第31話 勘に従って

 クラウンくんが進んだ道を歩いていると、一人の女の子が倒れているところを見つけた。


 その子は黒髪の小柄な少女だった。



「どうしてこんなところに女の子が!?」


「…………この子、バハラのメンバーです」


「えぇ!?」


「だって、ここにいる時点でそうでしょ?それにこの子どっかで見たことある気がするんですけど…………」


「ど、どうするの?」



 私たちは先を急いでいる。


 ならば、ここは置いていくべき。だけど、この顔色の悪さ、魔力が枯渇しているかもしれない。



「ちらっ」


「んっ!?ちょっと、カナ!?なにしてるんですか!!」



 カナが無防備な少女の衣服を脱がした。



「…………アルミナちゃん、バハラのメンバーってどこかしらに模様があるはずだよね?」


「ええ、そうだけど」


「この子、どこにもないよ!!」


「えぇ!?そ、そんなわけ…………本当だ」



 バハラのメンバーには必ずどこに模様が刻まれている。それがバハラに所属している証。


 もしかして、本当にバハラのメンバーではない?


 いやでもそれだったら、こんなところにいるはずが…………。



「うぅ…………」


「アルミナちゃん、目を覚ましたみたいですよ!!」



 ゆっくりと呼吸をしながら目を開ける少女は私たちのほうを見て、ぼ~とした後、無理に体を起こそうと腰を上げる。



「はぁ…………はぁ……」


「だ、大丈夫?」


「…………はぁ、どいて」



 少女はカナが差し伸べた手を払い、こちらに向きもせずに奥のほうへと壁にもたれかかりながら、歩き始めた。


 その方向はバハラのリーダーがいる場所だ。


 しかし、すぐに足を崩した。



「アルミナちゃん、どうしよう!!」


「…………」



 この先にはバハラのリーダーとクラウンくんが戦っているはず。


 そこに向かおうとする時点で間違いなくバハラのメンバー。しかも、ここにいたということは恐らく幹部クラス。


 ここで気絶させるのが最善の選択のはず。


 でも、本当にそれでいいのか、私は迷っている。



「早く、ボスのところへ…………行かないと」



 一粒の涙を流す少女はまた立ち上がろうとするが、また崩れ落ちる。


 ボス、やっぱりこの子はバハラのメンバー。どうして紋様が刻まれていないのかはわからないけど、このままこの子を行かせるのは危険。



「もう、失うのは…………嫌だよ」



 涙を流すその姿は本当にただの少女で、ほっておけなかった。


 この傷ならもし敵だとしても私とカナだけで対処はできる。


 なら…………。



「カナ、この子に肩を貸してあげましょう」


「い、いいの?」


「泣いている女の子を見ないふりするなんてできないでしょ?」


「優しいだね、アルミナちゃんは」


「全然優しくありません。もしも、敵に回っても対処できると判断した結果ですから」


「アルミナちゃん…………思っても口にしないほうがいいよ。それ、私でもわかる」



 カナが気まずそうにこちらを見つめた。


 たしかに、言う必要はなかったかも。



「次は気をつけます」



 アルミナはそのまま敵に肩を貸した。



「敵かもしれないけど、少し我慢してください」


「………ど、うして」


「泣いている女の子を見過ごすほど、私たちは残忍ではありませんから。カナ、あなたは周りの索敵をお願いしてもいいですか?」


「了解です!!」



 こうして、私たちは彼女に肩をしながら奥へと進んでいったのだった。



 

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