第3話:我が主(Side:ネリー①)
ギルベルト様は極悪貴族だ。
少しでも気に入らないことをしてしまうと、私刑を求刑される。
オーク顔負けの棍棒攻撃もされるし、あれほど横暴で恐ろしい人を私は見たことがない。
私はずっと自分の人生を恨んでいた。
このまま死ぬまでギルベルト様に辛い仕打ちをされるのかと思うと、それだけで憂鬱な毎日だった。
そう、あの日までは……。
いつものように小石をぶつけられていた日、ギルベルト様に異変が起きた。
私刑のフルコースを求刑しなかったのだ。
前菜で終わりにして、しかも回復ポーションで私の傷を癒やしてくれた。
私なんて絶対に手が届かないほど高価なAランクのポーションで……。
こんなこと、フォルムバッハ家に来て初めてだ。
仕事だって休ませてくれた。
今でも夢だったんじゃないかと思う自分がいる。
そのときは、一日限りの異変なんだろうなと思っていた。
だけど、ギルベルト様の変わりようは翌朝になっても継続した。
朝食を食べる許可をくださり、なんと私たちの仕事を減らすというのだ。
給金は十倍に上げると。
使用人が喜ぶ中、一人だけ表情が硬い人がいた。
サロメさんだ。
子どもの頃から、私のお母さん代わりを努めてくれる大事な人。
ギルベルト様が怒ってしまうのではないかと心配だったけど、単なる杞憂だった。
しっかりとサロメさんの目を見て、真剣な表情で話すのだ。
渡された棍棒だって受け取りを拒否した。
そして、ギルベルト様は……頭を下げられた。
使用人という下級の者たちに対して。
みんな感動で泣いてしまい、専用の棍棒は処分された。
仕事を減らすと言うお話は本当で、ギルベルト様は旦那様に直々に頼んでくれた。
しかも、"ルトハイム貴族学園”に首席で合格したいとも仰った。
フォルムバッハ家ともなれば特待枠で入学試験は免除なのに、本当にご立派な方だと思う。
ギルベルト様は良いお方になられた。
ご自身の敬称からも"陛下”が消え、今は普通に"俺”と話される。
目つきも柔らかくなったし、以前よりなんだか話しやすくなった気がする。
使用人のみんなも待遇が改善して、本当に嬉しいと言っていた。
生き生きと表情が明るい。
もちろん、私も……。
正直、以前のギルベルト様は嫌いだった。
自分の主なんて認めたくないほどに。
でも、こんな優しい方なら仕えたい。
なぜ変わられたのはかわからないけど、そんなことはどうでもいいのだ。
――私はもう少し……ギルベルト様のお側にいようと思う。
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