第21話:明日から学校生活が始まる

「ギルベルト様、タンスはどちらに置きましょうか」

「南側の壁に頼む。重いから俺も手伝うよ」

「ありがとうございます、ギルベルト様」


 サロメが運ぼうとしたタンスを一緒に運ぶ。

 壁際に設置したところで、ひと通り完了した。

 俺は今、学園の寮で部屋を作っている。

 明日から学園生活が始まるのだ。

 試験結果は、無事合格だった。

 もちろん、カレンもネリーも。

 首席合格の連絡が来たときは心底ホッとしたな。

 ライラ先生のキンッ! から局部が救われて。

 カレンとネリーは悔しがっていたが、努力が報われるのはやっぱり嬉しかった。

 大変な修行だったが、最後まで頑張って本当に良かった。

 汗を拭ったところで、聞き慣れた声が聞こえる。

 ……部屋の中から。


「ネリーさん、そっち側を持ってくれる?」

「かしこまりました、カレン様」

「ありがとう」


 当然のように、カレンとネリーが俺の部屋に家具や生活用品を運び込んでいる。

 それはもう、ここで暮らすことを想定した品の数々を。

 あまりにもスムーズなので朝からスルーしてしまったが、もしかしてこの流れは……。


「あの……なんで二人も荷物を運んでいるの?」


 おずおずと尋ねると、カレンとネリーはポカンとした。

 二人揃って答える。


「「なんでって……」」

「う、うん」


 彼女たちの真面目な雰囲気から、陰には何か重大な秘密が隠されている……ような気がする。

 いったい、なにを言われるのだ。

 緊張でごくりと唾を飲んだとき、その極めて重要な秘密は明るみに出た。


「同棲するからよ」

「同棲するからです」

「あぁ~」


 なるほど、腑に落ちた。

 それなら、ここで暮らすのに必要な物品が運び込まれているのも納得だ。

 ベッドが一つしかないのが謎だがな。

 首席合格の特権だからか、用意された部屋はフォルムバッハ家に負けないほど大変に広い。

 確かに、三人で暮らしても問題ないな。

 むしろ、俺一人だと持て余しそうだった。

 広大なスペースを有意義に使えて最高だ。

 いやぁ、良かった良かった…………じゃなくて!


「なんで同棲!?」

「婚約者だからに決まってるでしょう。婚約者同士が同じ部屋で過ごしちゃいけないの? 学生の頃から親睦を深めるのは良いことだわ」

「た、確かに、言われてみれば……」


 カレンに言われ思い出した。

 このゲームにはラブコメ要素もあり、仲良くなったヒロインと同棲できるのだ。

 コンセプトにはハーレム志向もあったようて、物語が進むにつれて共に暮らすヒロインが徐々に増え、わいわいと楽しくて明るい学園生活になる。

 アレなミニゲームも少しあったりして…………って、これは現実だぞ!

 少々けしからんだろう!

 年頃の女の子(しかも美人)と同棲なんて……。

 カレンは微笑みながら言う。


「というわけで、これからもよろしくね」

「うん、よろしく……って、ちょっと待って! ネリーはなぜ同棲を!?」


 忘れてはいけないが、この部屋には女の子が二人もいる。

 慌てて尋ねると、ネリーは淡々と話し出した。


「ギルベルト様と共に暮らすことで、より深く学べると思うのです。目標とするお方を目指すのであれば、一番近くで過ごすのが最良の選択肢だという結論に至りました」

「……なるほど?」

「ご心配なく、お二人の関係は見守らせていただくだけですので」


 ネリーは静々と語る。

 まぁ、彼女の言うことは確かに理にかなっている。

 目標とする人間の近くにいれば、自ずと学びが増えるだろう。

 やはり、彼女もまた思慮深い人間だ。

 俺を目標としてくれているのも大変に嬉しい…………じゃなくて!

 だから、けしからんでしょう!


「やっぱり、同棲はまだ早いような……」


 呟いた瞬間、光が消えた。

 カレンとネリーの瞳から。


「……なに、ギルベルト。私たちと一緒に暮らすのが嫌なの?」

「……それはつまり、私たちのことがお嫌いということで……?」

「同棲します! していただきたいです! よろしくお願いします!」

「「……なら良かった(です)」」


 命の危機を感じて叫ぶと、光が宿ってくれた。

 心底ホッとする。

 何かわからんが命が救われた気がする。

 とはいえ、気になる点が一つあった。


「い、いや、しかし、カレンはいいの? 俺と二人っきりではなくなるわけだけど……」


 カレンとネリーはとても仲良しなのだが、自分の婚約者が違う女性と同棲するのはどうなのだろう。

 世間一般的にもあまり褒められたことではないと思うが……。

 ドキドキしていたら、カレンはずいぶんとあっさり言った。


「もちろん、嬉しいわよ。ギルベルトを好きな人に悪い人はいないわ。あなたを思う同志として、お互いを認め合うことにしたの」

「カレン様の寛大なお心には感謝するばかりです。ということで、私もギルベルト様を愛するのでよろしくお願いいたします」

「え」


 これまたいつの間にか、カレンとネリーは友達を超えて同志になっていたらしい。

 知らぬ間にサロメの姿も消えており、室内には三人きりとなる。

 窓から見える外は暗い。

 そろそろ夕食の時間のはずだが、どうやらその前に始まるらしい。

 何がとは言わないが。


「ベッドに横たわりなさい、ギルベルト」

「服を脱いでください」

「はい」


 言われるがままの行動する。

 不思議なことに抵抗できない。

 きっと、俺の知らない魔法がかかっているに違いなかった。

 何はともあれ、ライラ先生のキンッ! がない生活の始まりを思うと、俺は安心した気持ちになるのであった。

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