見えてもアリスはかなりの実力者らしく、召喚するのはどれも一段と強力な魔物だった。
「よし、詳しく聞かせろ」
「あっは! 一から百までお教えしますよ。いいですか? まずは、仲良しのお仲間と……」
アリスから計画を聞く。
……ふむ、なかなか良さそうな策だ。
やっぱり、こいつを傍に置いておいてよかったな。
聞けば聞くほど、俺の勝利はより確実なものとなる。
今に見ていろ、ギルベルト。
――お前を奈落のどん底……いや、地獄の底に突き落としてやるよ。
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