主人公になりたい悪役貴族～シナリオ中盤ボスの悪役貴族は主人公のハーレムエンドがうらやましいので、その立場を奪ってみようと思う

第29話 アルケットとクラウンの激闘

　戦いが始まって数分、現在、大苦戦中だった。

「ふん…………草薙流の使い手だな」

「ちっ」

　どんな攻撃もいとも簡単にいなされ、草薙流の剣術を使おうにもその時間すら与えてくれない。

　これほど戦いにくい相手は初めてだ。

「昔、草薙流の師範と戦ったことがあるが、今のお前の剣はその一端にも触れていない」

「口が回るやつだな」

「それに闘気の使い方もだ。たしかに制御だけはいっちょ前だが、それ以外は基礎もなってねぇ。教えてやるよ、闘気の本当の使い方ってやつをな」

「んっ！？」

　トゥルに似た圧が体全体にのしかかる。

　そして、アルケットは右手を剣のように構える。

　――――手刀だ。

「瞬光（しゅんこう）」

　振り下ろされるアルケットの手刀。それはとてもゆっくりだったが。

　次の瞬間、一瞬の光に包まれ、瞬く間に俺の体を切り裂いた。

「ぐはぁ！？」

　な、なにが起こったんだ、今。

　目を離さなかったはずだ。この目でとらえていたはずだ。アルケットの手刀を、一切、そらさずに。

　なのに、気づけば切られて…………。

「うぅ」

　運が良かったのか、肩から血を流すも動かせないほどじゃない。

　傷も深くはない。ただもしこれの一撃が心臓を狙っていたら、確実に死んでいた。

　…………いや、違う。まさか、こいつは。

「わざと外したのか」

「ふふっ、これが瞬光。どの流派にも属さず、闘気を身につけたものみが取得できる光の剣。今のは挨拶だと思ってくれ」

　瞬光、そういえば、トゥルがサラッと言ってたな。闘気を身に着けたものが覚える最初の技の一つだって。

　俺の時は時間がなかったから、闘気と草薙流を教わるところで終わったけど。

「はぁ、やっと面白くなってきたな」

　傷は浅いし、まだ戦える。瞬光も最初は油断しただけで、次はよけられると思う。多分だけど。

　問題は現状、アルケットに勝つ方法が思い浮かばないことだ。

　持久戦に持ち込むのは論外だし、だからといって剣で勝負したとしても、簡単にいなされるだけだ。

　原作通り、クララがこちら側につくとは考えられないし。

　やっぱり魔法しかないか。でも、魔法を使いすぎれば、すぐに対応される可能性が高い、魔法で決めるのなら、使いどころは見極めないといけないが。

「何を企んでも無駄だ。さっきの攻撃を防げなかった時点でな」

「やってみなきゃわからないだろうが」

　互いの剣と拳がぶつかり、激しい衝突音と衝撃波がその場の机や椅子、物などを破壊する。

　一つのミスが命取りになりかねない激しい戦いのさなか。

　アルケットのわずかな隙を見つける。

　攻撃をいなす瞬間、アルケットの足が止まり、防いだ手の反対側の腹ががら空きになる。

　あそこをうまく利用すれば…………。

「無駄だ。どんな攻撃も俺には通じないぞ！」

　火花が散り、いびつな金属音が鳴り響く。

　だが、クラウンは決して目をそらさない。ただ攻撃しながら伺い続ける。

　アルケットが見せるほんの少しの隙を。

　そして。

「何度やっても無駄だぁっ！！」

　何度目か、忘れてしまうほど激しく剣と拳がぶつかる中で。

　ほんの一瞬だけ、アルケットの足が止まり、見出した隙を見せた。

　ここだ！！

　全神経を剣に集中させ、恐れることなく一歩を踏み出す。

　しかし、それに気づかないほどアルケットの勘は鈍くなく、すぐさまクラウンとの距離を離そうとするが。

　…………遅い。

　すでに間合いの中、距離を離そうと間に合わない。

「これで決めるっ！！」

　闘気が流れる剣の一撃を食らえば、いくら闘気を纏って肉体の強度を高めても無傷では済まない。

「まだだぞ！！」

「んっ！？」

　アルケットの闘気が隙だらけの横腹へと集まり、素早く分厚い層を作り出し始める。

　間に合うのかよ！？

　ただ闘気が流れているだけの剣じゃ、この分厚い層は切れない。

　どうする、どうする！！

　俺はわずか、コンマ数秒の間に思考を巡らせた。その時、ふとアルケットが使った瞬光を思い出した。

　今、ここで俺は瞬光を身につける！！

　思い出せ、アルケットが瞬光を使った瞬間の闘気の流れ、構え、力の伝わり方を。

　コンマ数秒、意識して闘気の流れを変えると、剣が光り輝いた。

　それは闘気の流れが急激に変わったがゆえの現象であり、同時に。

　瞬光が放たれる一瞬の輝きによく似ていた。

「んっ！？」

「…………瞬光」

　その言葉を口にした時には、分厚い層ごとアルケットを切っており、そのまま後方へと吹き飛んだ。

　だが。

「ぐはぁ！？くぅ…………この土壇場で瞬光を習得するとはな」

「はぁはぁはぁ…………マジかよ」

　たしかに俺はアルケットを切った。

　だが、アルケットは血を流しながらも立っていた。

「もう少し、踏み込みが深かったら、完全に負けていたぞ」

「くぅ………」

　軽傷で済んだアルケットは清々しい顔で俺の前に立っている。

　呼吸も少し荒いが。

「もう立ち上がれないだろ。そりゃあそうさ。瞬光は光の速度で剣を振るう、その反動は大きい。習得したばっかりなら、反動もなおさら大きくなる」

　闘気を身につけたときの反動と同じぐらいに体が痛い。

　立ち上がることはできるが、戦えるかと言われれば、簡単にはうなづけない。

　ここまでか。

　窮地に追い込まれた俺は内心、あきらめかけていたころ。

「ぼ、ボス…………」

「んっ！？」

　小さなかすれた声が聞こえた。

　その声には聞き覚えがあり、思わず俺は声が聞こえるほうへと顔を向けた。

　そこには。

　クララに肩を貸すアルミナとなぜか、C級冒険者カナ・カミラがいたのだった。