第37話 その後、俺たちは

 アサツの野望は輝いて見えた。これが実現すれば俺のような被害者は出ないと思った。


 だから、すべてに目をつむった。たくさんひどいことをして、罪を犯して、果たしてこの先にアサツが抱いた誰もが平等で飢え死にしない世界があるのか。


 …………きっとあるのだろう。だが俺の心はその未来のために何人もの命を犠牲にするのことは果たしていいのだろうか。


 その言葉をクラウンから聞いたとき、思ったんだ。


 いいわけがない。口では野望のために犠牲は必要と言いながら、心は常に傷ついている。


 ああ、やっぱり悪として振る舞うのは難しいな。



「無駄なことだよ。全部………」



 出血がひどい。


 あと数分もすれば俺は死ぬだろう。そして俺の死を確認した後、アサツはクララを殺しに行くはずだ。


 だがそれだけは阻止しないと。クララの未来は…………。



「アサツ、お前には感謝してるんだ。お前のおかげで俺はクララに出会えたんだからな」


「息子の面影を重ねるか。まあ、君らしい結末かもな」


「お前は一つ、失敗を犯した」


「失敗?」


「それはここに現れたことだ、アサツ」



 闘気は尽きている。出血もひどく、腕すら上がらない。


 だが。



「戯言だよ、んっ!?」



 アルケットの心臓を貫いた右腕がギシギシと締め付けられ、膨大な闘気があふれ出した。



「この膨大な闘気は…………まさか、生命力を!?」


「助からないこの命、ただでは捨てないぞ」


「…………そうか、そこまでの覚悟を」



 アサツは目をつむり、そして開き、アルケットの瞳の奥を覗く。



「いいだろう。所詮はすべて僕のわがまま。一人ぐらい見逃しても僕の計画に狂いはない。それにこの膨大な闘気を爆発させて、僕に傷をつけても1か月もあれば完治できる。この勝負、君の勝ちだ、アルケット・バール・サタナ」



 その言葉を最後にアルケット・バール・サタナは生命力を闘気に変え、内から爆発させた。


 バハラの本拠地、そして遺跡もろとも爆破され、その場には何も残らなかったのだった。



■□■



 世の中、本当にうまくいかない。


 人生100年という時間をただ働いて過ごす時間が俺にとっては当たり前で、その中で唯一の癒しだったのが物語を読むこと。


 とくにライトノベルっていうジャンルが俺に夢を見させてくれるんだ。


 俺も転生できるのか?無双できるのか?女の子に囲まれて幸せな日々を送れるのか?なんて妄想が広がる。


 あ~俺も一度でいいから美少女に囲まれながら酒池肉林してぇ~~。



「うぅ…………ここは」



 目を覚ますと見慣れない天井が広がっていた。


 ゆっくりと体を起こし、隣を見ると包帯グルグル巻きのアルミナがこちらを向いていた。



「おはようございます、クラウンくん」


「お、おお…………ってこれはいったい、どういう状況なんだ」


「覚えていないのですか?」


「う~ん、クララと一緒に遺跡を出たところまで覚えているんだが…………」


「あの後、バハラの本拠地が大爆発を起こして私たちはそれに巻き込まれました。その結果がこれです。運良くもすぐにグルタ騎士たちが駆け付け保護されましたが」


「な、なるほど。ってことはカナやクララは…………」



 俺は周りを見渡すもベットで寝ているのは俺とアルミナだけでカナとクララの姿はなかった。



「カナなら一足先に部屋から出ていきました」


「え…………」


「それとクララはおそらく今は牢屋にいます。会いたければ、グルタ騎士に訪ねてください。お話ぐらいはできるはずですから」


「ありがとう…………なんか元気ないな?」



 アルミナの様子が落ち着ている。


 別におかしくはないが、元気がないのは見て分かった。



「結局、私が何もできませんでした。たくさんの仲間を気絶にしたのに。そんな私が本当に王になれるのか…………あ、ごめんなさい。気にしないでください」


「…………そうだな。結果としてバハラという組織をつぶすことができたんだ。その功績はアルミナ、お前が行動した結果だ。だから、そう気を重くするな。それに俺だって対して役に立ってないしな」



 アルケットは俺が想像する以上に強かった。最終的には負けたも当然、結局俺はまだまだ力不足だ。



「ありがとう」


「そんじゃあ、俺はクララに会ってくる」


「気を付けて」



 こうして、俺はクララに会うべくグルタ騎士のもとへと向かったのだった。



 

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