第28話 アルケットの野望
二人が対面するのは必然だ。
なぜなら、この状況こそが俺の求めた結果の一つだからだ。
しかし、こうしてみると、アルケットの迫力はまさに最初にボスにふさわしい迫力がある。
大きな筋肉質な体つきに、鋭い瞳、ギザギザな歯。ただ立っているだけなのに緊張が走る。
アルケットの実力を俺は把握できていない。原作でも、ケインとアルケットの戦いは互角か、少しアルケットのほうが上ぐらいで、最後はクララがとどめを刺すからだ。
「会いたかったぜ、クラウン。まずは歓迎しよう」
「それはどうも」
この余裕な笑み、不気味だ。
何か仕掛けでもあるのか?でも、特に罠らしい罠は見当たらないし。
「そう警戒するな。それより、どうだ?ここは一杯」
アルケットはワインを一本取り出した。
「ふざけているのか?」
「つれねぇな。もしかしたら、これが最後になるかもしれねないのによ」
「アルケット、お前とゆっくり話す時間はない。俺と戦え」
剣を引き抜き、剣先をアルケットに向けた。
「ふん、せっかちな男はモテないぞ?ここはもっと余裕をもってだなぁ…………はぁ、これだからガキは」
ワインを机に置き、ゆっくりとこちらに近づくアルケットは構えるわけでもなく、なぜかあぐらをかいて座った。
な、何をしてるんだ、こいつ。
「ほら、俺は無防備だ。いつでも殺せるぞ?」
「…………何のつもりだ」
「あはははははっ!何のつもりも何もただ座ってるだけだ」
このまま剣を振り下ろせば、殺せる。
でも、そんなことをしていいのか?
「なぁ、クララはどうした?殺したのか?」
「…………いや、殺してない」
「どうして、殺さない。俺たちはお前たちの敵、つぶさなきゃいけない相手だぞ?」
「クララはお前の指示に従って動いただけだ。本当に殺されるべきは人を道具としてしか思っていないお前だ」
「ふふふっ。まったくもってその通りだ。なら、今ここで無謀な俺を殺さないのはなんでだ?今ここに!バハラを指揮るこのアルケット・バール・サタナが無防備な姿をさらしているんだぞ!これほどの好機はないはずだが?」
「それは…………」
わからない。どうして、殺さないのか。
「やっぱりガキだな。何も見えてねぇ、世界が国がどれほど腐ってるのかをな」
「ん?何の話だ」
「お前はよう、このバハラが何の集まりか、知ってるか?」
「何の集まり?」
たしかに、原作でも特にそこらへんは触れられなかったな。
「バハラはな、住む場所を失い、食べるものもなく飢え死にしそうだった奴らの集まりなんだよ」
その事実に俺は驚きを隠せない。
だってそんな設定を聞いたのはこれが初めてだったからだ。
「家族に捨てられたやつ、職を失い食べ物に困ったやつ、大切なものを失い途方に暮れたやつ、俺はな、そんな奴らに居場所を与えてやってんだ。ほら、俺って優しい。みんな、俺のおかげで今があるんだ」
「それで、その対価にお前は何を求めたんだ」
「俺の野望のための手助けだ。それ以外にあるか?まあ、それも今日で終わるかもしれねぇがな」
アルケットはうつむいた。
何の時間だこれは。まさか、時間が稼ぎか?でも、後ろから特に気配はないし、わからない。こいつが何を考えているのか。
「世界は腐ってる。誰か助けを求めても、見て見ぬふりをして誰も助けてくれやしない。それどころか、国の王は民を見放し、肥えた豚に餌をやり続ける。全ては富と名誉、そして己の幸せを守るために。そうこのプルッセラ王国みたいにな」
「んっ!?」
アルケットは思いっきり立ち上がり、俺の肩に両手を置いた。
「間違っていると思わないか…………この国がこの世界が!肥えた豚が民に搾取され、使えなくなったら捨てられる。俺は見てきたぞ、この国の闇を、世界の闇を。光の陽に照らされている世界の影で今にも飢え死にしそうな子供たちを!!
助けてを求めても見て見ぬふりをする貴族たちをな!
クラウン、お前に俺の野望を教えてやる。俺の野望はただ一つだ」
踵を返し、背を向けるアルケット。
途中で足を止めて、口を開いた。
「争いがなく誰もが平等で飢え死にしない世界だ」
「も、妄言だ」
「そうだ、妄言だ。だが、だからこそ野望となるんだ。そのためならどんな犠牲も
言葉に噓はない。
そう思ってしまった。
「もし、お前の進む道の先にそんな未来があったとしてもその過程で犠牲になる人たちの幸せはどうする?ないがしろにする気か?」
「この世の中は常に犠牲をもとに築き上げられている。犠牲なしでは成し遂げられないものだ」
「なら、俺はお前を殺すしかない。俺は今を生きる者たちの幸せを願う」
「…………まあ、お前ならそう答えるだろうな。なら、ここでクラウン、お前を殺し、そしてアルミナを殺して、まずは国家転覆を成し遂げるとしよう。少々計画が早まるが、それをもって俺の野望は新たな一歩を踏み出す!!」
アルケットの野望。
それは誰もが平等で飢え死にしない世界だった。
その野望はまさしく王が掲げるものだ。でも、俺はそのやり方を許容できない。
たとえ、その野望が立派で美しいものだとしても、それで今生きる人たちを犠牲にしていいことにはならない。
「できれば、話し合いでことをおさめたかったぞ、クラウン」
「俺は最初っから戦うつもりだったけどな」
「ふん、ならば、ついでにクララの無念も晴らすとしよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます