第32話 天神流
「アルミナにカナ!?」
まさか、ここまでこれたのか?しかも、クララを連れて。
驚かざるおえない俺はすぐにアルケットへと視線を移した。
「…………お前、どの面下げてここに来た?お前は負けたんだろ?なら、おとなしく寝てろよ」
「ご、ごめんなさい」
「…………クララ、お前はもう必要ない。俺の野望には不要だ」
「んっ!?」
「もうこれ以上お前と話すことはない。消えろ」
クララの表情は今まで見たことがないほど蒼白し、足に力が抜けたのか、グッとアルミナの方に強く体重がのしかかる。
「どうやら、お仲間がご到着したみたいだが、どうする?」
「…………どうするも何もないだろ」
少しだけ体の痛みがマシにはなったか。でもやっぱり、痛いな~。
クララがここに来たということはもしかすると、原作通りのことが運ぶかもしれない。そうなれば、確実に勝てるけど、あの表情はどう考えてもアルケットに刃を向けるとは思えない。
「クラウンくん、この状況、どうなってるんですか?」
「そうですよ!何がなんだが」
「俺に言われても困るんだが、でも一つだけ言えることは、あと一歩のところまで来てるってことだ」
とはいえこっちは3対1、今のアルケットの傷を見てもこっちが有利だ。
これならワンチャン勝てる。
「アルミナとその白い髪、噂の魔女だな」
「ま、魔女!?今、私のことを魔女って言いましたね?」
「その髪色はどう見たって魔女だろ?まあ、だから何だって話だがな」
「私、魔女って言葉が一番嫌いなんです!許しませんよっ!!」
「ははっ!怖い怖い」
「ちょっと、カナ!?」
カナは一足先に前に出て、手のひらをアルケットに向けた。
「燃え尽きろ!!」
炎魔法グランド・フレイムを放つが、アルケットは恐れるわけでもなく炎の中へと突っ込んでいき。
「うそ!?」
何事もなく潜り抜け、カナの前に立ちふさがった。
「ぬるいな!!」
鋭い拳が降りかかるもカナは瞬時に。
「風よ!!」
足元に風魔法ウィンドを起動させ、空中に飛び上がった。
「短文詠唱か!しかもオリジナルの」
「あっぶ~、今のは死ぬかと思ったよ。でも、まだまだこれからだよ!!」
カナが手のひらを頭上に広げるとたくさんの炎球が生成された。
「今度は無詠唱魔法か」
「まだ全部の魔法を起動させるのは無理だけどね。でも、この数の炎球、よけられる?」
「ははっ!おもしろいじゃないか、こいっ!!」
「ふんっ!!」
炎球が休まることなく放たれ、アルケットは拳で薙ぎ払う。
そんな中、俺とアルミナは。
「今なら行ける。アルミナ、相手がカナの魔法で気をとらえている間に攻めるぞ」
「勝てるんですか?」
「勝てる勝てないじゃない。やるかやらないかだろ?」
「…………確かにクラウンくんの言う通りです!」
アルケットは完全にカナのことに夢中だ。
これなら隙を見て挟み込めば、勝てる。
「少しずつあいつに近づいて左右から挟み込むぞ」
アルミナは小さくうなずいた。
絶え間なく放たれる炎球をアルケットは拳で薙ぎ払うも一歩ずつ後ろに足が引いていく。
「くぅ、なんて魔力量だ。本当に魔女だな、お前は」
「また魔女って…………ならこれで!!」
カナは巨大な炎球を両手から生成する。
それはもはや魔力の塊だった。
カナのやつ、こんな場所であれを放つ気か!?でも、あの膨大な魔力の塊にさえ、当てれば、もしかしたら。
「ちっ、いいだろう。受けて立っ…………?」
一瞬、アルケットの目があった。
くそ、ばれたか!?
