第26話 アルミナの抱える恐怖と不安、そしてバハラの本拠地へ

 時間は一瞬で過ぎる。


 夜7時半ごろ、王都プリスタリアの南門に10人ほどの騎士を含めたグルタとガンダ、そして完全武装をしたアルミナが集まっていた。



「バハラの本拠地はここから少し先にある遺跡の地下です。みなさん、心を引き締め、油断しないようにお願いします。それではいきましょう」



 南門を通り、俺たちはバハラ本拠地へと出発した。


 少し歩いたところでアルミナはそっと俺の隣に近づいた。



「クラウンくん」


「んっ!?び、びっくりした。なんだよ」


「少し、聞きたいことがあります」



 真剣な表情を向けるアルミナ。


 もうすぐ、バハラの本拠地だって言うのに一体、何が聞きたいっていうんだ。



「どうして、私の目的を知っているんですか?」


「…………ん?なんのことだ?」


「とぼけないでください」


「…………」



 待て、待て、待て!何のことだ!俺、なんか思わせぶりな発言したか?


 俺はアルミナから視線をそらし、斜め上に向けた。


 そして、ちょっと思い出してみると。


『…………いいか、アルミナ様。あんたは王女様なんだ、堂々としていろ。じゃないと王様になんて夢のまた夢だ。じゃあ、また夜に集合場所で』


 あ、ちゃんと言ってるな。


 思い出した俺はさっと血の気が引き、背筋が凍った。



「なんで、黙るんですか?」


「あ、いや…………」



 そりゃあ、知ってるよ。だって俺、基本的に重要な部分は全部覚えてるし、アルミナが王位を狙っていることぐらい、ファンとして当然知ってますよ!!


 だが、これは完全に俺の落ち度だ。


 どうしよう。誤魔化すか?でもアルミナなら簡単に見破りそうだし、下手に噓をつくのは危険すぎる。


 だからといって、知っていた理由が転生者で実はこの世界って原作小説の物語の中なんだよねぇ~なんて言えるわけがない。


 …………そうだ、ここは。



「王族は王位を狙うものじぁないのか?」



 どうだ、この完璧な理由は!


 それを聞いたアルミナはきょとんした顔でそっと目をそらした。



「…………なるほど、そういうことにしておきます」



 これは、完全にはごまかせなかったな。でも、深く追求しないあたり、それなりに信頼されている?もしくは今は深追いするべきじゃないと判断したかだが。


 まあ、このイベントが終われば、すぐに移動するつもりだし、その時に考えよう。


 それに今はクララとの戦いに向けて心構えをしておくほうが重要だ。



■□■



 私はたぶん、人生の中で一番緊張しているかもしれません。


 プルッセラ王国、第二王女アルミナ・プルッセラ。


 彼女は才女だった。


 剣術や魔法は教わればすぐに身につけ、政治経済や歴史、言語、王族の振る舞いなど学んだことは何でも吸収する。


 そのひいでた才能は周りの兄弟たちに嫉妬されるほどだった。


 でも、そんな私は今までほとんど緊張したことがなかった。


 だって、失敗しないように常に物事を考え、行動し、確実なものにしてきたからだ。


 でも今回は違う。私だけの力じゃ、どうにもできなくて、クラウンくんに頼ることになってしまった。


 こんな状況は初めてで、すごく怖い。この先に何が起こるのか、私のこの決断で何人が死ぬのか、いったいどんな結末が待っているのか。


 怖くて怖くてたまらない。


 表には一切顔に出さないアルミナ。


 そんな中、クラウンがそっと声を掛けた。



「アルミナ、昨日言ったこと、覚えてるか?」


「…………?」


「堂々としていろって言ったんだ」


「私は堂々としています」


「いや、表に出てなくてもお前の顔に全部、出てるぞ」



 その言葉に私は一瞬、動揺した。



「いいか、アルミナ。よく聞けよ。

お前はこの数少ない騎士団を指揮るリーダーだ。

姿勢、仕草、振舞い、視線、表情でお前についてきた騎士たちに影響を及ぼすんだ。お前がそんなんじゃあ、せっかくついてきて騎士たちが不安になる。

だから、堂々しろ、虚勢を張れ。

王になるんだろ?なら自分のことぐらい騙し通して見せろ」


「クラウンくん」



 やっぱり、クラウンくんにはカリスマ性がある。


 でもそれは王が持つカリスマ性とは少し違っていて、とても暖かくて頼もしい。


 まるで太陽のような存在。


 私は未知の体験に恐怖している。でもこれはいずれ、王になるうえで経験しなくてはいけないこと。怯えている場合じゃない。


 それにきっと私についてきてくれるみんなも不安なはず。


 だったら、少しでもその不安を払しょくできるように私が堂々としていないと。


 そう、私は王になる。そして私の夢をかなえるんです!



「そ、そんなことわかっています」



 アルミナが足を止めると、後ろについてくる騎士たちも足を止めた。


 そして、アルミナは踵を返し、騎士たちに顔を合わせた。



「騎士のみなさん、聞いてください。もうすぐ、バハラの本拠地に到着します。

逃げるならここが最後になります。

…………正直に言うとこの戦いは五分五分の戦いです。きっと死者が出るでしょう。それでもいいというなら、私を信じるというのなら、どうか、私を信じてついてきてください。

そして、私と一緒に戦ってほしい。すべてはプルッセラ王国のために、そしてみんなのためにっ!」



 真剣な眼差しでアルミナを見つめる騎士たちは、ゆっくりと心臓あたりにこぶしを当て、膝をついた。


 それは王に対して使う忠誠の誓いだった。



「アルミナ様、我々はすでにご覚悟はできております。どうか、己を貫いてください」


「そうです!我々は常にアルミナ様の矛と盾!」


「アルミナ様が望むならばこの命、燃やし尽くしましょう!」


「全てはアルミナ様のために!」



 騎士たちの声にアルミナは驚くも、気を取り直して。



「ありがとう…………ではいきましょう。バハラの本拠地へ。そして、ここでバハラを潰します」



 気づけば、アルミナの表情が元に戻っていた。


 どうやら、調子を取り戻したようだが、実はこの場面、原作にあるイベントの一つだ。


 アルミナがバハラの本拠地に攻め込むとき、アルミナは今までに感じたことない重圧に押しつぶされ、恐怖するのだが、ケインが声をかけて、アルミナが一歩を踏み出す勇気をもらう。


 といったイベントでこれがきっかけでアルミナが主人公ケインに惚れることにもなる。


 この状況はもしかすると、とは思っていたが、ちゃんと大筋の内容は沿ってストーリーは動いているようだ。





 アルミナの言葉で騎士たちは活気づいたところで。


 いざ、攻め込もうと動き出すとアルミナは小さい声で。



「クラウンくん」


「なんだよ」



 ほんの少しの間、頬を赤らめながら何か言いたげに見つめ。


 そっと口を開く。



「ありがとう」



 威厳のある性格とは裏腹の優しい満遍な笑顔。


 …………やっぱり、アルミナは正真正銘のヒロインだな。


 その可愛さに心を打たれるも気を取り直し。



「何のことだか、さっぱりだな。だが、その感謝の言葉、受け取っておく」


「クラウンくん、もし無事に帰ってこれたら…………いえ、なんでもありません」


「…………そうか」



 こうして俺たちはバハラの本拠地へと乗り込むのであった。


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