第23話:最初の試験

「……カレン、準備はいいか?」

「ええ、もちろん。作戦通りにいきましょう」


 俺とカレンは、木陰からそっと様子を窺う。

 10mほど離れた場所に、二匹のゴブリンがいた。

 こいつらは最低のF級。

 レベルは高くても5程度で、学園入学直後の生徒と同じくらいの強さだ。

 だが、油断は禁物だ。

 手に持ったナイフや棍棒には、たまに毒が仕込まれている。

 カレンがゴブリンに手をかざした。


「《氷の手アイス・ハンド》!」

『『グゲッ!?』』


 地面から氷の手が伸びて、ゴブリンの足首をがっしり掴む。

 カレンとアイコンタクトを交わすと、俺もすぐに魔法を発動した。


「《空気の刃エア・ブレード》!」


 周囲の空気を操作して、刃物のような衝撃波を飛ばす。

 スパッと身体を斬り裂いた。

 二匹のゴブリンは地面に崩れ落ちる。

 隣のカレンはホッとした様子で胸を撫で下ろす。


「よかった。うまくいったわね、ギルベルト」

「ああ、カレンの足止めのおかげだよ」


 ゴブリン程度、カレンなら楽勝で倒せるはずだが、まだ魔物との実戦経験は無きに等しい

 よって、足止めと攻撃の役割分担で、この試験は突破しようと決めたのだ。

 慎重派なところも原作通りだな。

 転がり出た魔石を拾い、手の甲に刻まれた魔法陣にかざすとシュンッ! と軽い音を立てて消えた。

 魔石がそのままポイントになる仕組みだ。


「ねえ、みんなの順位を確認してみましょう」

「そうだな」


 魔法陣をタップすると、空中にクラスの順位表が映し出される。

 どんな魔物を何体倒したのか、詳しく確認できるのだ。

 俺とカレンチームは頭一つ抜けて一位。

 ネリーやルカのチームも含めて、他のみんなは横ばいだ。

 生徒たちは優秀だが、初めての魔物におっかなびっくりなのだと思う。

 チーム分けは自由だったので(まだ馴染めていない人もいるのに、ライラ先生も地味に酷なことをする)、ありがたいことに俺をめぐってカレンとネリーが激しく戦った。

 ジャンケンで。

 結果、カレンが勝ち、ネリーは別の女生徒と組むことになった。


「ギルベルト、こうしちゃいられないわ。すぐ次の魔物を探しましょう」

「え? あ、ああ、わかった。しかし、やけに急いでいるんだな。慌てなくても魔物はたくさんいるけど」


 先ほどから、カレンはやたらと急いでいる。

 まるで何かを争っているかのような……。

 俺が尋ねると、カレンはピタッと止まった。


「急ぐ理由が……私にはあるの」

「急ぐ理由?」


 ずいぶんと真剣な表情と口調に、俺も思わず緊張する。


「勝った方がギルベルトの局部を好きにできるのよ」

「……なるほど?」


 いつの間にか、俺の知らないところで結構重要な取り決めが交わされていた。

 俺の局部はもつのだろうか。

 一応、キンッ! で鍛えられてはいるが。

 昨日だって散々……まぁ、考えるのはこの辺りにしておこう。

 森の中を進みながら、自分のステータスを確認してみる。

 ステータス・オープン!



【ギルベルト・フォルムバッハ】

 性別:男

 年齢:15歳

 Lv:52/99

 体力値:8310

 魔力値:9190

 魔法系統:操作魔法(系統Lv8:/10)

 操作対象:①無生物 ②小動物 ③魔法(使用者が自分以外) ④人間 ⑤魔物

 称号:立派な貴族令息、早く死なないでほしい人No.1、死神が来たら喜んで守りたい男、大変な努力家、人間、常識破り、並み局部、異例の合格者(New!)、期待の一年生(New!)、半信半疑男(New!)、恐ろしい同級生(New!)、ボクの……師匠……(New!)



 結論から言うと、能力値がどれも結構上昇していた。

 一年修行したわけだが、中盤からは座学の時間も増えたから、レベルの伸び幅はこれくらいが妥当だろう。

 というか、十分過ぎるほど強くなっているが。

 逆に、レベル上げの楽しみが残ったと言える。

 操作対象に魔物が入ったのはでかいな。

 学園では戦う機会がぐっと増える。

 もっとも、高ランクの魔物は操作に難儀するだろうが、むしろ望むところだ。

 称号は、入学試験をクリアしたからか少し増えていた。

 概ね、教師陣からは好評価のようで安心する。

 だが、半信半疑男や恐ろしい同級生という称号を見る限り、やはりまだ俺の悪名は健在のようだ。

 これからも頑張らねば。

 そして、この中で一番気になるのは……。


 ――ボクの……師匠……、ってなんだ?