「アルミナ、行くぞっ!!」
俺は剣を即座に構え、アルミナも剣に風魔法をまとわせる。
気づかれた以上、ためらう必要はない。俺は今出せる全力を振り絞るっ!!
草薙流、
「フゥールアフル!!」
風魔法フゥールアフル。全身に風をまとわせ、敏捷を超強化させる魔法。
使いどころは難しく、習得する人も少ない魔法だが、この現状ではとにかく早く剣をふるうことが大事だと判断したアルミナは迷わずこの魔法を選んだ。
ほぼ同時に踏み出した一歩は一瞬にしてアルケットとの間合いを詰める。
左右にはクラウンとアルミナ、正面にはカナ。
絶望的な状況の中でアルケットは笑った。
「んっ!?クラウンくん!今すぐ、その場から離れて!!」
アルミナの慌てた声に一瞬、足が止まる。
離れて?なんでだ?今追い込んでいるのは俺たちだこのままいけば、カナの炎球で倒せる。絶対に追い打ちをかけるべきだ。
だが、あの慌てた表情…………。
アルミナは広い視野と冷静な判断力がある。無駄なことなんて言わないはずだ。
「くそっ!!」
すぐさま急ブレーキをかけて、後ろへ下がると。
「勘がいいやつだな」
アルケットの右手が手刀の形を成しており、白く輝いている。
まさか、瞬光?いや、でも何か違う。
「これで終わりっ!!」
膨大な魔力の塊がアルケットに向かって放たれるが。
その瞬間、アルケットの右手は静かに振り下ろされた。
「天神流、
アルケットの手刀は膨大な魔力の塊をいともたやすく断ち切り、その先にいるカナの捉えた。
「なにこれ!?」
咄嗟に防御魔法ウォールを展開し、自分の身を守るが。
完全に防げたわけではなく、カナのあばらを折っていた。
「あいつ天神流の使い手なのかよ」
闘気が使える時点で何かしらの剣術を学んでいるんだろうとは思っていたけど、まさかの天神流だったとはな。
天神流は三大剣術の一つに数えられる剣術の一つ。
たしか設定だと常に流れを捉え、攻撃をいなし、隙あらば鋭く速いひと振りを振るう剣術だったはず。
「天神流の使い手はたしか、悪を成してはいけないという教えがあったはずです」
「だよな」
そう、天神流を学ぶ上で大切なのは心構えと振るう理由。
とくに悪のために天神流を振るってはいけないという絶対ルールがあったはずだ。なのに、アルケットは天神流の一振りを見せた。
「ぐはぁ!?…………くぅ、さすがにか」
アルケットが突然、吐血した。
今なら、いける!!
俺はアルケットの様子を見て、誰よりも早く一歩を踏み出した。
「やっぱり、お前がくるよなっ!クラウン!!」
この間合いなら草薙流、
問題はその後、どうやって一撃を与えるか。
瞬光は精度が低いし、だからと言って、ただ闘気を纏った一振りだと防がれる可能性がある。
なら、俺がとるべき選択は。
「ガルムット流、
草薙流、
今までの技がだめなら、新しい技を使えばいい。
瞬閃はガルムット流の中でも基礎中の基礎の技だが逆に言ってしまえば、使う分には多少粗くても扱える。
俺はナーシャの構え方、目線、振り下ろすまでの動きを思い出しながら、体をそれに合わせていく。
そしてガルムット流、瞬閃がアルケットに振り下ろされるが。
それでもあと一歩届かない。
「くぅ…………なめるなよ。俺を誰だと思ってやがる」
不完全なガルムット流、瞬閃でも防ぐまでの間の時間はそこまでなかったはず。
なのにアルケットは瞬時に反応し、両手で剣を挟み込んだ。
おいおい、真剣白刃取りかよ。
いくら力を加えても、ビクともしないが。
「やっと近づけた」
絶体絶命のピンチだと思われる中で、俺は不敵にも笑みを浮かべたのだった。
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