第33話
「綺麗だ、アナ」
「もう……ロビン様、何度仰るの?」
「何度でも言いたい!」
正装したアナはその赤い髪に黒と青の布地で作ったコサージュを髪飾りとしてつけている。
言わずもがな、ロビンの色だ。
ドレスは濃紺に白いレースをあしらい、要所にサファイアがさりげなく飾られていた。
ドレスを用意したのはベイア子爵であるが、彼女のその装いに大満足なのは夫のロビンであった。
準備を終えた妻を見るなり自分の色を身に纏う姿に感激したのか、口を開けば賛辞となるのでアナは髪だけでなく首まで赤く染める羽目になったのである。
とはいえ、さすがにずっと言われ続ければ多少は慣れるというもので、王城に着いた頃にはアナの顔色もようやく落ち着いていた。
ほんの少しだけ上記したように見えるけれども、王城にやってきたことに対する緊張だろうと周囲が微笑ましく思う程度には。
それから案内された先で、雲上人であるはずの国王や王弟、王太后といった王家の面々、加えて王子とジュディス、宰相と言ったお歴々に囲まれて叙爵が遅れたことを詫びられ、遅れてしまったが故に暴動地の人間の感情などを鑑みた結果簡易的な叙爵式としたことを重ねて詫びられ、ロビンもアナも恐縮しっぱなしであった。
とはいえこれで正式に男爵となり、領地の運営状態やそのほか諸々遅れた分の補填も含めた下賜品の目録を受け取って終わりだ。
問題の王太后と枢機卿の方は、ロビンもアナも怖くて目を合わせられなかった。
王城内を好きに見学して帰るといいという国王の
「どうだ、茶でも付き合わないか。庭園で飲む茶は格別だぞ?」
そんな二人に王弟が気さくに声をかけ、そこに王子とジュディスも交じる。
どうやらこの三人は親しくしているようだ。
遠い海を隔てた先の国では国王と王弟、それからその子どもたちが互いにいがみ合い権力争いに余念がなく、貴族たちも戦々恐々としている……なんて話をオフィーリアから聞いたことがあったので『うちの国は平和でありがたいわ』とほっこりとしつつ、庭園の
先だっての使節団の話、友人に相談したということをジュディスが告げたら使節団の長がアナに会いたいと言っていた話、ロビンの話、王子がロビンを自分の護衛につけたいくらいだ……なんて他愛のない話の数々に二人は目を白黒させつつ、揃って真っ赤になって照れた。
そんなロビンとアナを微笑ましそうに見守る王族三人の様子に、周囲の侍女たちもほっこりとした様子である。
「楽しそうですこと。わたくしも交ぜてもらえないかしら?」
「……母上」
「おばあさま!」
表面上は穏やかな笑みを浮かべた王太后がそこに来れば、誰も嫌とは言えない空気が漂った。
王太后はその地位を退いて尚、国王ですら強く出られないほどの発言力を有しているとされる。
「……勿論ですよ、構わないだろう?」
不服そうではあるものの、表面上はにこやかに王弟がそう言えば全員が頷いた。
王太后だけではなく、彼女が連れてきた枢機卿とその娘らしき人物が一人。
(……この方が、エドウィーズ嬢……)
アナはちらりとその女性を見る。
大人の女性らしい色香を持ち、その容貌は美しいという表現がよく似合う。
淑女としての品も、アナから見れば高位貴族のご令嬢と遜色ない素晴らしいものだ。
そんな女性が、ロビンにだけ切なげな潤んだ目を向けている。
あえて彼女を夫の隣に座らせた王太后と枢機卿に、アナはなんとも言えないもやもやとした気持ちを抱いたが、それを口にすることは許されなかった。
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