 極めて謎だ。

 そもそも、誰の称号なのかわからん。

 こんなの原作でも見たことがない。

 しばし物思いにふけったところで、カレンに服の袖をくいっと引かれ現実に戻った。


「ギルベルト、見て。魔物がいたわ」

「……ん? ほんとだ」


 考えるのはそこまでにして、試験に集中しよう。

 称号も評判も、全ては自分の行いで変わる。

 俺は俺にできることをするだけだ。

 少し離れた木の上に、土蜥蜴がいた。

 全長1mほどの大きな蜥蜴で、こいつはE級。

 レベルは7か8くらいだったかな。

 学園に入学したての生徒では、ちょっとだけ倒すのが大変。

 カレンはやや緊張した様子で話す。

 

「また作戦通りに倒す? 私の魔力はまだまだあるわよ」

「そうだなぁ……。今回は俺一人で戦ってみてもいいか? ちょっと試したいことがあるんだ」

「もちろんよ。援護が必要だったら教えてね」

「ありがとう、カレン」


 カレンから離れ、魔物の下に向かう。

 土蜥蜴は俺を見つけると、シュタッと地面に降りた。

 襟巻きを広げ威嚇する。

 "キタルの森"に棲む魔物は、どれも好戦的な種族が揃えられている。

 無論、生徒とのバトルを誘発させるためだ。

 その反面、基本的に低級の魔物ばかりだ。

 操作魔法を鍛えるには絶好の場所と言える。

 土蜥蜴は魔力を溜めると、土の塊を放った。


『キシャアアアッ!』


 こいつは食した土を塊にして放つことができるのだ。

 ただの土と侮る事なかれ。

 当たると意外と体力を削られるのだ。

 余計なダメージは喰らいたくないので、操作魔法で対応だ。


「《土弾操作ソイル・コントロール》」


 魔力を飛ばすと、土の塊は空中で動きを止めた。

 ふるふると震える。

 よし、このまま跳ね返すぞ。

 土の塊を勢いよく土蜥蜴の胴体に当てた。


『グァァッ!』


 土蜥蜴はひるみ、カレンは拍手してくれた。

 せっかくだから、色んな攻撃方法を溜めそう。

 魔法は使えば使うほど熟練度が上がるからな。

 まずは土蜥蜴の操作だ。


「《魔物操作:土蜥蜴》!」

『……グゲッ!?』


 魔力を飛ばすと、土蜥蜴は動きを止めた。

 グググ……と抵抗されるが、十分に押さえつけられる。

 よし、魔物も操作できるぞ。


「《木の葉舞リーフ・ダンス》!」


 周辺の木の葉を操作して、ナイフみたいに鋭く飛ばす。

 スパパパッ! と土蜥蜴の全身を切り裂いた。


『グアアアッ!』


 断末魔の叫び声を上げて、土蜥蜴は崩れ落ちる。

 転がり出た魔石を回収していると、カレンがまたもや拍手で讃えてくれた。

 

「お見事ね、ギルベルト。さすがだわ」

「ありがとう。修行の成果が出せたよ」


 E級魔物の魔石をゲット。

 カレンと一緒に手の甲にかざすと、半分ずつ吸い込まれた。

 また二位との差が開いた。

 良い感じだ。


「この調子でポイントを集めよう」

「ええ、ギルベルトの局部を手に入れるために」


 ノ、ノーコメント。

 さりげなく局部を心配したところで、森の奥から振動と激しい戦闘の音が響いた。

 ……生徒と思しき悲鳴の声も。

 思わず、隣のカレンと顔を見合わせる。

 彼女もまた張り詰めた表情だ。


「誰か襲われているみたいだわ」

「ああ、様子を見に行こう」


 俺とカレンは勢いよく走り出す。

 走るにつれて、戦闘音と悲鳴がさらに大きくなる。

 木々が少しずつ少なくなり、小さな広場のような場所が現れた。

 地面には黒髪の女生徒が一人倒れている。

 たしか、自己紹介ではティナ・ジュベールと言ったかな。

 原作ではモブだった。

 ぐったりして動かないが、気絶しているだけのようだ。

 迫りくる大柄な魔物に対し、ルカが太い枝を構え懸命に立ちはだかっていた。

 俺はルカに向かって叫ぶ。


「ルカ、大丈夫か!?」

「ギルベルトししょっ……君! どうして、ここに!?」

「悲鳴と戦闘の音が聞こえたから駆けつけたんだ!」


 俺たちの叫び声を聞き、魔物はゆっくりと顔をこちらに向ける。

 魔物の全容がわかると、カレンが緊張した様子で呟いた。


「ギ、ギルベルト、あれ……」 

「マジか……」

『グゥゥッ……』


 “キタルの森”らしからぬ強敵。

 ルカと対峙するのはB級魔物、森林タイガーだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る