第22話:学園と予期せぬ再開

「いよいよ、学園生活が始まるのね」

「ドキドキします」

「ああ、緊張するけど楽しみだ」


 翌日、俺とカレン、ネリーは教室で授業の開始を待っていた。

 昨晩は……まぁ色々あったが、概ね良好な結果で終わったと思う。

 局部に思いをはせていると、カレンとネリーが小声で俺に話した。


「……やっぱり、今年も倍率は高かったみたいね。試験会場で見た人がほとんど残っていないわ」

「ギルベルト様と一緒に修行してきてよかったです」


 二人が話すように、あんなにいた受験生はグッと減った。

 まぁ、定員通りなのだが、実際に目の当たりにするとその衝撃は大きい。

 チラリと教室全体を見ると、原作にも出てきたキャラは全員いる。

 モブたちも何だか見たことがあるので、シナリオ通りなのだと思う。

 みな、俺と視線が合わないようにしているな。

 そこかしこから、こそこそと噂話みたいな相談が聞こえる。


「……あの“極悪貴族”ギルベルトだ」

「首席合格ってすごいな……。何が目的なんだ……」

「じろじろ見るんじゃない、目が合ったら殺されるぞ……」


 どれも良い内容とは言えない。

 悪評の数々は強烈だし、改心した話は聞いていないのだろう。

 そして、肝心の主人公ルカはと言うと……ちゃんと合格していた。

 前の席(原作での定位置)にポツンと座っている。

 ぼんやり眺めていたらふと視線が合った。

 他の生徒同様、すごい勢いで前を向く。

 耳が真っ赤になっているから、よっぽど怖がられているらしい。

 試験は勝ったが、決して油断はできない。

 ギルベルトが悪に転落するのは学園生活が本番だし、

 なるべく目立たず、静かに過ごそう。

 そう決心したところで、教室の扉が開かれた。

 初手は安定のマルグリット先生だから、とりあえず今日は問題なく過ごせるはずだ。

 ……とはいかなかった。


「席につけ。三秒以内に着席しない男子は局部を破壊する」


 教室に響くは厳しい女性の声。

 彼女を見た瞬間、生徒たちはざわめく。

 そのまま教壇につくと、きつい眼差しでギロリと全体を見渡した。

 短めに切られた赤い髪に、豹のような鋭い赤い瞳。

 なんか見たことある人だった。

 傍らのカレンとネリーを見ると、ポカンとした表情だ。

 俺も似たような顔をしているだろう。


 ――…………ライラ先生?


 現れたのは、まさかの“鮮血の魔導剣士”ことライラ先生。

 ……何でここにいるんですかぁ~?

 俺の質問が聞こえたかのように、ライラ先生は口を開いた。


「私はライラという名だ。S級冒険者として活動していたが、この学園にて1年生の実地訓練を担当することになった。よろしく」


 生徒たちのどよめきは、もはや大きなざわめきになる。

 俺だって騒ぎたいくらいだ。

 ……マジか。

 またキンッ! のプレッシャーと戦わなければならないなんて……。

 無論、こんな展開は原作にない。


「お、おい……“鮮血の魔導剣士”ライラだ……。学園の教員だって……?」

「そんな話、聞いてないぞ……」

「……怖そう。怒られないといいな……」


 “鮮血の魔導剣士”の二つ名は貴族界にも轟いているようで、生徒の中にも緊張や不安が走る。

 キンッ! の犠牲者が出ないことを祈るばかりだ。

 ライラ先生は落ち着いた態度のまま、俺たちに話す。


「さて、授業を始める前に、世界の歴史と学園の目的について簡単に説明しておこう。優秀な貴様らはすでに承知だろうがな」


 そう言って、ライラ先生は手に持っていた本を開いた。

 空中に映像が映し出される。

 プロジェクターみたいな能力を持つ本型魔道具なのだ。

 授業の最初では、世界観の簡単な説明が行われる。

 この辺りはちゃんと原作通りで安心した。

 どよめいていた生徒たちもすぐ静かになるのは、さすが国内最高峰の魔法学園だな。

 みんなと一緒に、俺も集中して話を聞く。


[五百年前、人類は魔族の大侵攻を防ぎ平和を取り戻した。しかし、およそ百年前、生き残りの魔族から“魔王”と名乗る強大な魔族が出現。“魔王”は五人の直属幹部“五亡星”とともに、再び人類圏への攻撃を開始した]


 原作通りの世界観設定で安心するも、カレンやネリー、他の生徒たちの表情は硬い。

 俺もそうだ。

 やはり、人類共通の敵である魔族、そして一番強力な魔王の話を聞くと、この世界の情勢を強く意識する。


「“魔王”を倒せる人材を育成する。それが“ルトハイム魔法学園”が設立された目的だ。前線では今も人類と魔族が戦っている。貴様らは自分もいずれは戦場に立つ、という意識を常に持つことを忘れるな」


 ライラ先生の言葉が終わると、教室を沈黙が支配した。

 誰も何も喋らない。

 100周もゲームをプレイした俺は当然内容をよく知っている。

 だが、実際に生身で聞くと気が引き締まる。

 自然と、机の上で組んだ手を硬く握った。

 この世界の危機は未然に防ぎたい。

 何より、カレンやネリー、サロメに父上……大事な人たちの平和と幸せな毎日を守りたいんだ。

 俺たちが表情硬くしていると、ライラ先生は本を閉じてフッと静かに笑った。


「……とはいえ、貴様らはまだまだひよっこだ。学園生活も始まったばかり。大いに学び、遊び、修練を積んでいけ。身体だけでなく、心を鍛えることも忘れてはいけないからな。毎日、有意義に過ごせ」


 ライラ先生の言葉を聞き、教室の緊張が和らぐのを感じる。

 人類の置かれた境遇を考えることも大事だが、毎日学び、遊び、有意義に過ごしていこう。


「試験内容は、学園が管理する“キタルの森”でのポイント争奪戦だ。二人一組のチーム分けで行う。棲息している魔物を倒せ。ほとんどが低級魔物だが、中には強力なものもいる。注意してかかれ。最下位の男子生徒は局部を破壊するからな」


 最後さらりと恐ろしい言葉を言い、ライラ先生の説明は終わった。

 男子ズはよくわかっていないようだが、俺は絶対最下位にはならないように誓う。

 隣のカレンとネリーが俺に話す。


「魔物と戦うのは初めてだわ。うまく戦えるかしら」

「対人戦しか経験がないので緊張します」

「どんな魔物でも二人なら大丈夫さ。もちろん、俺も全力で戦うよ」


 俺の努力は、入学試験の首席合格で終わりじゃない。

 極め抜いた操作魔法で無双するんだ。

 いよいよ、血の滲むような修行の成果を出せる日々が訪れた。

 みんなの平和を守れるくらい強くなってやる。

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