第27話 クラウンとクララの対決

 本拠地に乗り込むと、大勢のバハラのメンバーが立ちふさがっていた。



「予想より多い………騎士たちよ!私に続いてください!私たちが狙うはただ一人!バハラのリーダーです!足を止めず、進みなさい!!」


「「「おーっ!!!」」」



 アルミナが率いる騎士たちは目の前の敵を薙ぎ払い、進み続けたが。


 おいおい、想像以上に騎士たち強いじゃん。というか、今のところ、ただのお荷物になっているんだが、俺。


 そんな感じで、順調に奥に進んでいくが、少しずつその勢いは落ちていく。


 下に進めば進むほど、敵も強くなってるな。騎士も少しずつが減ってきているし、このままじゃあ、もうすぐこの勢いが止まる。



「…………クラウンくん、私たちが道を開けます!どうか、先へ」


「わかった」



 俺はアルミナとその騎士たちが切り開いた道を駆け抜ける。



「早い………」



 闘気をまとい、脚力を強化した速度は敵も味方もとらえるのがやっとなスピードでだれにも止められなかった。


 そんな中、一瞬、鋭い視線を感じ取り、足を止める。



「やっと来たか。待ちくたびれたぜ、クララ」



 トントントンっとゆっくりと近づいてくる音と共に姿を見せたのは完全武装をしたクララだった。


 真っ黒な黒装束を身にまとい、両手には鋭利な短剣を携えている。



「クラウン、私はあなたを殺して私の存在価値を証明する」


「そうやっていつまでも人の道具として生きるのか?」


「黙れぇ!!」



 考えさせる暇もなく一瞬で闇に消えたクララ。


 気配はない。あんなに怒っていたのに、殺気すら感じられない。


 揺さぶっても無駄だったか。でも、効いてはいるみたいだ。


 音を立てることもなく真上から現れるクララは鋭利な短剣を向けた。



「もう見飽きた」



 だが、あっさりとよけられる。


 真上を見るわけでもなく、ただちょっと体の軸を動かすだけで簡単に。



「ほら」



 そして、鋭いパンチがクララの横腹を貫き、後方へ吹き飛ばした。


 よけなかった?いや、よけられなかったのか。


 闘気を使うことで俺は強化する上限が上がり、闘気と魔法を使うことで今のクララと同じ速さと手に入れた。


 この結果は目に見えていたが、正直、想像以上。


 闘気ってマジで反則だな。これなら、魔法を使わなくても。



「がぁ!?…………はぁ、ど、どうして、わかった?」


「いや、クララは完璧だった。気配の消し方、気づかれないよう真上を取り、確実に首を狙う、考え方。その技術は素晴らしいものだが、完璧すぎたな。その完璧さが不自然さを招いた」



 まあ、ほぼ勘なんだが。


 でも、言っていることはもちろん本音だ。完璧すぎる上の不自然さ、この空間にあるはずのない違和感。


 俺はそれを真上に感じ取ったから、よけられた。



「私は負けない。私は絶対に…………」


「そこまでして、どうする?どうして、そこまでしてあいつの道具に成り下がる」


「あなたに私の何がわかるの」



 鋭い殺気が俺をにらみつける。


 わかるさ、俺はお前のすべてを知っている。そして、誰よりもバハラのボス、アルケットのことを思い、戦っていることを。



「暗殺者としての私はここまで。ここからは絶影として戦う」


「来るか」



 クララは間違いなくバハラ最強の暗殺者だ。


 だがそれと絶影と呼ばれている理由とは何の関係もないのだ。


 むしろ、絶影という証の由来は。



「早いっ!?」



 闇に紛れるわけでもなく、ただ真っ直ぐに短剣を向けて走り出した。


 ガキっン!


 短剣と剣が重なり、金属音が鳴り響く。



「んっ…………あぁぁぁぁぁっ!!」



 力はこっちのほうが上なはずなのに、俺は力負けして、はじかれた。


 さっきよりも早いうえに力強い。これが本来のクララの戦い方。



「お返し」



 左こぶしを力強く握りしめ、俺の腹に直撃。


 後方に吹き飛ばされ、何度も床に体を打ち付けた。



「いてて………意外と根に持つタイプか?」


「…………」


「マジな顔だな」



 今のはちょっとビビったけど、闘気と強化魔法による身体能力強化でなんとか軽傷で済んだ。


 だが、やっぱり最初の一発で仕留めるべきだったか?


 正直、今のクララのほうが100倍戦いずらい。


 戦い方も直線的だし、何より速くて鋭い。



「次で決める」


「なめられたもんだな」



 ふざけんじゃねぇぞ。こっちはこの時のためにたくさん修行と鍛錬を積んでるんだ。


 俺は剣を鞘に収め、腰を低く添えた。



「ふぅ…………」



 クララに次の反撃の一手を繰り出させれば、俺の負けだ。ならば、一撃で勝負をつけるしかない。


 呼吸を整え、全神経を研ぎ澄ませる。


 そして、クララが一歩を踏み出した瞬間。


 草薙流、めつの構えによる最速の一閃が放たれ、その剣速は音を置き去りにし、クララよりも速く、踏み出した時には剣先が首を捉えていた。



「んっ!?」



 それに驚くクララだが、気づいた時にはもう遅かった。


 踏み出した一歩は勢いのままに前に進みだそうとする中、クララの脳は彼の一撃をよけろと警告する。


 防ごうにも間に合わない間合いで。


 私の体は彼の一撃へのほうへと向かっていく。



「まだ、負けてない!!」



 次の瞬間、眩い光がクララを中心に光り輝き、俺は後方へと吹き飛ばした。



「くぅ、なんだ今のは…………」



 これもクララの技か?でもこんな技を俺は知らないぞ。



「はぁはぁはぁ…………」



 光が消えるとクララはボロボロになりながら膝をついた。



「うぅ…………私はまだ戦える」



 ゆっくりと膝を上げ、短剣を構えるが、その時点で俺は察した。



「あきらめろ、クララ。お前の負けだ、その体じゃ」



 ゆらりゆらりとこちらに近づいてくるクララの目はまだ殺気をまとっていた。



「そこまでして、まだ道具としての価値を見出みいだしたいのか、クララ。お前は…………」


「私にはボスしかいない。ボスだけが私のすべて。だから、私がボスの野望を叶える!!」



 俺がよく知るクララと今、目の前にいるクララ。


 ふと思うのが本当に同一人物なのかということ。


 今までいろんな登場人物に会ってきたが誰もが少しだけ俺のイメージとずれていた。



「そうか………」


「んっ!!」



 俺のところまで近づくとクララは短剣を振り上げる。


 そして。


 カランっと短剣を落とし、バタッと俺の胸に倒れこんだ。



魔力暴発まりょくぼうはつ。あの光は魔力を内側から爆発させた光だったのか」



 果たしてクララを救うということがボスからの解放を意味するのだろうか。


 わからない。でも、俺には目的があって、クララには幸せであってほしい。


 じゃなきゃ、俺の思い描くハーレムエンドじゃないし、主人公だってケインだって、そう思うはずだ。



「これが最善の選択なのかは分からないが、俺は前へ進む。そしてお前の大切な人を殺す」



 何が正解なのかもわからない。でももう立ち止まることもできない。

 

 俺は覚悟を決めた後、クララを寝かせた。



「クララをハーレムに加えるのはやめだ。でも、前には進ませてもらう」



 この展開を俺は知らない。クララはボスの道具として扱われるが、ケインによって目を覚まし、最後は自らの手でボスを殺すのだが。


 この状態ではまず、立ち上がることすら難しいだろう。


 薄々とわかってはいた。原作とのずれ、最初は気にしない程度だったが、それは少しずつ大きくなっていることを。


 今から軌道修正するのも難しいだろうし、やっぱり、俺じゃあ、主人公にはなれないのか。


 このクラウン・アルドリヒじゃ。



「お、お父さん…………」


「んっ!?」



 クララは悲しげにこぼしながら一粒の涙を流した。


 この世界は俺の知らない設定がある。それは文字だけでは決して伝わらないもので、果たして俺の知る原作小説【ケインの英雄日記】の中でクララは救われたのだろうか?


 本当にケインに救われて、ハーレムの一員になったのだろうか。


 俺は膝を折り、クララの涙を拭った。



「全部憶測だな、でももう後戻りはできない」



 そうだ、今さら考えたってもう選択肢は一つしかない。


 俺は立ち上がり、まっすぐと進みだす。


 何もない道を歩き、ついに大きな扉の前に到着する。



「ここだな」



 ガチャっと扉を開けると。



「待ってたぜ、クラウン」


「アルケット・バール・サタナ」



 こうして、俺はバハラのボス、アルケット・バール・サタナと対面したのだった。




 

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